小説【313字】匂いの迷宮
『匂いの迷宮』
都心の雑踏。私は立ち止まった。
甘い匂いが鼻をくすぐる。懐かしい香り。
その匂いに導かれるように歩き出す。
気づけば、見知らぬ路地に迷い込んでいた。
そこで私は、もう一人の自分に出会う。
「やっと来たわね」と微笑むその顔。私そっくりだ。
彼女の後をついていく。街が変容していく。
建物が溶け、道が伸び縮みする。
人々の姿が消え、かわりに色とりどりの霧が漂う。
それぞれが異なる匂いを放っている。
「これがあなたの本当の世界」ともう一人の私が言う。
「匂いで作られた記憶の迷宮よ」
私は誰なのか。これは現実か、匂いが作り出した幻か。
真実を求め、懐かしい匂いに包まれる。
その瞬間、全てが霧散する。
目覚めた私の手には、一冊の本。
タイトルは——