ジャッジのジャッジメモ
ジャッジのジャッジを書くときにとったメモを整形しました。以下に当時の個別のメモを公開します。加筆もしています。
ジャッジのジャッジ、難しかったです。主観を提出する覚悟が求められました。ジャッジしてくださったみなさんに重ねてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。(2021.11.16)
追記:構成と校正と点数集計とを、最も信頼する人間のひとりである迂回経路(@keidokaii)氏に手伝っていただきました。氏がいなければジャッジのジャッジ評を書き上げることはできませんでした。この場でお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。(2021.11.19)
評価・採点基準
・ジャッジ評のみを対象とする 外部で掲載された補足や追加項目などは参照しない
項目1.評価基準が明示してあるかどうか 明示してあれば◯、さらに点数のつけ方がわかれば◎ 上から順につけていった・または具体的な基準は用いず好みでつけていった場合でも、それを明記してあれば◯、作品間で比べてどこを評価して加点・減点をしたかが明記されていれば◎
項目2.印象や技術に言及するとき具体的に該当箇所を示しているか 抽象的な印象に言及するときなどはその印象を受けた原因と思われる具体的な箇所を挙げているか
項目3.ジャッジなりの読みを展開していれば◯ 作品の具体的な箇所を述べるなどしてその読みに説得力を持たせていれば◎ 私の主観で読んでいてよく分からなかった部分やもう少し詳しく聞きたかった部分がない評だと◎になる (そんなんみんな各ジャッジなりの読み展開してない?)(項目2とまとめられないか?)
3つの評価項目に2点ずつ割り振り、△=0,◯=1,◎=2として1点(0)、2点(1-2)、3点(3-4)、4点(5)5点(6)で点数つけようかな……満点で5点の人は私が勝ち抜けを決める 主観で だって主観だもの……
(項目1:「評価基準は無く、好みで採点した」、と明言してある場合も、「個人の好みで評価を行う」と明記していることから、1の項目を満たしたことと見なす。個人の好みで評価を行ったジャッジについては、評内で各作品の点差の説明がされている場合に2の項目を満たしたことと見なす。)
↑最終的な採点はこの方法では行いませんでしたが、以下のメモ書きの段階では各ジャッジがこの方法で仮採点されています。各ジャッジの名前の後につけられた△◯◎は、それぞれが前から項目1、項目2、項目3の評価に該当します。(2021.11.16)
個別メモ
(以下敬称略)
青山新 ◎◎◎
尖ってはいるがわかりやすい採点基準 「幸せな郵便局」評の「視覚の不完全性」に焦点を当てる読みや「成長する起案」評の「原稿用紙」への連想など、ジャッジ独自の読みが提案され、その際に作中の描写を根拠として述べられている 面白かったし読みやすい 5点
阿瀬みち ◯◯◯
評価基準が明記されている コンパクトにまとまっていて読みやすい 「夏の甲子園での永い一幕」評の「比喩としての言葉が現実の意味合いを帯びて近づいてくる。作品世界で言葉の意味する境界はぼかされ乱され続ける。」部分は、作中の境界がぼかされているとされる言葉から一例を挙げてその揺らぎを説明してみてほしかった 面白そうなので 「視点人物の能動的な行動により変化が訪れる作品により高い評価を下した。」←これは気になる点というより単純になぜだかがわからなかったのでもう少し詳しく聞いてみたい 視点人物の能動的な行動により変化が訪れるストーリーラインがそうでないストーリーラインよりも良いものとして価値づけられ、その価値判断についての注釈はついていないが、これは一般的に前提とされている価値づけなのだろうか それとも評者の中の価値づけなのだろうか 私が定石を知らないだけのような気がする
遠野よあけ ◎◎◎
評価基準も宣言されているしジャッジ本人の読みも表明されている 点数のつけ方は具体的ではないが最初にそのように宣言している 自分は自由にやるぞと宣言したうえで自由にやっているのが伝わってきて面白かった 無慈悲ファイトクラブのくだりは最初誤読してしまった 好みでつけている以上好みで比較して点差をつけるのでこの作品は結果的に2点になってしまった、無慈悲、という話だと思うのだが、それを無慈悲とはこういうことだぜ、好みじゃないので2点、ファイトクラブですからね、というふうに一瞬読んでしまった ら違った
大江信 ◎◎◎
評価基準、採点基準が明記されている 「小さなリュック」評の締めの、これがあれば更に良いとされていた「空白」についてはもう少し詳しく聞いてみたかったところ 「沼にはまった」評の「断言しよう。」という書きだしには「この説を提示しよう」という意気が感じられ、その読みに至った根拠も具体的に示されており説得力があった これくらい断言されると面白い
鞍馬アリス ◎◯◯
評価基準は評者の感じた面白さ、期待感 点差の説明は各評末にあり丁寧 「洗濯機に5年という表示が記されているという点は非常に面白いのですが、その面白味が殺されてしまっているような気がしてしまい」←ここをもう少し詳しく、何に殺されてしまっていると思ったのかの説明が聞きたい メモ:「パンチが弱い」という評が2度出ている 読みやすい
ジャッジのジャッジに関係ない感想:「なら主人公の家族はどうなんだろうと思ってしまったところがあって、諦めるにはまだ逃げ道が完全に塞ぎきれていなかった」←これは知人が助けてくれない部分に圧縮されているのではないか、家族を数に入れていないことも視点主の造型描写のひとつとして数えられるのではないかと思った
樋口芽ぐむ △△△
評者の好みを評価基準としてジャッジを行ったようだが評価基準への言及が無いので断言できない グループB総評に見られるような評者の発見が面白かったのでこれを各作品ごとの読みでも見せてもらいたかった
小林かをる △△△
書き手の興味の方向がわかる文章 素晴らしい抱負だと思うが、あらかじめ抱負を表明する場も与えられていたことから、この文章はそちらで読みたかった よくわからない、という感想が目立つが、批評文であれば、よくわからない部分についてそれがなぜどのようにわからず、またわからないことが作品の完成度を問うときに問題となることを証明する必要があるのではないか
冬木草華 ◎◎◯
評価基準について、それを用いないことや良さを感じた部分に点を与えることを明記している 丁寧に説明されていると感じた また、総評で個々を比べて勝ち抜けの理由をつけている 「バックコーラスの傾度」評の「こしらえものはこしらえものに過ぎないということか。」の部分の文意が取れなかったのでもう少し詳しく聞きたい 視点主の自意識の話だろうか
由々平秕 ◎◎◎
評価基準、採点方法が明確に示されている 問題点を具体的に指摘し、その点の是非を問う必要があることについての根拠を示す説得力もある と思う 言い当てられているように思ったので、このメモを書いている時点では冷静になって他作への言及を読む状態にはなっていない 恐ろしい……
笠井康平 ◯◯◎
評価基準についての説明はわかりやすいが、基礎点「やさしさ」以外の技術点「遠さ」、構成点「広さ」、素材点「深さ」の項目についても構成の内訳を示してもらいたかったところ このあたりはもしかしたら補足があったのかもしれないが今回はジャッジ評のみをジャッジ対象とした 個々の評の読みは明確で説得力があるように思う 「副詞や形容詞をしっかり削り、」(「明星」評)や「構成要素がなおざりになっている」(「爛雪記」評)、などの添削寄りの言及部分は、作中から具体的に引用をしてあればより納得がいったと思う
ジャッジのジャッジに関係ない感想:「カニ浄土」の特定の先行作に言及している評がない、という呟きを見たが笠井氏のこの評で触れられていないだろうか
寒竹泉美 △◯◯
愛と変態度で測っていくと明記されているが、その後の個別評に個々の愛や変態度についての言及がない これは聞きたいところだった 「物語を文章で伝えようとするのは、限りなく無謀な行為だと思う。」〜略〜「その難しい行為をわざわざやろうというのだから、書くやつも読むやつもみんな変態に決まっている。」という箇所から、伝える技術や熱意のことを変態度として判定しているのかと読んだが、合っているのだろうか 「爛雪記」評の「これらの言葉でないと表せないことはたくさんあると思う。でもこの言葉じゃなくても表せたこともあると思う。」の指摘については、「この言葉じゃなくても表せた」と思った言葉のうちの一例だけでも作中からの具体的な引用が欲しかった
ジャッジのジャッジに関係ない感想:「お節」評の登場人物の名前に関する指摘には同意できなかった 一人称視点で語られる作中で、登場人物の全員がニュートラルに名前呼びをされていることに意味があると受け取った あだ名をつけたり〜君と呼んだりしないこと、ここには視点主の周囲の人間への冷徹な視線や心理的な距離が表されているのではないだろうか なんていうかこの視点主はそういうことをする人じゃないんじゃないだろうか
鯨井久志 ◎◎◎
評価基準が説明されているし、点数のつけ方も明確 とくに「カニ浄土」評での方言の異化効果についてのコメントは重要な指摘だと思った 各評ごとに評者が思う長所短所について具体的に説得力をもって書かれており、読んでいて面白かった