自己開示と信頼と錯覚と
先日、大学時代の恩師から一斉メールが届いた。
内容は毎年11月にあるゼミ総会の案内と、年2回あるゼミ名簿の更新のお知らせだった。
やろうと思えば3分ほどで終わる更新もいまのいままでできていない。
卒業して最初の1年はちゃんと更新もしていたが、今年の5月の更新はしていなかった。これといった理由は思いつかないが、しいと言えば億劫だった。そもそも、私の近況なんて興味ないい人の方が多いだろうし、私が興味ある人には定期的に連絡を取っているのだから、さしてわたし自身がほかの人の近況に興味がない。あと自己開示することが苦手だということもある。
自己開示するとしても、つい自分のことを取り繕ってしまう。
(このnoteのように)
ただ職業柄、必然的に初対面の人と話さなければいけない私は、毎回、相手のことを知り、自分のことを打ち明けるという過程を踏まなければならない。
就職活動の際、履歴書なるものをほとんどの方が書いたのではなかろうか。
長所・短所・ガクチカ・特技・趣味…etc
長所:対人理解能力
短所:慎重すぎるところ
ガクチカ:ゼミ論文/ボランティア/バイト
特技:スポーツ全般
趣味:寺社仏閣巡り
確かこんなところを書いていた記憶がある。間違いではないが、本当にそうかと言われれば、即答できない。しかし、限られた時間の中で自分のことを面接官に知ってもらうためには、わかりやすい内容、興味をひきやすい内容、または共通点のありそうな内容を書く必要があった。
立場は変われど、いまやっていることもさほど変わらない。
相手の興味のありそうな内容について説明し、共通点を探し出し、それについて自己開示をすることで信頼を勝ち得る。その上で、漏洩することを前提とした秘密の話を『ここだけの話なんですけど、、、』と話して、その信頼を強固なものとする。みんなが無意識下で行っていることを、より能動的に、意識的に行う。就活の際、今の職業について抱いていたイメージは【自己奉仕と信頼関係】、実際に働き始めて抱いていたイメージは【弾数勝負と恋愛シミュレーションゲーム】。
正直、後者のイメージが払しょくされたかと言えばそうではない。実際そのような考えで仕事をしている上司もいるし、そんな上司が仕事ができる人であることは、数字が証明しているから。でも、あらためて自分がなぜこの仕事をやりたいと思ったのかを考えてみると、前者の、まだこの職業に憧れと希望を持ってた頃のイメージを取り戻したい。
こう思えるようになったのも、ちょっと仕事が上手くいくようになってきたからだ。
なんと現金なやつなんだろうと思うが仕方ない。不思議なことに上手くいかないときは、いまの仕事に対しての疑問や不安、嫌悪感が前面に出てしまうのに、ひとたび上手くいっては今の職業について夢のような、楽観的ともとれるような未来しか思い浮かばなくなる。
この前も仕事の関係で120㎞離れた場所に向かった。お客さんと会うのは19時、つぎの日も同じ場所、同じお客さんと9時から商談。さすがに二日で120キロの往復を2度する気にもなれず、実費でその近くのゲストハウスに泊まった。とったのは1部屋8人が寝泊まりできるドミトリー。あるのは申し訳程度の簡易ベッドと釣り下がりランプひとつ。下手したら小学校のときに行った青少年自然の家の方がしっかりした造りなのではないか。
とりあえずそこでスーツからTシャツ、ジーンズに着替え、駅前の飲み屋へと繰り出す。上司に教えられた2店舗のうち片方の店が満席だったため、もう一つの店に入る。かなり当たりだった。近くにあれば月3は通うだろう美味しさとコスパの良さ。気持ちよくなっってしまった私は店主にお勧めの店を教えてもらい、2件目の日本酒立ち飲み屋へ向かう。
店主がだいぶ癖があり早々に切り上げようかとも思ったが、せっかくこんな遠いところまで来たんだから、と隣の二人組と話してみる。思っていた以上に好印象で話がどんどん弾み、お互いの職業を明かすまでになる。(私は職業柄自ら職業を明かすことをしないのだが、二人組の方も違う理由で普段はあまり明かさないという)そんなこんなで3件目に連れて行ってくれることになった。
話しているうちに、自分の話し方やテンポ、質問の仕方が営業のそれになっていることに気づく。相手の興味のありそうな内容について説明し、共通点を探し出し、それについて自己開示をすることで信頼を勝ち得る。その上で、漏洩することを前提とした秘密の話を『ここだけの話なんですけど、、、』と話して、その信頼を強固なものとする。かなり上手くいっているみたいだ。相手の方から連絡先の交換を申し出てくれただけでなく、そこのお代を受け持ってくれた。【私】が対人理解能力があり、自己開示と人との信頼関係を築くのが得意な人物であるかのような錯覚に陥る。
私はコミュニケーション能力が高いんだ!!!
そう思いながら朝方4時、ドミトリーのベッドで泥のように眠る。
翌日、3時間の睡眠を経て起床した私は、まだ錯覚したような感覚を持ち越していた。お客さんとの商談も上手くいき、【私】自身を含めて商品を気に入ってもらえている。普段苦手としている雑談やヒアリング、スケジュールの提案が面白いようにあてはめられていく。
こういうときは今の仕事の面白さを実感できる。上手くいかないときは、自分の話下手さや、今後のこの業界の将来性のなさに嫌気がさしてくるのだが、、、やっぱり現金なやつだな、私は。
でもいまは、この仕事が楽しい。
数字がモノをいうこの仕事で、キレイゴトだけ言ってては生きていけない。(生きていけないというのは文字通り、生活ができないのだ。)
ただ
学生の頃に抱いていたような、この職業への憧れや希望を忘れたくもない。
いまは錯覚に陥ったままで、自己開示を嫌味なくでき、対人理解能力が高く、全てに憧れと希望を持った【私】でいたいと思う。
ちなみにゼミ名簿の更新はいまだ出来ていない。
(10.27)
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