地球は彼女を飾って【小説】第五話
ある日のことだった。優花の店に、ひとりの客がやって来た。ぼさぼさ頭をぶらさげ、眠たそうにしながらも、びしっとスーツを着こなしている。その男は、優花が座っているカウンターに、彼女と反対側に座った。
優花は、その夜もなんにんかの飢えた狼の相手をした。しかし、店にもどると、必ずその男はいるのだった。客なのかな?でも、話しかけてくる気配はないし。
その日の仕事が終わり、優花はあがりを手にする。そのまま店を出ると、やはりというかなんというか、その男もついてきた。
「乗るかい?」
駐車場にとまった高級車の前で、男は背中越しに優花に声をかけた。
やっぱりね。
優花は足を止めた。そして、ゆっくりと振り返り、男が助手席を開けると、その車に乗りこんだ。今日最後の客ね。優花はそう思った。
(この道…。)
車は走り出すと、確実に、優花とトニーの住む家へと近づいて行った。だんだん優花は不安になる。
「あの。」
「君みたいな娘に娼婦は似合わない。海外に働き口があるんだ。君ならからだを売らなくても食っていけるだろう。アメリカが支配している島の話を聞いたことがあるかい?」
突然だった。しかし優花はすぐに思った。このひと、スマグラー(密輸業者)だ。しかもあっせんしているのは人間だ。危険かもしれない。突如言いようのない不安が、優花を襲った。しかし、優花はたしかに聞いたことがあった。南アジアに浮かぶ、自由の国の島の話を。
「不安なら一緒に同居している男の子も連れて行ったらいい。おれは明日も君の働く店に行く。その時までに答えを用意しておいてくれないか?」
優花はなにも応えなかった。
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