難民調査官の研修資料から考える難民認定手続のあり方②「難民認定手続」
はじめに
この記事は、出入国在留管理庁に対して私が行った行政文書の開示請求で入手した資料をもとに日本の難民認定手続、または難民の受け入れについて考ていこうというものです。
資料そのものはアップロード済ですので、是非見ながら読み進めてもらえたらと思います。
なお、この記事は以前あげた記事の続編となります。前のの記事を読んでいなくても分かるように書くつもりですが、興味のある方は前回の記事もよろしくお願いします。半分くらい無料で読めて、途中から有料(100円)となっています。
さて。
日本は難民条約に加盟しており、難民が助けを求めた時には、政府には難民を庇護する責任があります。
ところが実際には日本はほとんど難民を受け入れていないません。
それはなぜでしょうか?
日本は島国だから陸路ではたどりつきにく、過酷な状況におかれているはずの難民は普通、飛行機や船にものれない。だから日本に本当の難民はまず来ないと主張をする人もいます。
つまり、そもそも日本に難民がほとんどいないので、当然受け入れも少ないという主張です。
しかし私の意見は違います。
日本は多くの難民を拒絶しているのです。
どのようにして難民を拒絶しているのか、大きく3つの観点から考えていきたいと思います。
①難民の定義を極端に狭く解釈している
そもそも難民とはどんな人たちでしょうか。
入管法(正式名称を出入国管理及び難民認定法といいます)の第2条三の二にはこうあります。
ごちゃごちゃ書いてありますが、ざっくり言ってしまうと、難民条約に書いてあることに準じますよってことです。
(「難民の地位に関する条約(1951年)」と「難民の地位に関する議定書(1967年)」をまとめて通常「難民条約」と呼びます。)
では、難民条約にはなんと書いてあるのか。読んでみると、もっとごちゃごちゃ書いてあってよくわからない上に、地位に関する条約やら議定書やらと、とにかくわからない。そこでUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のホームページの説明を引用してみましょう
入管庁としても、似たような定義を示しています。
入管の解釈に沿ってまとめると、
①人種
②宗教
③国籍
④特定の社会的集団の構成員であること
⑤政治的意見
を理由に
❶迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ために
❷「国籍国の外にいる者」であって、
❸「その国籍国の保護を受けることができない、またはそれを望まない者」
となります。
注意したいのは、挙げられている5つの理由の中に「戦争」が含まれていないことです。
だから日本政府はウクライナ「避難民」を受け入れているのであって、ウクライナから逃れてきた人を法的な意味での「難民」と捉えていません。
ウクライナ人は「国籍」を理由にロシア軍に迫害される十分に理由のある恐怖を有していおり、国籍国(この場合はウクライナ)の保護の保護を受けることができるかどうかも戦況次第で不安定でしょうから、難民と考えてもよいと私は思いますが、日本政府の見解は違うようです。
しかしウクライナ人を受け入れなければ国際的な非難は必至です。そこで政府は入管法を改定し、わざわざ「保管的保護」という枠を設けウクライナ人を受け入れられるようにしたのです。保管的保護制度は2023年12月から施行されました。
日本がいかに厳格に難民を定義しているか、この一例でもご理解いただけるのではないかと思います。
②個別把握論
またまた難民支援協会のホームページからの引用となりますが、こういう事例が紹介されています。
反政府的な言動を繰り返し行なった、デモに参加した、改宗をした、性的指向や性自認についてカミングアウトといったことで、政府ないし社会から迫害を受ける、その危険を強く感じることは十分にありえることです。また、ロヒンギャや、ウイグル、クルドなど、民族としての差別・迫害も無視できるものではありません。ところが、上記のシリア出身の男性の例では「異議申立人固有の危険性」ではないと断じています。
もっと「客観的な」証拠、例えばその人個人に対して逮捕状が出ている、政府内部の資料が出てきたといったことで、具体的な暴力が明らかになって初めて「政府から迫害される危険がある」と認定するということのようです。逆に言えばそのくらい「個別把握され、狙われて」いないかぎり難民と認めない論理のことを「個別把握論」と呼んでいます。
もちろん、どんな国のどんなデモであっても参加したといえば認めろというわけではありませんが、国の状況とデモの内容を照らした上で、場合によっては参加したことが事実であれば難民と認定して良いケースもあると思います。
また、ある地域ではある民族が迫害される可能性が高い地域の出身者などは、その人がその民族であるという証明だけで難民認定を行ってもいいケースは存在すると思います。
個別把握論は、難民の定義でいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」かという点を非常に狭く解釈していて、「本当に」命が危険でなければ保護しないという考え方でもあるといえます。
③「灰色の利益」
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は難民認定の指針として「難民認定基準ハンドブック」というものを出しており、その中で「灰色の利益」というものが謳われています。
難民というのは出身国の政府から命を狙われているというのが一般的ですから、脱出も命懸けです。そんなときに例えば自分自身の身分証などを持っていると危険な場合もあり、場合によっては偽装パスポートなどでの出国を余儀なくされるでしょう。そのような人に「難民である客観的な証拠を出せ」というのは酷というものです。そこで、この灰色の利益、「疑わしきは申請者の利益に」です。
入管はこの原則を無視、あるいは軽視しているのではないでしょうか。
この3つの観点は実際に資料を見ていく際に重要なポイントとなりますので、是非覚えておいてください。
難民調査官の研修資料を一緒に読み解いて、適切な難民認定とは何かを考えるきっかけになったら嬉しいです。
第一回新任難民調査官研修「難民認定手続」
この資料は、36枚のパワーポイントのスライドから成っています。
3部構成になっており
Ⅰ はじめに
Ⅱ 難民の定義
Ⅲ 難民認定手続
という構成になっています。
表紙や目次のスライドは飛ばして、4枚目のスライドから見てみましょう。
難民とはから始まり、広義の難民として
政治難民、経済難民、避難民、流民、亡命者、政治亡命者、インドシナ難民、第三国定住難民 等
と「難民と言えば」というものが列挙されています。
その上で「入管法上の」難民とは区別されるというような説明でしょう。
前段部分を「広義」の難民としていることから、入管法上の難民は列挙された難民をすべて含むものではないということが分かります。
つづくスライドは、難民条約について概説となっています。
第2次世界大戦のあとに発生した難民への対処という文脈(難民の地位に関する1951年条約)、そしてその後も紛争や迫害は続き、難民議定書によって第二次世界大戦のヨーロッパに限定しない形に一般化された歴史(難民の地位に関する1967年議定書)が説明されています。
7枚目は、「参考」としてUNHCRの説明がなされています。
ここで押さえておきたいのは、難民条約の目的です。なぜ難民を保護しなくてはならないのでしょうか。
難民条約の前文をみてみましょう。
信じられないくらい分かりにくい文章ですね笑
簡単にいうと
①どんな人にも人権はあるはずだよね。(国連憲章と世界人権宣言)
②難民問題は国連も今まで頑張ってきたけど、
③各国にも手伝って欲しいから協定が必要だと思う。
④特定の国に難民が集中しないようにみんな協力ほしい。
⑤でないと難民問題が新たな紛争の火種になるかもよ
⑥UNHCRが見てるってことを気に留めてもらった上で、みんなできょうりょくしようぜ
という感じでしょうか。意訳がすぎるかもしれませんが。
ここから、難民の保護の目的を2つ導きだせると思います。
ひとつは、基本的人権の尊重。迫害をうけたり、殺されたりしない権利なんかを守りましょうということです。
ふたつめは、国際協力です。紛争や迫害によって発生した難民は、大抵は隣国に流れ込みます。大量の難民への対処が追いつかずその隣国が疲弊すれば新たな分断が生まれ、新たな迫害・紛争の火種になります。
基本的人権の尊重と受け入れの負担の分散というのが、難民条約の目的と解釈できます。
さて、これを受けて日本の入管法(出入国管理及び難民認定法)は難民受け入れの目的をどのように法文に盛り込んでいるのでしょうか。
お分かりでしょうか。「“出入国管理”及び“難民認定”法」という名前ではありますけれど、出入国管理については「外国人の在留の公正な管理を図ること」が目的であるのに対して、難民認定については単に「難民の認定手続を整備」としか言及されていないのです。
ただし、入管法の第61条の2の15、2号にはこうあります。
難民調査官が難民条約の趣旨及び内容に関する知識を求められるのならば、入管法は難民条約の趣旨・目的を共有すると考えてよいのではないかと思います。
途中ですが投稿させていただきます。
読みづらい点も多いかと思いますが創作の過程を楽しんでください
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