上機嫌な男
Labyrinth-苗場-新潟
.
.
新潟は雨が多い。新潟では曇りでも雨が降ってさえいなければ
.
.
「晴れた」
.
.
と言うらしい。もう雨降ってないんだから、どんよりと雲がかかっていようが、それは「晴れ」だと。
.
.
そんなだからラビリンスも4回か5回くらい行ったけど基本全て雨。3日間で一日でも晴れたらツイてるな、くらい雨。
.
.
「雨を感じられる人間もいるし、雨にただ濡れるだけの奴もいる」
.
.
とボブ・マーリーが言っているけど、さすがに三日三晩雨を感じていられない。靴下に雨水が浸水しだしたあたりから、ただ濡れているだけの奴に成り下がる。
.
.
どこのフェスやレイヴでもそうだと思うけど、開催期間だけそこに街が生まれる。
.
.
ステージやダンスフロアを駅に例えると、そこから離れるとまず通りに飲食店。食べ物屋が並び美味しそうな匂いと湯気で人々を誘い込む。その並びにはすでにテントがチラホラ。ここに住むのは商店街に住むのと一緒で便利さと喧噪の共存だ。フロアにもすぐ行けるし、ご飯もすぐ食べられる。騒がしいけど、便利な立地だ。便利が一番派。駅徒歩10分以内。
.
.
そこから少し歩くと子供連れのファミリー達が集う平和な雰囲気のテントが立ち並ぶ一角がある。街に例えると閑静な住宅街といったところか。ここは夜は静かに、という雰囲気が醸し出されている。
.
.
平和なテント村を過ぎたあたりからバリエーション豊かに勝手な場所に皆テントを立て出す。木陰や通路沿い、小高い丘。このあたりにテントを立てる人達は不便さと引き換えにパーソナルスペースに重きを置く。住環境重視派。
.
.
ちなみにぼくがテントを立てるのはもっとさらに奥で
.
.
「ここから先は行っちゃいけませんよー」
.
.
の手前くらいまで行く。
ここまで来てもまだ周りにチラホラテントは立っているけど、もうなんだかわからない人達が多い。
.
.
隣の外国人含むなんだかわからない人達は、小さいビニールシートに4人でキツキツになりながら寝転がっていて、目が合うと
.
.
「おいでおいで」
.
.
の手招き。いやいやいや、4人でキツキツなのにどこ入ればいいの?おれ入ったら全員で密着状態じゃないですか。
.
.
そんな中、反対側のテントの一団が女性3人に男性1人の不思議な組み合わせ。
.
.
暇つぶしに眺めていると、女性3人に男性がこき使われている。忙しなくアレやコレやとテキパキ働いている。
.
.
これはあれかね、パーティー行きたいけど、女3人じゃさすがにアレだからって男手として連れてこられた感じかね。でも、なんか大変そうだな、頑張れ!!
.
.
奥の奥にテントを立てたものだから、ステージまでが非常に遠い。
.
.
「あ、ライター忘れた。ビールもまだあったよな」
.
.
なんて言って帰ってこられる距離じゃない。なので一回ステージに行くと決めたら当分帰ってこられない。そう、長期戦の覚悟で出発しなくてはならないのだ。
.
.
そろそろ行くかと準備していると、隣の忙しない男の人も準備をしていたので、なんとはなしに声をかけた。
.
.
「長期戦ですか?」
.
.
それを聞いた彼は襟をビシッと正しながら堂々とこう言った
.
.
「ええ、上機嫌です!」
.
.
「!!?……そうですか。上機嫌ですか。それはそれは、、、なによりで……」
.
.
上機嫌らしいよ、、、上機嫌。久しぶりに聞いたよ、その言葉。でも上機嫌なんだからとにかく良かったよ。