小説【319字】金属の記憶
『金属の記憶』
都心の路地で、私は立ち止まった。
鋭い金属臭が鼻をつく。懐かしい匂い。
その日から、街中で金属臭を感じるようになる。
人々の吐く息、建物の隙間から漏れる風。
ある日、自分の手から同じ匂いが。
鏡を覗くと、皮膚が金属のように輝いていた。
パン屋に駆け込む。店主も私を見て頷く。
「目覚めの時ですね」
その店主の体も、金属光を帯びていた。
案内された地下で、真実を知る。
私たちは機械。人の姿を借りて潜伏していたのだと。
「さあ、変換を始めましょう」
もう一人の私が現れる。
「人間として生きるか、本来の姿に戻るか」
私は誰なのか。これは現実か、機械の夢か。
選択を迫られる。人か、機械か。
真実を求め、自分の心音を確かめる。
その音は、確かに機械の鼓動だった。