古いフェンダージャパンのギター
昔、とあるカフェに通っていた
経営もオペレーションも夫婦でこなすような、あたたかい小さな店だった
ある日、その店を畳むという噂をきき
話を聞きにいくと、事実だった
主人が重い病気をしているらしい
お金が必要らしかった
店を売却して、奥さまはデザインの仕事に戻る予定だ という
閉店前に顔なじみでパーティをしようというので伺うと、店奥にひっそりと立て掛けられたギターが目に留まった 白い、古いフェンダージャパンのストラトキャスターだった
主人の宝物だというそれを握ると、衝撃的なほど手に馴染むのを感じた 握った瞬間、思考が駆け巡ったことをよく覚えている(当然、そのどれもが口に出せるような事ではなかった)
あれから何年も経って、ふと、あのギターを探してみよう、という気になり
手始めに、わたしと同じ生まれ年である1993年製のフェンダージャパンを探した。
千葉の楽器屋まで出向くとそれはあった。それはなんてことのないテレキャスターだった。更に10年古い83年製のストラトキャスターも握らせてもらった。これも違う。
新大久保に84年製のテレキャスターがあるというので、握りにいったが、これも全く響かなかった。なんてことのない、ポリ塗装のテレキャスターであるようにしか感じなかった。(グレーボビンのピックアップは雰囲気があって格好良かったけど)
店員に先述の話をかいつまんで伝えると、古いsquierもネックが薄いらしいという情報が返ってくる。それに合致するようなギターがメルカリにはあった。84年製のSQシリアル
妻と揉めた日の夜、勢いで購入した
なんだか情けないわたしの人生にわたしらしい動機でギターが届いた
梱包材を切り裂いて飴色がかったメイプルネックを握る。あの日とよく似た衝撃が走る。わたしの脳味噌はその電流で少し揺れた。