小説【325字】前人類の遺伝子
『前人類の遺伝子』
私は足を止めた……。
雑踏を歩く私の目の前で、通行人が突然姿を変えた。
人々の姿が歪み、獣のような姿になっていく。
だが、誰も気づいていない。私だけが見えるのか。
恐る恐る歩を進めると、景色が一変する。
そこは原始の森。巨大な獣たちが闊歩している。
「目覚めたのね」声がする。振り返ると、獣の姿の私。
「あなたの中の前人類の遺伝子が」と告げる。
現代と原始が重なり合う風景。
私の中で、人と獣が交錯する。
「選びなさい」獣の私が言う。
「進化するか、退化するか」
私は誰なのか。これは現実か、遺伝子の夢か。
選択を迫られる。人類か、前人類か。
真実を求め、自分の姿を見つめる。
その瞬間、全てが霧散し、元の街に戻る。
だが、鏡に映る私の瞳は、獣のように輝いていた。