『コードギアス』の複層的シナリオ展開はなぜ可能になったのか/『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(6)【不定期配信】
「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回は、キャラクター劇とポリティカル・フィクションを巧みに両立させた『コードギアス』のシナリオ展開について考察します。
時間の経過とともに可能になりつつある名作ロボットアニメの評価
前回の配信直後、2017年3月17日に『交響詩篇エウレカセブン』の劇場版三部作(『ハイエボリューション』)が発表になりました。この符合には少し驚きましたが、『エウレカセブン』と『コードギアス』の比較が、2010年代後半に再び可能になるということで、にわかに現代性を帯びてきた感があります。現状で『ハイエボリューション』の興味深いところと不安点を簡単に挙げると、テクノユニットのHardfloorから新曲「Acperience7」を提供されていることは興味深いと言えるでしょう。パワーバランスの変化ゆえに可能になったところもあるとはいえ(”Anime”の存在感など)、オリジナルにおける「サブカル的意匠」の意味合いもリブートしていく意気込みをみることができるからです。不安点としては、すでに『エウレカセブンAO』という後日談があるために、『コードギアス』と比べると三部作の出口にかなりの縛りがかかっていることでしょう。いずれにせよ、旧作のリブートとはいえ、思わぬ形で「2010年代のロボットアニメ」が活気付けられた印象があります。
もう一つロボットアニメ関連の興味深いニュースとしては、マクロス35周年プロジェクトとして『マクロスF』のシェリル・ノームの新曲発表が挙げられます。こちらは『マクロスΔ』の直後ということもあり、『マクロスΔ』は『マクロスF』のインパクトを超えられなかったのか、という雰囲気も若干漂いますが、アイドルアニメの源流の一つでもある『マクロス』シリーズの強みが出ているように思います。
さて、だいぶ長々と周辺事情へと迂回した感はありますが、『コードギアス』の意義を改めて考えてみましょう。日本アニメ史における『コードギアス』の位置は、冷静にみるならば「SクラスとまではいえないAクラスのヒット作」(『クリティカル・ゼロ』より)といったところでしょう。ロボットアニメの中では『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』と同等のインパクトを後世に残したとまでは言えないが、ジャンルの歴史では大きな存在感を持ち、ゼロ年代アニメの中ではかなり人気のあった作品、といった認識が共有されているように思われます。
私もおおむねそうした見解には同意なのですが、今回改めて見直してみたところ、たとえSではないにせよAAないしはAAA作品とみることができるのではないか?と主張できるように思います。むしろ、『コードギアス』以後の十年間によって(『魔法少女まどか☆マギカ』が事後的にサブジャンルを生み出し、アニメ史的意義を増したように)重要性を増したとみています。これはちょうどヒット作でありながらかなり批判されていた『ガンダムSEED』が、今では古典の一つとなっているように、『コードギアス』についても時間を経た評価の変化をみてみたうえで、現代的意義について考えてみたいということです。
トリッキーな主人公としてのルルーシュ
『コードギアス』を雑にまとめてしまうならば、「もしも夜神月が妹を守るために「優しい世界」を求めたとしたら?」となると思います。ルルーシュの造形が『DEATH NOTE』の夜神月をヒントにしていることは明白ですが、そこに加えられたアレンジが、他の数多あるデスゲーム系作品と一線を画する結果となっているのでしょう。シナリオのメインプロットや諸勢力がどんどん移り変わっていったようにみえる『コードギアス』ですが、「妹のナナリーを守る」という軸は最初から最後まで徹底していて、しかもそのようなシスコン要素についても、終盤では一捻り加わえられているんですね。「優しい世界」は、今ではろくでもないネットミームになってしまっていますが、もともとはコードギアスのルルーシュが求めた世界を指していました。夜神月には妹がいますが、特に守るべきキャラというわけではありませんでした。いずれもピカレスクロマンとして描かれつつも、ルルーシュの行動原理が「妹ファースト」であるところは、ややもするとヌルくなりかねないわけですが、『R2』の18話から19話にかけて、「第二次東京決戦」の結果ナナリーの安否が不明になったため、せっかく成立した「超合集国」を台無しする勢いで取り乱し、部下一同をドン引きさせるという展開を混ぜることで、「妹ファースト」の危うさを、終盤の物語を加速させるモチーフとして活用していました。
このように、『DEATH NOTE』フォロワー作品の多くと比べても、今なお設定の絶妙さが光る『コードギアス』ですが、これから初めて見る人にとっては、作画の面では必ずしも新しさが感じられないかもしれません。原案をCLAMPが担い、木村貴宏がデザインしたキャラクターは個性的で、今でもファンが多いですが、ゼロ年代アニメをヴィジュアル面で刷新した京アニやシャフトの作品と比べると、画作りの点ではやや古くみえるかもしれないと思います。『ガン×ソード』の延長上にあるといえばよいでしょうか。なので、『コードギアス』がゼロ年代アニメの諸要素を結集させているといいつつも、画面設計などの点では90年代後半からゼロ年代前半にかけてのアニメに近いところがあるかもしれません。
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