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DAY1 アラスカ旅の始まり

これから一ヶ月間を過ごすチームメイトと合流した。
チームは16人。ほとんどがアメリカの大学生で、日本人は一人だった。

インストラクターの一人、アンドリューがみんなを集めた。アンドリューは25歳くらい、よく動くしよくしゃべる。活発でポジティブなオーラがある。
キャンパス内の丘にめいめい輪になって座ると、彼はこのコースの概要を説明し始めた。

「NOLSのアラスカプログラムへようこそ。君たちは一ヶ月間、アラスカの荒野でキャンプ生活を送る。コース中は僕とジェシカ、ロジャーの3人が、インストラクターとしてキャンプのノウハウや安全管理を指導するよ。初めは二つのチームに分かれてハイキングを開始し、あらかじめ決めていた地点で合流し、全員で夜を過ごす。コースの中間では三つのチームに分かれて、それぞれ一人ずつインストラクターがついてハイキングだ。コースの後半には、インストラクターなしの完全独立コースを実施したいと思っている」

私はメンバーの顔を見回した。18歳のニューヨーカーもいれば、かなり年上に見える男の人もいる。全員に初対面のぎこちなさはありながらも、みんなリラックスした表情で説明を聞いていた。

「コースに関わるリスクについて。みんなコースの前に書類に目を通したと思うけれど、このコースは決して安全な旅じゃない。フィールドは都市部から離れているから、仮に大きな怪我や病気をしたとしてもすぐに病院にたどり着くことはできない。その場合は救急ヘリに来てもらう。アラスカでの危険は以下の通り・・・グリズリー、嵐、落石、落雷、低体温症、熱中症、川や湖で溺れる、骨折や火傷などの怪我、遭難など。コース中に何かあったら僕らインストラクターが対応をするよ。それから独立コースの前には、みんなにも野外での応急処置を学んでもらう」

このときの私は知る由もなかったが、私は実際に彼の言った危機に直面することになった。
なにか質問は? とアンドリュー。1人が手を挙げた。

「携帯電話は持ち込めない?」
「持ち込めないよ。スマホもその他のデバイスも、電源を切ってキャンパスに置いて行ってもらう。もちろん、鍵はかけるからね」

オーケー、いいね、とみんなが相づちを打った。

「他に質問がなかったら、荷物をまとめよう。明日の朝に今回のフィールド、タルキートナ山脈に出発するよ」

NOLSのキャンパス。奥に見える山がタルキートナ。


キャンパスの方を振り返ると、遠くにその山脈が見えた。
それから、インストラクターたちに荷物チェックを受けた。
女性インストラクターのジェシカは20代後半くらいで、しっかり者のお姉さん的な雰囲気がある。
私が持ってきた70Lの赤色のバックパックでは小さいと言われたので、NOLSから80Lのバックパックを借りた。ゲイターやトレッキングポールなど他の装備もいくつか借りてジェシカにOKをもらった。

その後手を洗って、全員で食料庫に行った。コース中は乾燥食料を調理して食べる。5日か6日ごとにフィールドに小型飛行機が飛んできて、食料を補給してくれるらしい。
食料庫には人が1人入りそうなバケツが部屋中にずらりと並んでいて、マカロニ、ナッツ、乾燥米、パンケーキミックス、スナック類などが入っていた。小さな袋に決められた量を詰めて、一人一つの食料バッグに配分した。重さは5kgくらい。

その後もテントの立て方や、クマに遭遇したときの対処法を教わり、忙しくしているうちに夕食の時間になった。
その頃にはチームメイトの名前を覚えて、少しづつ会話も弾むようになっていた。

アラスカの夏は白夜で、夜中になっても日が沈まない。さっきみんなで立てたテントに入ったけれど、外は昼間のように明るかった。
何人かが卓球をしている音を聞きながら、帽子を目の下まで引き下げて眠った。

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