第4回〈表層〉と〈深層〉の魔術的融合 | 落合陽一
今朝の「魔法使いの研究室」では、『魔法の世紀』の第4章「新しい深層と表層」を取り上げます。コンピュータが社会に普及したことで、世界は再び魔法で覆われました。その過程で「芸術」や「技術」という概念も変容していきます。表層(デザイン)と深層(エンジニアリング)の歴史を辿りながら、現在の世界で求められるキーワードとして両層に精通した「デザインエンジニアリング」が浮かび上がってきます。
◎構成:長谷川リョー
落合陽一自身が読み解く『魔法の世紀』
第4回〈表層〉と〈深層〉の魔術的融合
▼『魔法の世紀』第4章の紹介
「第4章 新しい表層/深層」では、「芸術」(アート)と「技術」(テクノロジー)の概念、その両者が再び接近しつつある状況を論じます。産業革命以降の大量生産時代の到来と、アーツ・アンド・クラフツ運動やバウハウを端緒とする「デザイン」という概念の登場。そしてコンピュータによる「デザイン」と「エンジニアリング」の接続に至るまで、時代ごとの「表層」と「深層」の関係の変遷から、今後の世界にインパクトを与えるクリエイティビティの可能性を探ります。
▼プロフィール
落合陽一(おちあい・よういち)
1987年東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年より筑波大学に着任。コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。
音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」が経済産業省「Innovative Technologies賞」受賞,その他国内外で受賞多数。
◼︎コンピュータによって社会は再び魔術化する
今日取り上げるのは『魔法の世紀』の第4章「新しい深層と表層」です。
これまではテクノロジーの歴史やメディアアート作品などの具体例を示しながら話をしてきましたが、「新しい深層と表層」の章のテーマはデザインです。「デザインが世の中でどう変わってきたのか」について見ていきたいと思います。
「芸術」や「技術」という言葉がありますよね。これは明治時代に、西周(にし・あまね)という哲学者が外来語から新たに作り出した日本語なんです。
▲西周(1829-1897)(出典)
芸術は「リベラルアーツ」、技術は「メカニカルアート」という言葉が元になっています。古代から中世にかけて、ヨーロッパの教養人たちは、哲学に代表される当時の知性の集大成であるリベラルアーツを重要視していました。一方で、建築学や測量学に代表されるメカニカルアーツは「手の技」ですね。
現代であれば、リベラルアーツは「アート」、メカニカルアーツは「テクノロジー」と言い換えることもできます。この二つの概念が20世紀の社会においては、非常に重要なキーワードになってきました。
コンピュータの大きな特徴の一つは、入出力の関係が自由に切り替わるところにあります。たとえばプログラマーのAさんは「LEDが光ってるときはオンにする」、プログラマーのBさんは「LEDが光ってるときはオフにする」というように設定できる。コンピュータのロジックは、コードを書いた人が考えた通りに動作するということです。
当たり前と言えば当たり前ですが、物理世界でこんなことができる例はなかなかないですよね。入力次第で全然違う結果が出てくる。しかも中で何が起こってるのか全く分からない箱なんて、コンピュータ以外にないわけです。こういう機械が世の中に出てくると、モノとモノの関係性が変わってくるのではないか。
1981年にモリス・バーマンという学者が『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(The Reenchantment of The World)という本を書いています。「科学技術の進歩は呪い(まじない)を脱魔術化してきた」というのはマックス・ウェーバーの論ですが、さらに高度に専門化した科学技術が世の中に普及することによって、科学は呪いに変わりつつある。これがモリス・バーマンが著した80年代当時の社会情勢です。
そして、これから先、コンピュータが世界中にもっと増えていけば、呪いはますます強化され、やがて「魔法」に至るのではないか。これが『魔法の世紀』全体のテーマです。
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