Vol.19【日本マリンエンジニアリング学会誌投稿レポート】≪対馬市における海岸漂着ゴミの現状と課題及び展望について≫

1.はじめに
対馬は南北82km、東西18km、海岸線はリアス式海岸になっており、海岸線総延長は915kmにも及ぶ。また、九州本土と朝鮮半島の間の玄海灘に位置し、韓国までは最短49kmの近距離にある。海岸には東シナ海から対馬海流に乗り、また、冬の季節風に押されて北西部の海岸には流木や発泡スチロールやプラスチック容器を中心に大量かつ多種多様なゴミが漂着してくる。対馬は、いわば漂流ゴミの防波堤とも言え、漁業への影響や美しい海岸線の景観の悪化は著しく、その回収や処理が大きな課題となっている。

2.漂着ゴミ問題をめぐる現状と課題及び展望
2-1漂着ゴミをめぐる現状
国境離島の海岸の漂着ゴミは、その量の多さや回収する上での地形上の問題から全てのゴミの回収と処理が困難であり、溜まり続ける一方である。年間どのくらいのゴミが漂着するかは、風向きや台風発生状況等の気象状況に大きく左右されるため、数量調査はあまり重要ではなく、むしろ、どのくらいの回収予算があれば、どれくらいの回収が可能かを基礎データとし、課題解決策を組み立てるべきであろう。実際、平成22年度は約3億円の回収費用で約1万5千立方メートルを回収、平成23年度は約2億円の回収費用で約9千立方メートルを回収している。

対馬市では、平成15年に「釜山外国語大学校学生とのボランティアによる海岸清掃事業」として始まり、平成20年度から「日韓市民ビーチクリーンアップ事業」として平成25年度まで毎年実施している。また、平成18年から3年にわたって環境美化、ワークショップと国際交流を目的とした日韓学生による漂流漂着ゴミ清掃活動(長崎県と対馬市の共同事業)「日韓学生つしま会議」が開催された。

一方、予算不足から従来の漂着ゴミ対策に関する自治体独自での対応は不十分で、離島漁業再生交付金を活用した漁業者による回収と、地元ボランティア等による自主的な活動レベルにとどまっていた。漂流漂着ごみは一般廃棄物とされ、末端自治体に処理責任が課せられてきたが、平成21年いわゆる海岸漂着物処理法の成立により海岸管理者の責任と明記され、その結果法律上大部分が国や県が責任主体とされた。関係法律の制定に伴い、地域グリーンニューディール基金が創設されたが、その基金要綱にNPOや地域の任意団体に対する支援を規定する条項が欠落しているという法と基金の乖離により、支援がままならず漂着ゴミ回収に携わっている地域ボランティアの崩壊が起こっている。

また、回収より処理に関する問題は更に大きな問題である。島の処分場の脆弱さから島外処理場への輸送にかかる膨大な運搬費用(トン袋1袋約1万円)がかかっており、その費用削減が喫緊の課題となっている。平成22年に島中央部に発泡スチロール限定の前処理施設が建設され稼動しているが、島中央部までの輸送費用が膨大であること、精製油の質が低く利用が進んでいないこと、その他のゴミの処理は相変わらず島外処理に依存していること等まだまだ課題が山積している。

2-2漂着ゴミをめぐる課題
対馬における漂着ゴミ問題解決には、本土からの隔絶性や地勢的特徴により、以下の3つの観点からのアプローチが必要と考える。

①漂着ゴミの回収:回収にかかる人(組織)もの(運搬機材、回収袋)の確保
平成22~23年度の漁業集落と委託契約をした手法を、特に次の3点において私は評価している。第1に、離島漁業再生交付金事業等で漂着ゴミ回収経験のある組織を活用し、漁船を仕立ててまで実施できたおかげで、その他の手法では回収できないほどの大量のゴミを短期間で回収できた。第2に、業者発注では見積もりを取らざるをえず、見積もり費用がかかる上に時化で無意味になる可能性を回避できた。第3に、回収者に日当が直接渡り景気対策としても効果的であった。しかし、平成23年1月30日付長崎新聞の<日当支給に疑問の声>との記事や、環境省がまとめた<漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会(長崎県)報告書>で挙げられている課題については、真摯に改善策を講じる必要がある。日当制による回収事業は、やっと対馬に芽生え始めたボランティア活動の機運を大きく後退させた。また、前述の<地域検討会報告書>では、「ボランティアによる回収を行う場合には、地元NPO法人では、資材や運営費の確保に困窮している。また、行政との協力関係が十分に機能していない。」「行政及び民間団体の清掃計画の共有化と効果的な広報が不十分である。」ことが課題として指摘されている。法と当該基金要綱の乖離を埋めるよう強く国に要望する必要がある。いつまでも多額の補助金をあてにできるわけがなく、ボランティアの育成なくして漂着ゴミ回収問題は解決できないだろう。

②回収漂着ゴミの処理:脆弱な処理能力と本土との隔絶性や地勢条件に起因する処理コストの改善
前項でも述べた通り、島内の漂着ゴミ処理施設が不十分であることから、回収漂着ゴミのほとんどを島外へ海上輸送しており、莫大な運搬コストが自治体の財政を圧迫している。排出した廃棄物の近円処理を促す『地廃地消』あるいは『ウェイストマイレージ』の観点からも、島内で回収した漂着ゴミのほとんどを処理できるような体制の構築を国に強く訴えていく必要がある。

③発生源に対する啓発活動:継続的に大量に漂着するゴミの発生源に対する発生抑制教宣活動の拡充
昨今、韓国でも中国由来の漂着ゴミが増大しており韓国国内では中国に対する不満が社会問題化している。そのような中、対馬での漂着ゴミ回収事業に参加した学生やOB・OGたちが韓国由来の漂着ゴミが日本に多大な迷惑をかけており、自らも反省すべきだという運動を始めてくれているという。これは、対馬市が継続的に韓国の大学と共同事業を開催してきた啓発活動の成果であると思われ、今後もこれらの事業を継続し続けることの重要性を示してくれたと捉えることができよう。

2-3漂着ゴミ問題をめぐる展望
本年8月末に、『日韓海岸清掃フェスタIN対馬』を開催し、漂着ゴミ問題の総合的解決に向けた具体的取り組みを開始する。このイベントの成功を通じて、広く漂着ゴミ問題への関心を高め、国に法が求める国境離島における漂着ゴミ問題の解決への責任を自覚させたい。

①漂着ゴミの回収:著名人が多く会員となっている「ふるさと清掃運動会」等漂着ゴミ回収を島内外から募集し漂着ゴミ回収を実施する。また、ボランティア組織の再構築と行政との協力関係の再構築を図る。

②回収ゴミの処理:数年来、漂着ゴミの資源化に向けてご協力いただいている「日本マリンエンジニアリング学会」の協力を得て、漂着ゴミの減容積化や再資源(エネルギー化)等国境離島に相応しいに漂着ゴミ処理方法の講演を行う。先ずは、市民から回収した廃天ぷら油を沸かし、そこに漂着発泡スチロールを投入すると10分の1から数十分の1に体積が減容化される漂着発泡減容化から取り掛かりたい。次に、石油精製品の漂着ゴミを回収現場で処理する可動式油化装置の実用化が待たれる。

③ゴミ削減啓発活動:ゴミ削減4R(Refuse,Reduce,Reuse,Recycle)運動を啓発推進する。

④ボランツーリズムの育成:絶え間なく漂着するゴミには、島内協力者のみでは対応は不可能であり、外部からの協力は不可欠である。外部からの協力を受けるために、来島したボランティアに対馬の魅力を満喫いただけるようなおもてなしの充実を図り、ボランツーリズムの推進に寄与する。

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