Vol.14【平成25年厚生常任委員会政務活動報告書】
(H25年11月6日~11月8日)
【はじめに】
今回、3つの視察地を選定した理由は以下のような思いからである。
①社会福祉法人南高愛隣会
本市においては、市内中学校の特別支援学級に席を置き卒業した生徒の多くは、親元を離れ島外の上級学校に進学あるいは就職をせざるを得ない環境であった。平成24年度より、関係者にとって待望の虹の原特別支援学校対馬分教室が設置され、高等教育課程を親元から離れることなく受講できることとなった。しかし、本市においては、厳しい雇用状況に加え、知的障害者に対する理解が比較的十分に整っている環境になく、分教室卒業後は島外に生活の拠点を移さざるを得ない状況は解消されていない。少しでも多くの分教室卒業生が、島内の家族と離れることなく生活できるように就労支援を充実させることが喫緊の課題となっている。知的障害者等の就労をはじめとする支援事業では全国有数の先進的な取り組みを永年にわたり実践されている南高愛隣会を訪問し、調査研究することで、本市において障害者がひとりの人間として自立生活がおくれるような環境整備の推進につなげたい。
②佐賀大学大学院工学系研究科
本市は、昨年度環境基本条例を採択し、市民協働による自然共生都市を目指すため環境基本計画を本年度策定した。佐賀市においては、佐賀市、佐賀大学、市民の三者で市民協働による環境学習と実践を十数年来実施している。事業の中心を担ってこられた、宮島徹教授と兒玉宏樹准教授を佐賀大学に訪ね、そのノウハウを学び、今後の本市における市民協働による環境政策に反映させたい。
③福岡市こども未来局子育て支援部子育て支援課
本市では、少子化が急速に進行し、いくつかのへき地保育所では入所園児の減少により近隣の保育所との統廃合も検討される状況が迫っている。一方、都市圏では待機児童対策として、5名定員の小規模な保育施設である保育ママ制度を実施する自治体が増加している。本市のように広範かつ津々浦々に点在する集落が多い自治体においては、乳幼児とその保護者に過重な負担とならない通園距離内に保育施設を存続できる方法として、この制度の導入が有効な手段とならないかを調査研究するため、現地視察を行った。
なお、本調査事前準備に際し、本市の現状把握をする上で、対馬市保健福祉部、対馬市教育委員会、対馬市市民生活部自然共生室には有益な資料の作成をいただき大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
【11月6日午後1時半~午後4時半】
〔訪問先〕社会福祉法人南高愛隣会(コロニー雲仙)
[1]法人本部
担当者:施設長 前田康弘氏
1.法人の概要について
社会福祉法人南高愛隣会は、1978年に入所施設事業を開始し、現在は69事業を展開し、職員約600名で様々な障害を持つ約2千名の方に福祉サービスを提供している。サービスメニューは6つに分類(①日中支援、②生活支援、③相談支援、④居宅支援等、⑤医療支援、⑥罪に問われた障がい者・高齢者への支援)される。各種サービスメニューの内容、各種事業所に所在地等は、別添リーフレット参照。
2.法人の理念について
<コロニー雲仙の活動指針>
①「誰のための福祉か」を第一に考え、障がいを持つ人達の思いや願いに寄り添い、その実現を目指すための活動を行います。
②どんなハンディキャップがあっても病院や施設という「特別」な場所でなく、生まれ育った「ふつうの場所でふつうの暮らし」が出来ることを目指します。
③未整備な施策については、モデル的実践に取り組み、実践を基にした政策提言によって、数々の制度や法律へつなげてゆきます。
3.法人の理念の実践について
前項の活動指針に則り、「食堂で一斉に食事をとる」「チャイムによる規律」等は、集団行動の押し付けであると捉え、採用を廃止したことに始まり、福祉業界では当たり前だが、ふつうの社会では異常あるいは非常識とされてきたことからの脱却をフロントランナーとして以下のようなことを実践されて来た。
〇仕事と余暇を楽しむ潤いのある「ふつうの生活」は、福祉施設内だけではおくれない。地域に理解を求め、地域でのふつうの生活をしてもらいたい。
〇地域とのつながりを密にして、地域と施設の壁を低くすることで、地域で自由に活動し、就労することで、本人のための消費を促す。
〇就労することによる経済的自立を促進させるため、特に数少ないA型事業所(厚生労働省の管理下にあり、最低賃金の適用を受ける)を法人自ら積極的に展開する一方、行政と連携し民間事業所での雇用をも産みだしている。
〇家族だけではなく、異性との関わりを持ち、愛する人を守りたいという欲求を抱く機会を準備してあげたいとの思いから、結婚推進室ブーケも開設した。破局を経験することも人生として価値のあることだと捉える。
〇障がい者の再犯率が高いのは適切な福祉がなされず、人生の大半を刑務所で過ごさざるを得ない方が少なからずいる。福祉が担うべき部分を刑務所が担ってきたのではないかとの考えから、新たに触法者への支援も始めた。
[2]コロニーエンタープライズ
担当者:事業部長 佐用伸二氏
1.法人設立目的について
ふつうの場所でふつうの暮らしをするためには、経済的自立が求められる。経済的自立を図るために労働の場をまずは法人自ら展開しようと、日本の知的障がい者の福祉工場のモデルとして1985年に地元島原半島の特産品である素麺の製造工場を設立し、就労の場を提供している。更に、一般企業就職に向けた取り組みを行っている。
2.法人の事業概要と就労状況について
うどん・チャンポンやラーメン等の製造にも事業を拡張し、障がいの程度に応じた、就労の場を提供している。2007年障害者自立支援法の成立により、本体の事業所から分離し法人化された。日産約1トン(2万束)、年間売上は約1億3千万円。就労継続支援事業A型30名、就労継続支援事業B型10名内触法者3名は実習として受け入れ、雇用している(職員13名)。就労者の約9割がグループホームに入居し、触法者は更生施設に入所している。A型の就労者には、月収約10万円~15万円が支払われ、グループホームを出て夫婦で生活支援を受けない方には、住宅手当が別途支給されている。B型の就労者には、工賃として月約3万円が支給され、年金約6万円とあわせて約9万円の収入がある。
[3]わーく・うんぜん
担当者:管理者 石原治基氏
1.事業所設立目的と現状について
障がいがある方が、希望する地域での生活や、日中の活動ができるように、個人のニーズに応じて、基礎的な自立訓練(生活訓練)から、就労移行支援事業、更には就職後のアフターフォローまで、「自立したい」気持ちをかなえ、より豊かな人生を築いていくための支援を目的として設立された。以前は、交通の便が悪い場所に事業所が設けられていたが、現在は国道沿いのバス停前に移転したことで、利用者の通勤が容易となり、身体的精神的な負担が軽減された。 利用者に就労先が決定した後の空き定員を年度途中での新規利用者確保が困難であること等の事業所運営上の課題もある。
2.自立訓練(生活訓練)事業について
働く為の、基礎的な習慣、力を身に付ける支援をする事業。定員15名。訓練期間は2年以内。
3.就労移行支援事業について
基本的な生活習慣が身についている方を対象に、施設外就労を実践し、「こういう場所で働きたい」という本人の意欲を引き出し、進路決定につなげる事業。定員15名。訓練期間は2年以内。就労訓練だけではなく、余暇の過ごし方を教えることも、継続就労を実現し自立した生活をおくれるようになるためには重要となる。平成22年度移行に、就労継続支援事業A型、B型に就労した実績は、平成22年度A型0名、B型3名。23年度A型1名、B型1名。24年度A型4名、B型3名。25年度(9月現在)A型1名、B型6名。
[4]瑞宝太鼓
担当者:事業所長 福岡心治朗氏
1.瑞宝太鼓の沿革と概要について
1987年に長崎能力開発センター利用者の余暇サークルとして発足。活動を継続するうちに、「プロになりたい」との声がたくさんのクラブ員から上がり、その夢を叶えるために2001年に4名の団員で構成するプロとしての「瑞宝太鼓」がスタートした。現在は、団員は13名(定員15名)。
2.現状と展望について
プロ集団「瑞宝太鼓」の団員は、コロニーエンタープライズ就労者と同様に就労継続支援事業A型の適応を受ける。年間約120回の公演活動のほかにも、瑞宝太鼓メンバーが講師となり、講習活動や太鼓フィットネス活動を展開している。2011年には瑞宝太鼓団長を主人公としたドキュメンタリー映画が完成し、全国で自主上映が展開されている。また、メンバーから3名が長崎県から委嘱を受けて、自らの言葉で生き様を語る障がい者夢大使として講演活動も実施している。今後は、プロ集団「瑞宝太鼓」として独立採算が可能となるよう、更なる発展を目指している。
【11月7日午後1時~午後3時半】
〔訪問先〕佐賀大学大学院工学系研究科
担当者:佐賀大学大学院教授 宮島徹氏
1.鉄イオン供給による水質浄化について
豊かな森が豊かな海を育てると言われる。これは、落ち葉の成分が地中の鉄分と結合し、植物プランクトンや海藻の栄養源となる鉄イオンの一種に変化し、水質改善を促進するためと考えられている。自らの豊富なデータを基に、鉄イオン散布による淡水の水質改善実証結果と考察をご教授いただいた。
2.鉄イオン供給による影響が表層と底層では異なる理由の仮説について
実験結果から、鉄イオンの供給と微生物の活動は強い相関関係が認められた。鉄イオン散布の効果が現れ易い季節と現れにくい季節がある。夏期は表層が温められため表層では光合成が盛んとなり酸素が多く供給され、鉄イオンが酸素と結合し底層へと沈殿する。一方冬期は水温が低下し、表層水と底層水が混じりやすくなる。また、特定のプランクトンのみ月の満ち欠けによる極端な反応が認められた。新月の時期つまり引力が強い時期に活発化する。海であれば干満の影響が考えられるが、この実験は淡水のダムであり干満は生じない。
宮島教授は磁力により底層の鉄分が表層へと舞上げられることでプランクトンの活動が活性化されるのではないかとの仮説を導き出すに至っている。
担当者:佐賀大学総合分析実験センター准教授 兒玉宏樹氏
1.佐賀市における市民協働による環境政策の歩みについて
佐賀環境フォーラムは、佐賀大学、佐賀市役所佐賀市民が一体となって環境問題について学び、体験していく平成13年から活動を始められているプログラムです。このプログラムは、前期にオムニバス形式の講義や体験講座を実施し、後期には前期プログラムで得た知識や体験をもとに、環境問題へのアプローチとワークショップを行っている。
2.佐賀市における市民協働による環境政策の今後の展開について
昨年度から通年で行われているワークショップでは、プログラム開始当初から行われている問題探求型に加えて、平成22年度から行われているインターンシップ型の2つがある。特にインターンシップ型では、佐賀県内のNPO法人と学生が連携し、新たな取り組みが試行されており、域学連携年に選定された対馬市においても参考にすべき点があると思われる。
【11月8日午前8時半~午後0時】
〔訪問先〕福岡市議会事務局
応接者:議会事務局総務課総務係長 内藤和則氏、 総務係 山田浩二氏
担当者:こども未来局子育て支援部子育て支援課課長 正木康徳氏 同課子育て推進係長 越智佐和子氏、 子育て推進係 大野直樹氏
1.福岡市の概況について(省略)
2.福岡市における家庭的保育事業の概要について
担当係長より、福岡市における待機児童数は平成20年度303人から平成24年度893人のピークとなったが、平成25年度は695人に減少したもの、0歳から2歳までの待機児童が増加しており、今年度中に16保育室の増加を予定しているとの現状報告がなされた後、当該事業の制度概要等について配布資料に沿って説明を受けた。
〔訪問先〕ファーストチャイルド:個人実施型(西区)
家庭的保育者が補助者1名を雇用し、賃貸マンションの1室で運営。当日は、市が雇用する家庭的保育支援者が支援に来て3名で保育にあたっていた。保育時間は、午前9時から午後5時で、延長保育は受け入れているもののフルタイムで働く保護者は対応できない。極端な食物アレルギーのある児童がいないため給食はほぼ同じもので対応が可能とのこと。保育所実施型であれば、補助者の補充等が容易であるが、個人実施型では不安がある。また、家庭的保育者が長期療養が必要となった場合の通園児童の転所等の不安要素がある。
〔訪問先〕けやきA・B:保育所実施型(城南区)
事業主体である認可保育所近隣の一軒家で、認可保育所の職員がA・B2事業所に家庭的保育士及び補助者として専属的に派遣され、運営されている。
もともとフルタイムで働く保護者は事業主体の本園に預けるため、延長保育の必要がない。また、給食も本園で準備するためその分保育に集中でき、食物アレルギー児童用の給食も対応しやすい。ただし、対馬市に保育ママ制度導入を提案しようとするのは、本園から遠隔地にある地区であるため、保育所実施型で実施したとしても、それらのメリットの多くは享受することは困難であろう。
【おわりに】
今回、対馬市の課題解決に向けたヒントを探ろうと3つの視察地を訪問した。
行政当局が本拙稿の内容を真摯に更に深く調査研究され、施策に反映されることを切望する。視察地毎の感想を以下に記すので、参考とされたい。
①社会福祉法人南高愛隣会
本市における障がい者特に知的障がい者の雇用は、授産施設での作業に留まっているのが現状である。昨年度、地元の社会福祉法人が経営する老人ホームへの就職が受け入れられたことは、大きな前進であろう。
初めから一般の民間業者への雇用は困難を極めると思われ、学校給食センターや、市の指定管理施設(ほたるの湯で既に実施されている)への障がい者雇用の義務付け等を指定の条件にする等、公的事業所・施設において、まずはインターンシップの受け入れからでも実施してはどうだろうか。あるいは、漂着ゴミの選別を健常者職員を指導者とし、障がい者の労務管理を担わせる等、対馬市の課題解決に向けた事業での雇用も考えられるのではなかろうか。
②佐賀大学大学院工学系研究科
対馬市は、「海」「森林」「地域コミュニティ」「国際ビジネス」「生ゴミ」の『5つの循環システム』構築に取り組んでいる。これらのシステムを円滑に推進するためには、市民の積極的参画を促進することが、必要不可欠である。本市は、市民基本条例において市民団体やNPO法人の支援育成を積極的に行う旨規定した。現在、多くの市民団体やNPO法人が島内で活動しているが、それらを有機的につなぐプラットフォームの役割を果たす組織が必要と思われる。本市における市民協働による施策のシンボル的事業として、環境政策におけるプラットホーム構築を早急に図り、産学官金域による事業展開へとつなげられたい。
③福岡市こども未来局子育て支援部子育て支援課
本市では、急峻な山岳、入り込んだ海岸線を有する地勢上、隣りの集落とでさえ隔絶性があり、古より津々浦々の地域コミュニティによる子育て支援が脈々と続いてきた。現在は交通インフラが整備されてきたとは言え、少子化が急速に進行し、保育所の存続を可能ならしめる入園者の確保が困難な地域が生じている。近年、幼稚園教諭、保育士の中には定年を迎える方が多く、それらの方々を家庭的保育者として、現有の保育施設を活用した、5名定員の小規模な保育施設である保育ママ制度を、公立私立の認可保育所との有効な連携支援のもと(民間委譲も含めて)導入できないか、更なる調査研究を期待する。