見出し画像

DAY5 アラスカの嵐の中でお花摘み

前日に合流できなかったチームを待つため、この日はキャンプに留まった。ハイキングがないだけ、少し余裕があった。
キッチンタープの下で雨風をしのぎ、鍋にお湯を沸かして蓋の上で手袋や靴下を乾かした。ボトルにお湯を入れて服の下に入れると、少し寒さがマシになった。

Poop train (うんこ列車)に行ったとき、スコップで穴を掘ろうとして人差し指に怪我をした。切り傷程度だったけれど、雨で手が濡れているのでだらだらと血が止まらない。持ってきた絆創膏を貼ろうとしたけれど、それも濡れていてくっつかなかった。仕方なく絆創膏ごと包帯を巻いて手当てをした。
列車に乗るときはクマを警戒して4人以上。取り掛かるときはそれぞれ、岩の影や少し離れた丘の向こうに行って用を足し、また集合してからキャンプに戻る。
もちろん、すべきことをしている間はお互い見えないように気をつける。
冷たい雨と風の中で乗った『列車』は、このコースで最もみじめな思い出の一つになった。

やることがないので、みんな時間を持てあましておしゃべりをしていた。
料理チームのリアナ、ゴードン、ジェイクは自分たちの宗教について話していた。ゴードンはクリスチャンではないらしい。
「Wakoは神を信じてる?」
と聞かれて、Godは信じてないけどカミは信じてると答えた。
「カミは日本語でGodって意味だけど、ニュアンスが少し違う。私たちは自然に魂が宿っていると信じている。石や草木、生き物にね。さまざまな小さな存在にカミがいるって信じてるよ」
つたない英語でそう伝えた。

ゴードンは友達を訪ねて、日本に行ったことがあると言っていた。それがきっかけで日本の宗教観念に興味を持ったらしい。
ゴードンは21歳の大学生で背が高い。表情や話し方に優しさがあふれている。言葉の節々から教養や知的な雰囲気を感じるけれど、変なところもある。私がさっきリンゴを食べて芯を捨てようとしたら、『俺がもらうよ』と言って私が残した芯をボリボリ食べていた。彼は考えていることが深いしいつも的確なアドバイスをくれる。優しくて面白いけど、時々奇行に走る。

七月七日は七夕で、日本では願い事をする日だとみんなに話した。このとき星に願うとしたら、『早く家に帰りたい』一択だった。日本を発って一週間だったが、私はすでに日本に帰りたいくらいしんどい思いをしていた。
正直に言って、アラスカ以外ならどこでもいい。

「俺の名前、漢字で書いてくれる?」
とゴードンに頼まれた。
「オーケー、君にぴったりの漢字を考えるから少し時間をくれる?」
私はなにか縁起がよさそうな漢字がないか考えた。できればゴードンの性格に合うような。
ない知恵をしぼって考え出したのが『悟丼』
リアナは『利亜奈』 ジェイクはなんとかひねり出して『静来』
みんなかっこいい!と言って喜んでくれたけれど、私は彼らがこの漢字をタトゥーにしないことを祈った。

大粒の雨に打たれるタープの下で、アンドリューに地図の読み方を教わった。私たちが持っている地図には等高線や標高、川や湖が示されている。
最初に説明を聞いたときはさっぱりだったので、あとで彼に聞きに行った。川が流れている谷は『Drainage』
山頂は『Peak』 PeakとPeakの間のフラットな部分は『Bow』 等高線の間は100フィート。地図上の正方形の一辺は1マイル。
アンドリューはわかりやすい英語で教えてくれた。

明日は8マイル、およそ13kmを歩くらしい。20kgを超えたバックパックを背負ってアラスカの荒野をハイキング。想像すると気が重いので、心を空にして寝ることにした。
もう一つのチームが合流してくると、チームメイトが3人欠けていた。彼らはリタイアしたようだった。

いいなと思ったら応援しよう!