小説【337字】夢幻潜入
『夢幻潜入』
古書店で、私は一冊の本を手に取った。
開くと、そこには「潜入捜査の手引き」と記されている。
ページをめくる度に、周囲の景色が変わっていく。
気づけば、私は見知らぬ組織の一員となっていた。
記憶が書き換わる。私は潜入捜査官。
だが、何を捜査しているのか思い出せない。
組織の中で、私は昇進を重ねていく。
そして、ついに最高幹部となった時。
鏡に映る顔が、本来の自分ではないことに気づく。
そこへ、もう一人の私が現れる。
「目覚めの時です」そう告げる私。
「あなたは本の中に潜入していたのです」
私は誰なのか。これは現実か、物語の中なのか。
選択を迫られる。捜査官か、読者か。
真実を求め、本を閉じようとする。
その瞬間、全てが霧散し、古書店に戻る。
だが、私の手には潜入捜査官の証が握られていた。