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読書20250222「とるに足らない細部」

パレスチナやガザのニュースに毎日胸を痛めている人は多いでしょう。ただ爆撃や略奪がなくても、そこに住む人々を苦しめるものはたくさんあります。「とるに足らない細部」はパレスチナ出身の女性の作家(ベルリン在住)が書いた本です。

前半は、第2次世界大戦直後、入植地拡大でエジプトと戦っているイスラエル軍の部隊が、ベドウィンの少女をレイプした後殺害してしまった事件について、その部隊長の目から描いています。酷暑の砂漠でだんだん精神的に追い詰められていく様子が詳細に書かれています。
後半はその事件の四半世紀後、たまたま同じ日にパレスチナのラマーラ(キリスト教の街)で生まれた女性が、事件のあった時のことを書いた記事をみて自分も詳しく知りたいと思い、イスラエル側の地域に入っていく話です。パレスチナ人がいかに行動の自由を抑制されているかが、やはり詳細に描かれています。

まず彼女の持っているパスでは事件のあったところや、その博物館に行くことが(事実上)できません。そこにいくことができるパスをもっている職場の知人からパスを借り、(本当は許されないが、気がつかないだろうということで)、他の職場の知人にレンタカーを借りてもらいます。彼女は検問所で止めらないか不安に思いながらレンタカーを走らせます。名前を聞かれれば最初に思いついたヨーロッパ系の名前を答えながら、後ろを振り返りながらハンドルを握る様子がとても細かく描かれています。
昔はそうじゃなかった・・・彼女が小さい時はここに来ることができたと思いながら、当時は多くの美しい村があったのに全て潰され、自動車道になっていて、イスラエルの新しい地図を見直し呆然とします。

これを読みながら、やはり別途読んだ本「人間がいなくなった後の自然」を思い出しました。この本は紛争とそれによる分断、原発事故などによって立ち入り禁止になった場所、人々が単に捨てた島などに訪問しその様子を描いているもので、いくつか紛争によって立ち入りができなくなり、今は野生に還った村々が描かれているのですが、これらをみて筆者は「都市と都市」と言うフィクション小説のことを口にします。分裂した架空の国家が舞台で、両方の国民は、相手の国を「みない」ようにして生きているのだそうです。国境線は入り組んでおり、通りすら共有しているのに、人々は相手の国民を避けなければならないためです。そんな国の束縛された人々の生活について描かれているそうですが、そのような場所が源氏的にあるとしたらそれはパレスチナなのかもしれません。

今日本人は、21世紀の地球では、行きたいと思えばお金を出せばたいていのところには行けるものだと思って生活していると思います。しかし紛争の砂漠の国ならともかく、ウクライナやロシアのように旅行で行っていた国ですら、ある日突然いけなくなります。

パレスチナに暮らす人の思いは、日本人に理解するのはとても難しいけれど、この本はぜひ多くの人に読んでみてもらえたらと思いました。




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