ブレイシングは代償動作
スポーツで脱力するのが難しい理由
スポーツで脱力するというのは、必要な部分には力を入れたまま、必要でない部分は力を抜くことです。すべての力が抜けてしまうと立っていることすらできません。
この不要な部分のみ力を抜くことは、力を込めることよりも相当に難しいものです。
大きく分けると、脱力できないケースは2つあります。
1,余計な力が入っていることに選手本人が気がついていない。
2,力んできる自覚はあるのだけれど脱力することができない
1の場合は、無意識に筋肉を力ませているので、選手本人には力んでいるという自覚が無く、コーチなどに指摘されて初めて力んでいることに気づきます。自覚が無いのだから脱力することはできません。
ダイエットに例えるなら、自分は太っているとは思っていない(痩せていると思っている)ようなもの。ダイエットする気にすらならないわけです。
2の場合は、自分が力んでいるという自覚はある。しかし力を抜こうという気持ちはあるのに抜くことができないのは、いくつか原因があります。
例えば、精神的な緊張(試合のプレッシャー、コーチに見られているなど)で息を吐ききることができずに呼吸が浅くなっている。
他には、脱力してしまうと必要な部分の力も一緒に抜けてしまうので力を抜くことができないなどがあります。
体幹が弱いと脱力できない
体幹を安定させるということは、どんなスポーツにおいても重要な要素で、競技力の高い選手は例外なく体幹が強いものです。
体幹を安定させる基本はドローインと言われる腹横筋の収縮で、腹式呼吸で息を吐くときに使う動きです。
この腹横筋の収縮は筋力的には弱いものなので、実際のスポーツでは腹横筋の強化と共に、息を止めたり、他の筋肉を使ってより強く体感を安定させるブレイシングをここないます。
固い瓶の蓋を開けるときに、息を止めて、歯を食いしばり踏ん張って全身の力を集めるのがそれです。
ボート競技の場合、キャッチからドライブの瞬間に息を止めて、グッと踏ん張るときの感じです。
ブレイシングは代償動作
私はこのブレイシングは、体幹を安定させるための代償動作だと考えています。
代償動作というのは、筋力が弱かったり、痛みがあって動かせないなどの部位があると、人は無意識に別の似たような働きの筋肉を使って、同じ動作をすることです。
例えば、足首を捻挫して足が付けない状態であっても、人はびっこを引きながら歩きます。
また人差し指の指先を怪我したときは、代わりに中指と親指でものをつまみます。
普通ブレイシングは、腹横筋で体幹を安定させたうえで、さらに体幹を強く安定させるために、他の部位の筋肉を協力的に使うことです。
しかし、腹横筋の収縮やコントロールがうまくできない選手の場合、体幹を安定させるのに、腹横筋以外の筋肉を収縮させるのです。
実際、手の平を力強くを握りしめると、お腹がギュッと固くなります。ただそうすると、腕や肩周りにも力が入ってしまいます。
肩腕の力を抜こうと、握りしめをやめるとお腹の力も抜けてしまいます。
私はこの体幹に力を込めるために筋肉を使う代償のことを体幹のスイッチと読んでいますが、奥歯を噛みしめるは、体幹のスイッチの代表です。
ボート競技の場合は、グリップの握りしめや、肩の力を力を抜くために、まずは、腹横筋を中心として腸腰筋、骨盤底筋などでベースとなる体幹を安定させることができる筋力とコントロール性を身に着けたうえで、体幹のスイッチを適時に働かせることができるようになることが理想だと考えます。