マライアキャリーに気をつけろ
袖を通したばかりのネイビーのダブルスーツに嗅がせた匂いは赤マルの香りで、日が変われば胡蝶蘭だったかと思えば気の毒でならない。
街のどこかで奴の声が聴こえたような気がした。またあの憂鬱な季節が近づいてきたようだ。奴の英語は日本人にも聞き取りやすくハキハキとしている。シャンシャンと鳴るベルが特徴のバックアップもまたこの季節の代名詞となっている。
昔からマライア・キャリーが嫌いだ。
というよりも、クリスマスにいい思いをした経験がない。いい思い出は創ろうと思って造られるものではないが、恋人や友人と過ごしたクリスマスの記憶はどれも曖昧なのだ。一見、恋人のいない非リア充の皮肉にも聞こえるが、このクリスマスに対する嫌悪感は恋人がいた時代も変わらない。
記事を書いている最中、「そう言えば、年末年始の街の浮かれ具合も気に入らなかった。」と気づき、平穏な日常を好む自分の生活が、見えない何かによって侵されてしまうことを拒んでいるのだと腑に落ちた。
マライア・キャリーだけでなく、自分にはダウンタウンも紅白歌合戦も初詣も鏡餅も全てに気をつけなければいけない。どれも例外は無い。とにかく気をつけて平穏の日々を侵されないように防衛するのだ。