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昼下がりの訪問者 424
「すみません…」
昼下がりに玄関網戸の向こうから声が聞こえた。
「あー…タイミングー…」とわたしの頭の中。
ちょうど出かける準備をするため二階へ上がろうと玄関を通っていた時だった。
「裸足で歩いてたら足音もしなくてよかったかも…」なんてこの後に及んで頭の中では「なんとか居留守にできないか」モードが展開されるのだけど、網戸越しには声の主のサンダルが見え、ごつめののれん越しでも帽子をかぶっている姿がわかる。
「はーい」
わざとらしく返事をする自分に「おいおいおい…」なんて頭が騒がしいけれど、そんなこと言ってられない。
玄関を開けてみると…知らない年配の女性が一人。
「あの、実は…」とその方がおっしゃるには…
2018年頃、道に迷いうちに道を聞きに立ち寄ったことがあったらしく、その時「すぐ裏ですよ!」ってことで女の人が行きたかったお宅に連れて行ってくれたということだった。
ご自身は関西の大きな病院で2度手術を受け現在術後の経過観察中なのだが、思いたって島の知人に会いに来たけれど…先方のうちが思い出せない(今回も迷った)。でも、道を尋ねたこのうちは覚えていたので今一度寄ってみた、なので「もう一度道を教えてもらえませんか?」という、なんとも不思議な訪問だった。
わたしにはその話に心当たりはなく、訪問したいお宅の名前を聞いてもうちの近所には同じ名前の方はおらず全くわからなかった。
この辺りは同じような苗字が多いし、聞けば会いたい方は90代の女性とのこと。
…わたしの守備範囲を超えていた。
大体、こういうことに応答したのはこの人物しかいない…ということで、その方には玄関で少し待っていただき昼寝中の母を起こしに行った。
その後、母を交えて話すも…母にはお昼寝途中だったからか、それとも根こそぎなのか、その道を尋ねられ案内した記憶はなかった。
でも、探している方のお名前、年齢を聞くと母には心当たりが浮かんだのだけど、いろんな意味でご在宅かどうかわからない…(←本当にごめんなさい)と三人で「どうしたもんだ」と少々考えていた。
「先方にはご連絡されてるんですか?」と聞くと「思いたって今日やってきた」とのことで、先方のご家族とも連絡をとっていないようだった。
名前しかわからず、電話番号も知らないと…。
そんな状況の中、なぜか母とその方が「会いたい90代の女性」の話をしていると「とにかくあの方は字がきれいで」「そう!本当に達筆なんですー」なんて話になり「お手紙でのやり取りはあるんですか?」との問いかけに
「はい!あります!ご住所も言えますよー!〇〇町〇〇3-3!」
と元気に答えてくれた。
「住所!住所そらで言えるんですかっ!」とわたしは勝手にいろめきたった。
そこからは話が早くて、その住所を町内の地図でチェック!
母の思っていたお宅だった!
そのお名前・ご住所から電話番号を電話帳でチェック!(←レトロ!)あった!
ということで先方に電話をかけ、関西からの客人をご案内してもいいか伺い、無事ご案内することができたのだった。
母と一緒にうちを出て行くその方を見送りながら、先ほどまでのいろいろを思い返していた。
聞けばその方自身も80代で(キラッキラのツヤッツヤで元気のいい女性だった!)前回の手術も大変なものだったとのこと。
その手術も乗り越えた先に、今朝思いたって関西を出発し、交通の便もよくない島にバスでやってきて家を探してまで会いたい人がいる。
そして、その方の顔を見たら、そのまま今日中に関西へ戻られるとの話だった。
そんなにして「会いたい人」そういう人がいて、思いたったから…とそのまま動けて、その人に会えて…
逆に自分をそうやって尋ねてきてくれる人に会えることとか、そのご縁とか…
なんというか、サプライズとかお盆の帰省とはまた違う「人の交差」や「思いつきを行動する(ランダムウォーク)」をこのタイミングで目にしていることに不思議さとおもしろさを感じずにいられなかった。
ちょっと後味の楽しい、不思議な風の吹いた日だった。