映画「カメラを止めるな」は見てはいけない
にわかに有名になってきたゾンビ映画があるらしい。その名も「カメラを止めるな」。題名だけ聞いてもよくわからない。
わたしの見る映画はもっぱらコテコテのアクションか湿っぽい恋愛ものをたまに見るくらい。映画なんて気が向いたときにしか見ない。映画の評論なんてしたことも無いしする気もこれっぽっちもなかった。
しかしひょんなきっかけでこの映画を見てしまった。そしてこの映画は絶望、驚愕の念を禁じ得ない内容となっていることが判明し、わたしの強い正義感をもって、まだ見ぬ皆さんに事実をお伝えしようと決心しこの記事を書いている。前もって断るが多少(読み返すとかなりの!)のネタバレを含んでいる可能性があることをご了承願いたい。興行収入でもランキング入りを果たし、飛ぶ鳥を落とす勢いだというこの映画。
警告しよう、この映画は残念ながらこれまでの日本映画の概念を覆すものだ。
結論からいう。この映画は絶対に見てはいけない。
そういえば先日この映画を観たという人がいた。彼は興奮しながら、絶対見るべきだと言い放った。どんな内容だと聞くと全くと言っていいほど内容を詳しく教えてくれない。しかし彼は熱っぽく何度も繰り返す。ぜひ観に行くべきだと。残暑にあてられたのかゾンビになったのかわからないが彼は一通り内容のない話を終えて満足そうにうなずいている。きっとゾンビになってしまったのだ。
前置きは長くなったが、この映画の冒頭には「絶望」という言葉がとてもよく似合っている。人間がゾンビに征服されて「絶望感」を感じるような簡単な絶望ではない。その内容の薄さに「絶望」したのだ。
わたしが考える映画の冒頭とは、映画のもつ世界観を静かに提案して今後のストーリー展開を示唆し、イメージを掻き立ててくれる非常に重要なシーンだ。それがこの映画はどうだろう、見るものすべてを絶望に陥れる内容となっている。簡単にまとめると2点だ。
まず1点目、全くと言っていいほど知名度のないキャストたちがゾンビゾンビと騒いでいるのを目の当たりにしたとき、これにはゾワッと鳥肌が立った。だ、誰だ。
それを考えるためのいいネット記事があった。この映画の制作費用は300万円あまり。しかもクラウドファンディングで制作費用の一部を調達して制作されたのだというなんとも涙ぐましく貧乏っちい映画だったのである。(グーグル先生によると邦画の平均制作費は5000万円前後だそうだ。また制作費用ランキングというものを教えてもらうと、これまでのナンバーワンはパイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド。その額なんと340億円を上回っている!)
なるほど、このまったく観たことのないキャストの人たちが出ている理由。ギャラを払うお金もないので、やる気があって多少マシな演技ができ、言うことを聞いてくれそうな売れない役者を捕まえてきて血のりを塗って立たせているんだなと悟ることは容易だ。間延びする演技、変わり映えしない背景、古くてダサいカメラワーク(がちょーん、のやつ)。いろいろと納得がいく。あくびを噛み殺しながら、次のシーンは派手な血しぶきくらいは頼むよと心の中でつぶやく。
2点目、観るものを呆れさせるくらい単純な脚本。
「金がないなら知恵を出せ。」現実世界で予算がないとき、お上のものが決まって偉そうに言う言葉だ。しかしお金がいくらあったとしてもいいものができないこともあるため(コケた映画もたくさんあるだろう)、多少の説得力は感じている。オーケー、お金がないのはわかった。どんな知恵をつかってわたし達を魅了してくれるのか。
少し中身に触れておこう。この映画は1カットからなるゾンビ番組(生中継)を撮影しているキャストやスタッフを一歩うしろから撮影したものになっている。ゾンビから追い詰められるヒロインの演技について、何度もやり直しをしたのに”本物の演技”が得られない監督の腹は煮えくり返りブチ切れているシーンから始まる。この廃墟には言い伝えがあり”本物”を得るため監督がこともあろうかその言い伝えを実際に実行し本物のゾンビが蘇ってしまった!次々に襲われるクルーたち。ゾンビから逃げ惑うヒロイン。勇敢な青年に導かれて安全なところに逃げるもその青年もゾンビになってしまう。青年ゾンビに追い詰められ、絶体絶命のとき監督にその演技だ!と絶賛を受ける。一通りゾンビを退治しヒロインが映し出されたままフェードアウトしていく。多分これくらいのストーリや脚本はわたしでも書ける。
そして次の瞬間、本当に目を疑った。普通にエンドロールが流れてくるーー。
本当にこの映画を観にきて後悔をした瞬間であった。
「絶望」の向こう側
単純なわたしはどうやら騙されていたらしい。続きが始まり少しホッとした。
場面が変わる。さきほど作中に出ていた監督が写っている。さっきのブチ切れていた迫真の演技とは打って変わって、役者に腰が低く気の弱い監督というのが現実のようだ。断れないことをいいことに、ありえない番組のオファーが来た描写が描かれている。つまり、さきほどの生中継の1カット番組のことだ。
その後も集まったキャストで台本の読み合わせやリハなどを通じてキャストの人物像を伝えてくれようとしている。
なるほど、なんだか徐々に飲み込めてきた。ここでは番組を撮影するに至った経緯や練習風景などをまとめ、まず登場する人間がどういう人間なのかを観客にイメージさせている場面だ。全員の紹介は本編に任せることにして、汚い演出を避けたがるヒロイン、自分のことしか頭になく監督に口答えしまくる青年俳優、護身術(声を出すことが大事だそうだ)がマイブームで自分の世界に入ると周りが見えなくなる元女優、酒がないと手が震えるアル中おっさん、腰痛持ちのカメラマンとその助手など、実に多彩な人間が寄せ集められたといった感じである。これを監督がまとめるのは至極大変だろう。容易に想像できるが、全然まとまらない。しかも撮影当日にキャストが急遽来れなくなったというオマケつきだ。都内から数時間かかるこの廃墟では代役を頼んでも本番まで時間がない。さあどうする。手に汗にぎらせるじゃないか。さあどうする。
伏線だったのか
映画が始まってしまった。繰り返しになるが1カット生中継番組だ。失敗なんて許されない。放送事故になんてなろうものなら、この売れてない監督もろとも業界から永久追放されることだろう。大変な仕事を引き受けてしまったものである。
さきほどから少し変わったカメラアングルが気になる。おかげで間延びしたセリフのシーンの裏で何が起こっていたのかもわかる時が来たかもしれない。
監督に怒鳴り散らされたシーンのあと、くだんの間延びが映し出されている。最初は恐怖をあおるソンビの言い伝えの話であったが、なんと趣味の話(護身術)の解説が始まるのだ。一気に現実に帰ってきたようで興ざめする。ご丁寧に強姦に襲われたときの対処法を実践していただけるのである!
しかし今回は違うカメラアングルである。するとどうだろう、画面脇にカンペが映し出されている。その内容をみて笑ってしまった。
なんとそこには場をもたせるように!といった書いてある。繰り返しになるがこの番組は生放送であり、視聴者はもう観始めている。
何事も火事場の馬鹿力、土壇場で真価を発揮すると思うが、その場を取り繕うとするアドリブの内容がまずい。観てるこっちがハラハラする。
「ドン」、ドアのあたりで大きな音がなった。
外からのアングルを観てみよう。そこにはベロベロに酔っ払っている次の出演者を介抱する監督の姿がある。バランスを崩し、倒れるのをかばおうとしてドアにあたってしまった。普通なら放送事故クラスではないか。笑
なるほど、いろいろ飲み込めてきた。つまり、最初に観せられた番組に散りばめられた、通常の映画では考えられない違和感や気付きの裏側には、何らかの事情があってそうなって「しまった」結果を観せられたのだ。
これらは推理小説などで、点と点が線に結びつく瞬間を演出するいわば「伏線」としての機能を果たしており、わたしの興ざめポイントは実は「伏線」だったのである。その伏線が一致すればするほど引き込まれてしまう仕組みになっているため、にわかな映画鑑賞者のわたしより、鋭い洞察力を持った皆さまこそ、ハマってしまうと思われる。
ここでは以上の数点の「伏線」を列挙したが、最後はとてつもない伏線がまっている。ちょっと感動シーンもあり感情が揺さぶられてしまうこと必死である。ほかにもキャストの不在、腰痛持ちのカメラマン、お腹のゆるい出演者など多彩な「伏線」が皆さまを待っている。
最後に認めるとわたしは普通の単なるつまらない映画だと思っていた。
しかし、これはこれまでの映画とは全く異なる映画で新しい作品である。
そして個人的にはエンドロールはもっとすごい。
映画を撮るって大変だし、そこに命を懸ける現場をみることができる。(血しぶきのタイミングは難しそう!)
これは劇場で鑑賞をおすすめします。ゾンビ映画らしい行き返り割(リピート割)もあります。
結論
これまでネタバレを含め、いろいろ書かせてもらいました。ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。
ところで他のサイトでこの映画のレビューを見ようとすると、わたしの友人と同様「映画館で観て!」となかなかネタを教えてくれませんでしたが、こう書いてみると、この映画の面白さは結構複雑で、説明するのに苦労します。内容を伝えるのは難しいけど面白い!と言われるとつい観たくなりますよね!もしそこまで練って作っているのであれば相当なブレーンがバックに居るのではと思ってしまいます。
さて、もうご存知かもしれませんが、最初こそつまらないと感じたわたしでしたがエンドロールを見る頃にはこの映画が大好きになりました。勢い余ってこのnoteを書いてしまったところもあり、タイトルはすこし日本語が足りないように感じますので補足させてもらいますね。
普通の映画を見たいなら
映画「カメラを止めるな」は見てはいけない
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