「なんで勉強しなきゃいけないんだ?」に向き合い続け見えてきた新しい時代の塾の役割とは
わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン®図鑑」。
認定NPO法人キーパーソン21がお届けします。
毎日子どもと接する塾講師のけんけんさん。多くの子どもの疑問「なんで勉強しなきゃいけないんだ?」の答えは子ども自身の中にありました。子どもへの声の掛け方や、わくわくエンジンの引き出し方を学び、そして自分のわくわくエンジンも見つけた時、人との接し方が変わったといいます。すると相手も変わっていきました。
今回のインタビューでは、日々子どもたちと接する中で体験した自分や子どもたちの変化について語っていただきました。
【図鑑No.10】
お名前
勝又健介(けんけん)
お仕事
学習塾で小中学生に勉強を教えたり、生徒や保護者への相談に乗ること
わくわくエンジン®
わくわくエンジンと人をつなぎ、その人の輪を広げること
「なんで勉強しなきゃいけないんだ?」の答えがあった
ーー けんけんさんは、塾講師として長年お子さんと向き合ってらっしゃいます。けんけんさんがわくわくエンジンを発見する前に感じていた課題は何でしたか?
塾で子どもたちとつきあっていると、「なんで勉強しなきゃいけないんだ?」とよく聞かれるんです。
それまでは、
「人生の土台作りだよ」
「好きなこと嫌いなことなんでも一通りやっておいた方がいいよ」
「わからないことを調べるトレーニングだよ」
などと大人の理屈で話をしていました。でも子どもにはその理屈は通じないんですよ。子どもは一人ひとりの中で、何故勉強するかはその子ごとに答えがあるはずです。そうは思っていたのですが、どうやって引き出していけばいいのかはずっと課題でした。
また別にもうひとつ・・・
自分自身に向き合ったことがなかったことも自分の課題でした。
自分はどういう人間で、どういうことが好きで得意なのか、この先どういうことがしたいのか、自分自身と向き合えていなかったんです。
大きくそのふたつですね。
ーー キーパーソン21に関わったきっかけを教えてください
毎日、子どもたちと接する中で「勉強する理由」の答えは子どもたち自身の中にあるということには気付きました。自分の中に好きなことやわくわくすることを見つければ、自分で目的をみつけて進路を選択することもできますし、将来や勉強に対してもモチベーションが変わります。
でも、どうやったらその答えに気づいてくれるのだろうかと考えているときに、Yahoo!ニュースで、湯浅誠さんがキーパーソン21を紹介していました。「これだ、自分が探し求めていたのは!」と目の前がパーッと開ける感じでした。2017年5月のことです。
それから説明会に参加し、すきなものビンゴ、個別アクション、コミュニケーションゲームの養成講座を受講、学校実施に参加し子どもたちへプログラムを届けに行きました。
静岡メンバーの先輩である露木さんに出会ったのもこのころです。(現在、露木さん、けんけんさんが主になって、キーパーソン21のチーム静岡を牽引してくれています)
今まで漠然としていた子どもへの関わり方でしたが、養成講座のトレーニングを受ける中ではっきりとし、「どういう問いかけをしたら良いのか?」がかなり明確になりました。それからキーパーソン21で教わった「引き出す、認める、伴走する」というスタンスが、私の中で子どもたちと接する際の柱となりました。
ーー 講座を受講して、発見したけんけんさんのわくわくエンジンは何でしたか?また見つけた時の気持ちを教えてください
「わくわくエンジンと人をつないで、その人たちの輪を広げる
です。養成講座を受ける中、自分のわくわくエンジンを言語化したときは、「なんとなく自分の中にあったものが、目の前にはっきりした形を持って現れた」という感じでした。
ただ、まだ100%言語化できていないとも思っています。そのときどきの周りの環境が変化していくとわくわくエンジンの言語表現も変化するんですよ。自分の場合ベースにあるのは「わくわくエンジンと人をつないで伴走する」こと。表現は今後も変化していくんだろうけど、その根底にあるものは変わらないと思っています。
「キャラがいいんだよな」に衝撃。それが転機となった
ーー わくわくエンジンを発見後、ご自身の中で変化はありましたか?
養成講座で、ひとつ忘れられないことがありました。
養成講座で、講師の方が私の様子をみて、ぼそっと「キャラがいいんだよな」と言ったんです。自分のキャラなんて考えたこともなかったから、その時は「キャラ?」とすごくショックを受けて。
どちらかというと、まわりに合わせてあまり波風立たないように自分を押さえて生きてきたので、自分自身のキャラを活かすとか、出すということを自覚したことがありませんでした。そんなことは考えたこともなかったし、あまり周りからいわれることもないじゃないですか。
でも自分にもキャラがあって、それをいいと言ってくれる人がいるというのが、すごくうれしかったし、ある意味衝撃でした。その時から「おれも結構いいやつじゃん。これから、もっと自分を大切にしよう」と思えるようになりました。
この一件で自分を認められるようになったことは、大きなひとつの転機でした。
関わり方が変わると相手も変わった
自分を認められるようになり、「引き出す、認める、伴走する」をやっていると、人に優しくなれ、人に会って話をするのが楽しみになりました。それに伴い、周りの人たちが少しずつ変わっていくのも感じましたね。
もともと人とのコミュニケーションが下手で、すごく人見知りで、初対面の人に何を話していいのかわからない。それが、わくわくエンジンがわかってからは、この人はどんな人で、どんなことをやっているんだろうと相手のことを知りたくて、こちらから話しかけてしまいます。
職場のスタッフで、掃除も、事務仕事をやらせても仕上がりが雑なスタッフがいまして、キーパーソン21にかかわるまでは、
「なぜ掃除がちゃんとできないんだろう?どうしてこんな仕上がりしかできないんだろう?」
とマイナス面ばかり見て接していたんです。
だから年賀状でも毎年必ず、「迷惑をかけてすみませんでした」と彼は書いてきていたんです。この年賀状の文面に、自分がその人に対してどういう接し方をしていたかが象徴されていました。
自分のわくわくエンンジンがわかり、「引き出す、認める、伴走する」という姿勢で接し、「掃除も事務仕事も得意じゃないかもしれないけれど、この人のいいところはどこだろう?」と考えるようにしたんです。
そうしたらいいところをいっぱい見つけられるようになり、それから良い部分は彼に任せて、苦手な事務仕事は得意な人に回し、掃除は最低限やってほしいことだけ伝え、ある程度きれいになればいいとして、彼のいいところ得意なところをみるようにしたんです。
「彼が苦手なことは、他の人がカバーすればいい。それよりも、彼が得意なところで力を発揮してもらい、生き生きと仕事をしてほしい」と考えるようになりました。
そうしたらマイナス面が見えなくなったんです。
その後は彼とのコミュニケーションの量がすごく増えて、彼から意見や提案が出るようになり、家族のことも話してくれるようになり、なんと掃除の仕方も丁寧になりました。
年賀状の文面も「昨年の経験を活かし、期待に応えるべく精進します」と力強いものに変わりました。
自分の接し方の変化が、彼の変化も起こし活躍の場も増えたことを感じています。
そして塾生との関わり方も変化した
もうひとつ変わったのは、塾生に対しての接し方です。
塾生を否定せずにあるがまま受け入れ、自分から心を開いて話しかける接し方に変わっていったので、先生から生徒へという一方通行ではなく「人間 対 人間」として付き合うようになりました。
だからこの子はお気に入りだけどこの子は合わないな、と思うことがなくなりました。どの子もいいところがある。例えば宿題をやってこなかったり、とんがった発言をしたりと、いろんな子がいますけど、何故この子は宿題をやってこれないのか、とんがった発言をするのか、きっと背景に何かあるに違いない、それをできれば引き出してあげられるといいなと思いながら接するようになりました。
表に出ているのは目に見える現象だけ。それなのにその子を否定してしまったら、その子の居場所がなくなってしまいますよね。
生徒面談をする中で、こんな子がいました。勉強が苦手な子で、見るからに「なんで面談なんてしにゃいかんのだ?」というオーラでやってきたんです。はじめは成績やテストの話をするんですけど、その間はずっと下をむいている。時々顔をあげると時計をみている。
「ところでさ、何が好き?」って聞いたら、
「料理」
とぼそっというんです。
「料理作るんだ、めっちゃいいやん」と言ったら、「えっ料理いいの?」と驚いて顔を上げたんですね。それからお菓子も作るし、お母さんと一緒に手伝いがてら家の料理も作るというんです。
「すごいじゃん。なかなかできないよそれ。じゃあ、将来は料理関係の仕事をしたいと思っているの?」
「うん、料理する人になりたいし、できれば自分の店を持てればいいな」
「じゃあ、料理してて何が一番楽しいの?」
「作るのも好きだけど、家族が食べて喜んでくれること。みんな美味しそうに食べてくれるのが嬉しい。それにお母さんは僕が手伝うと助かるっていうし」
勉強はたまたま得意ではないし、点数はとれないかもしれないけど、そうやって好きなこと得意なことがあるのは素晴らしいことだから、それを伸ばしていけるといいねと話をしたんです。
それからは高校に進む目的が明確になったので、栄養のこととか調理のことを勉強する高校を見つけ、そこに僕は行くと言って、彼は入学したんです。
自分の考えで高校を選択し、自分で受験して合格することができました。
新しい時代の塾の役割とは
子どもは自分で自分の居場所を作るのは難しいんです。
身近にそういうところがあり、第3の場所となってサポートできれば、すごく変わっていくんだろうなと思っています。
たとえば、みんながみんなそうではありませんが、塾だとはっちゃけて、のびのびといろんなことを話す子が、学校では学校用の自分を演じていたりするんですね。
あるとき、塾に新しい男の子が入ってきたとき、塾でのびのびと話をしている同級生を見て「お前学校にいるときと塾にいるときと全然違うじゃないか」と言ったんです。この子にとっては学校が窮屈な場だったり、塾だと感情が出せる場だった。
塾はそういう場だよなと。「先生、ちょっと聞いてやあ!」とすっと言葉が出てくる環境、必要じゃないですか。うちの塾はそういう場でありたいなと思います。
ーーそういってくれる塾、いいですね。でも塾って受験第一ってイメージがどうしてもあります。
塾というと「〇〇高校何人合格!」という表示のイメージがありますよね。
でもいつまでそれをやっているの?と思うんです。
どこどこ高校に何人合格。
それをさせているのは大人の価値観。
いい学校、偏差値の高い学校、自分自身の子どもをちゃんと見ていない。
子どものもっといいところを見てあげたら、そのさきに進路が出てくると思っています。
順番が反対なんですね。
このキーパーソン21の活動はその根っこの部分をやっていると思うんです。根っこの部分はどちらかというと地味な部分なので、初めて聞く人には伝わりづらいんです。
ペーパークラフトや子育て関係のNPOとなるとわかりやすいのですが、『わくわくエンジン』てなんですか?と聞かれると、なかなか説明が一言で伝えづらいから難しい。一度体験してもらうといいのですが。
ーーこれからは個人が大切にされていく時代。自分のことを深掘りするWEBツールも世の中いろいろありますが……先日キーパーソンの好きなものビンゴをオンラインで見学参加したんですけど、見ていても楽しかったんですよね。わいわいやって遊びながらも、参加してる方の考え方や深いところが理解できて、これは面白いなと思ったんです。
楽しいのは最大の特徴だと思います。そして普段なら忙しさに追われてできない、自分を見つめることができるいい時間ですよね。
目的がないと思っている子どもたちも、わくわくエンジンが見つかれば、生き方もぜんぜん変わっていくのかなと思います。多くの子どもは、何をしていいかわからない、自信がないとか、そういうことをいう子がほとんど。
そして大人はとかくテストの点数がいいとか悪いとか、どうしてもそういう価値基準で子どもを判断しがちです。点数は一番わかりやすいし、親にとっては一番の心配ごとかもしれないけども、そんなものはその子の持っている能力のごくわずかなところです。
点数が取れないからといって、進路の選択肢がないわけではないし、それよりもむしろ自分のわくわくエンジンが見つかることの方が、今後の進路を自分の意志で選び取っていける力になり、その方が大切かなと思います。
ーーわたしは、今まで塾は成績上げてなんぼ、学校よりもがっつり勉強させる場所だと思っていました
そういう側面もありますし否定もしません。でも、やっぱり自分を認めてくれる場でないと、子どもは勉強に正面から向き合えない。
塾は家庭でもないし学校でもない。塾にくるのが楽しいとか、来ると本音が言えるとか、うちの塾は、そんな居場所的な存在であって欲しいなとキーパーソン21に関わるようになって、余計強く思うようになりました。
ーー言葉のかけ方で明らかに反応が違うとか感じますか?
明らかに違いますね。わたしは毎日子どもと接しているので、いろんな問いかけとか、話し方は日々トレーニングできますし、言葉がけで反応の違いを感じます。
それに言葉のかけ方もそうですが、大切なのは子どもを中心においてしゃべっているか、大人の価値基準を中心にしてしゃべっているか、上から目線で話している人だとか、そういうことを子どもはすぐに感じ取ります。
大人にもわくわくエンジンを見つけてほしい
ーーけんけんさんのわくわくエンジンは、「わくわくエンジンと人をつないで、その人の輪を広げること」というお話しでしたが、今後どのように広げていきたいというビジョンはありますか?
まずは自分が住んでいる町、地域の人たちとつながりながら、広げていきたいなと思っています。それが、とりあえず当面今考えていること。いろんな出会いをひろげていく中で、学校や地域の施設だったり、静岡のどこかですきなものビンゴを実施できるといいなと思っています。
あとは、大人も。
子どもたちをサポートする立場の”大人”も、自分自身に対して「引き出す、認める、伴走する」価値は大きいと思っているんですね。そうすると、子どもたちに対してもどういう風に接していけばいいかと自ずと見えてくる感じがします。
大人も仕事や人間関係で病んでしまうことが多いじゃないですか。
楽しくないんですよね、働いていても。
大人自身が自分のわくわくエンジンに気付いて、それを活かす形で社会活動や地域活動をできるような世の中になると、自ずと子どもたちも自然とわくわくを見つけられるようになってくるのかなと思うんですね。
子どももそうだけど、大人にもわくわくエンジンを知ってもらって、それを軸に変わってほしいなと思います。
インタビューを終えて
わくわくエンジンを発見してから、けんけんさんの周りで起こった変化についてお話を伺いました。
日々お子さんと関わる仕事だけに、子どもの変化というのはとても身近なんですね。そしてもしもっと多くの大人がわくわくエンジンを発動したら、その人の周囲の変化はどうなるのか、想像するだけでもわくわくしました。
これを書いているわたくしも、けんけんさんと同じ静岡のわくわくナビゲーターです。静岡でさらに親子でわくわくできる活動を広げていきたいと、あらためて思ったインタビューとなりました。
(ライター・てらっち)
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