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“kakkoii”の誕生――世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(8)「勇者指令ダグオン」前編

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。今回は「末期勇者」として『勇者指令ダグオン』を分析します。『黄金勇者ゴルドラン』によって一度達成されてしまった「魂を持った乗り物」という概念で名指そうとした美学。「末期勇者」はいかなる提案を勇者シリーズに行うのでしょうか。


3つめの区分「末期勇者」

ここまで勇者シリーズの6作品を、大きく前半「谷田部勇者」と後半「高松勇者」にわけて論じてきた。「谷田部勇者」は理想の成熟のイメージを追求した結果、子どもとおもちゃの関係を「命じる少年」と「従うロボット」として描き出した。「高松勇者」は勇者シリーズの本質を批判的に継承していく過程で、その関係の境界に挑戦していった。そして最終的に『黄金勇者ゴルドラン』はメタフィクションとして、「子どもの遊び」を永遠に続けていくという逆説的な成熟のモデルに到達した。

ここからは『勇者指令ダグオン』と『勇者王ガオガイガー』の2作品を続けて論じていく。「谷田部勇者」「高松勇者」という呼称と同様に、この2作品を便宜上「末期勇者」と呼ぶことにしよう。「谷田部勇者」と「高松勇者」の区分が監督の切り替わりによって定義されていたのに対して、この2作品は監督も脚本家も共通していない。にもかかわらずこれらをひとつにまとめて論じるのは、共通するスタンスを共有しているためである。そのことを、それぞれを分析していく過程で明らかにしていきたい。

「変身ヒーロー」の繰り広げる「青春」

『勇者指令ダグオン』は、次のような物語になっている。宇宙監獄サルガッソに収監されていた多数の凶悪な囚人が反乱を起こし、サルガッソを掌握。ここから囚人たちによる惑星狩りがはじまり、地球もその侵略の標的となる。これを危惧した宇宙警察機構のブレイブ星人は、大堂寺炎、広瀬海、沢邑森、風祭翼、刃柴竜という5人の高校生(後に黒岩激、宇都美雷が加わる)を「勇者ダグオン」に任命する。彼らはダグオンとして、侵略宇宙人から地球を守る戦いに身を投じていくことになる。

『勇者指令ダグオン』。高校生の主人公たちが並ぶ。
勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p171

『勇者指令ダグオン』は、これまでの勇者シリーズと大きく異なる点がふたつある。ひとつは、明確に「変身ヒーロー」のモチーフが導入されていること。もうひとつは、主人公たちが高校生であり「青春」をテーマにしていることだ。

順番に説明しよう。大堂寺炎をはじめとした高校生たちは「ダグコマンダー」と呼ばれる変身アイテムを腕に装着しており、「トライダグオン!」の掛け声と共に、「ダグテクター」と呼ばれる強化スーツをまとう。まずこの状態で悪の宇宙人たちと戦うのだが、窮地に陥ると乗り物が変形したロボットと「融合合体」し、巨大化する。このとき自我は常に炎たちのものが保存される。つまり『勇者指令ダグオン』におけるロボットは基本的に炎たちの肉体であり、個別の自我を持たない。

これは勇者シリーズとして見れば斬新な設定だが、同時代(20世紀後半)の子ども向け作品に目を広げれば、むしろクラシックな「変身ヒーロー」に大きく近づいている。実際、各話ごとに表示される宇宙人の名称とそのシルエットは明確に円谷の「ウルトラシリーズ」のパロディである。各話完結で地球を侵略する宇宙人が搭乗する構成に加えて、ロボットと融合合体することを巨大化とみなすなら、ヒーローの性質もウルトラマンと共通点がある。5色に色分けされたヒーローがチームで戦いロボットに搭乗するのは東映の「スーパー戦隊シリーズ」に近い。「仮面ライダー」シリーズからの引用は比較的薄いように思われるが、侵略してくるのも主人公たちに力を与えるのも同じ「宇宙人」であると考えれば、ヒーローとヴィランが同じ性質の力を持つ同シリーズの要件を備えているように見えなくもない。実際販促のために、こうした特撮作品を彷彿とさせる、人間が着用するダグテクターのスーツも作られている。

大堂寺炎が変身する「ファイヤーエン」。明確に変身ヒーローから引用されたデザイン。
勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p173

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