小説【321字】小石の記憶
『小石の記憶』
都心の雑踏。私は足元の小石を拾った。
掌の中で転がすと、不思議な感覚が走る。
目を閉じると、見知らぬ光景が浮かぶ。
開くと、そこは別の場所。別の時代。
私の姿も、着ていた服も変わっている。
そこへ、知らない人が近づいてきた。
「お待ちしておりました」と、私に語りかける。
状況が飲み込めないまま、私はついていく。
街並みが変わるたび、私の姿も変化する。
そのたび、小石が熱を帯びる。
「あなたの記憶は、この石の中に」
案内人が告げる。「あなたは誰になりたい?」
私は誰なのか。これは現実か、石の幻か。
選択を迫られる。いくつもの人生、いくつもの私。
真実を求め、小石を強く握りしめる。
すると、全てが霧散し、元の街に戻る。
だが、手の中の石は、まだ温かかった。