小説【315字】湖底の記憶
『湖底の記憶』
都心の地下鉄駅。私は階段を降りていく。
降りても降りても、終わらない。
気づけば、そこは巨大な地底湖の岸辺。
水面に映る景色は、懐かしい街並み。
湖面に足を踏み入れると、水中に引き込まれる。
だが、息はできる。歩くこともできる。
水中都市。建物は朽ち果て、人々は泡となって漂う。
その一つ一つが、記憶の欠片のよう。
泡に触れるたび、見知らぬ記憶が蘇る。
私の物語。私ではない誰かの物語。
湖底に、もう一人の私が横たわっている。
「これが本当のあなた」水中の声が告げる。
私は誰なのか。これは現実か、湖底の夢か。
選択を迫られる。水上の世界か、水中の記憶か。
真実を求め、湖底の自分に手を伸ばす。
その瞬間、全てが泡と消え、駅のホームに立っていた。