小説【346字】夢幻の住人
『夢幻の住人』
都心の古書店で、私は一冊の本を手に取った。
開くと、そこには見知らぬ街の地図が描かれている。
地図を眺めているうちに、周囲の景色が溶け出す。
気づけば、私はその地図の街にいた。
街を歩けば、どこか懐かしい。でも初めて来たはず……。
住人たちは皆、私を知っているかのように挨拶をする。
「お帰りなさい」老婦人が言う。
「長い旅でしたね」
私の中で、記憶が蘇っていく。
この街の住人だった私。でも、それは本当の私?
現実世界の記憶と、この街での記憶が交錯する。
「選択の時です」もう一人の私が現れ、告げる。
「この街の住人として残るか、元の世界に戻るか」
私は誰なのか。これは現実か、本の中の世界か。
自分の心に問いかける。
その瞬間、全てが霧散し、目が覚めた。
だが、枕元には見知らぬ街の何かの鍵が置かれていた。