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DAY8 太陽だ!

今日は記念すべき日だった。アラスカの荒野に放り込まれて一週間、ついに空が晴れた。
今朝はテントの外でゴードンが
「太陽だー!!」
と叫んだので目が覚めた。
朝日が見られてこんなに嬉しかったことはない・・・やっと晴れた。

朝食に乾燥いもを水で戻して、ハッシュドポテトを作った。チーズの塊をナイフで少しずつ切り取って、ポテトに焼き目をつけた。食料袋にはパックにされた一抱えのチーズがある。チーズやライス、ピーナッツバターなどは早めに消費しようと、料理チームで決めていた。80Lのバックパックを少しでも軽くするための工夫だった。
朝食のあと、ハッシュドポテトの余りとスナックをランチボックスに入れて、出発の準備をした。
今日のハイキングでは私が初めてDL(ハイキングチームのリーダー)をやった。チームはアンナとレベッカ、ロジャーの4人。
アンナはオレンジ色のジャケットを脱いで、サングラスをかけていた。レベッカはいつもの青いジャケットに、ピンクのキャップをかぶっている。ロジャーは水色のフリースに、灰色のバックパック。

【 DLメモ 】
<外的リスク>
・クマ ・落石 ・川 ・天気の急変

<内的リスク>
・チームの喧嘩や意見の食い違い ・怪我
・睡眠不足 ・食料や水の不足 ・体力が尽きる
・道を間違える

<距離>
4マイル

<チームのコンディション>
とても良い。

10時にキャンプを引き払った。丘を登って、尾根に沿って歩いていく。眼下には湿地帯が広がり、川がうねるように流れている。
チームの歩く道を決めて先頭を歩くのは難しいしエネルギーを使うけど、前に誰もいない状態を歩くのは気持ちいい。
アンナは視野が広いので、
「あそこに低木の茂みがあるから迂回しよう」
「湿地は避けたいから丘の上を歩こう」
といろいろアドバイスをくれた。
道を決めるとき、こういうルートで進もう、と提案したいのに英語でうまく説明できなかった。意見があっても伝えられないもどかしさがあった。
代わりにジェスチャーで
「こっち行ったらこっち」「あそこで休憩」
というように意思を伝えた。

16時頃に、他のチームとの合流地点である湖が見えてきた。泥水に足を突っ込まないように、岩の上を渡って湿地を横切った。左手には赤い砂やごつごつした岩に覆われた、急勾配の山肌が連なっていた。
水の干上がった河原で、またカリブーの角を見つけた。
持ち上げてみるとかなりの大きさで、カリブーではなくムースの角かもしれないとロジャーが言っていた。
キャンプサイトでバックパックを下ろして、大きな岩のそばで1日の振り返りをした。
「4マイルしか歩かなかったけど、倍歩いた気分だよ」
とロジャーに言っら、
「今日のDLはよくできていたよ。good job」
と言ってくれた。

今日の夕食ではジェイクが、リアナの助けを得て料理に挑戦した。彼は料理は苦手らしく危なっかしい手つきだったが、なんとかドライカレーができた。
「俺が今まで作ったことのある料理はトーストだけなんだ」
って言ってて笑った。
ジェイクは私と同じ18歳。茶色の巻毛にオレンジ色のジャケット、青いハイキングパンツを履いている。英語は通じるのになぜだか話が通じない。よくものを失くすし、頼まれたことを忘れる。でもなにかしら毎日みんなを笑わせるし、本人に悪気はないのでなんだかんだ好かれている。

夕食後にジェイクと明日のハイキングについて話していて、何気なく
「明日は大変な1日になりそうだな」
と言ったら、隣のタープにいたリアナとエマ、レベッカが振り向いて、
「Wako,英語めっちゃ上手くなったね?」
「すごく上達したじゃん!」
とみんなが大げさに褒めてくれた。私は純粋に嬉しくてありがとうと言ったけれど、実際には私の英語力が伸びたからというより、みんなが私に合わせてやさしい英語を使ってくれるようになったからだとわかっていた。
そのおかげで、最初の頃よりもずっとコミュニケーションがスムーズになった。

寝る前にビルとクリス、ジェイクの『poop train』(うんこ列車)をサポートした。行動は常に四人以上なので、人が足りないときは誰かを連れて行かないといけない。
みんなはスコップと手洗い用の石けんを持って茂みの裏に行った。
私は一人で岩に座って待っていた。アラスカで初めて見る夕焼けだった。
空いっぱいがあわい桃色に染まって、山の端に太陽が沈もうとしているのが見えた。

クリスが最初に戻ってきた。彼はあまり話さないし笑わない。いつも地面に寝そべっていて茶色のジャケットを着ている。
初めてちゃんと顔を見たけれど、ハリウッド俳優のような整った顔立ちをしていた。
「いいの出た?」
と冗談めかして言ったらyeahと答えて少し笑った。笑っているところを初めて見た。
「日本からアラスカに来るのにどれくらいかかった?」
と聞かれて、
「ほぼ24時間」
と答えたらクリスは驚いていた。
(東京→シアトル→アンカレッジの経路だったが、私はシアトルで飛行機に乗り遅れた)
ビルとジェイクが戻ってきたので、
「よし、みんなよくやった」
と声をかけたらビルが笑っていた。ビルはクリスとは反対によく笑うしよく話す。この前チームのDLをやって、12kmをミスなく導いていた。

今日は空が晴れて気持ちよかったけれど、ハイキング中はレインパンツをはいたままだと汗がむれて暑くなるので脱がないといけない。キャンプについて座ると寒くなってくるので、風よけのためにもレインパンツを重ねた方がいい。
昨日の夜、半乾きのジャージを寝袋に入れて寝たら乾いた。
今日は一週間前にぬれたハイキングパンツを入れて寝る。たぶんあさってには履けるだろう。ダウンも乾かしたい。
晴れの日が続いたら川で水浴びができるかもしれない。

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