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EP13.【髙鍋秀祈#29】

再三熱した野球愛
20歳が挑む新たな挑戦とは


勝負論を生んだ意外な特技

とにかく負けず嫌いな性格だった。

野球好きな父と兄の影響で野球の道へ進んだ野球一家の次男。
周りの友達がサッカーをやっていたこともあり、当初はあまり乗り気ではなかったという。

入団してからは外野を守ってきたものの、一年も経たないうちに肘の炎症が発覚。
小学校3年生には一度野球を辞めることとなる。

そんな髙鍋の人生には、3つ離れた兄の存在があまりにも大きく影響している。

地元では野球で結果を残してきた兄。
引け目を感じる部分もあったという。

「小6・中1の頃は反抗期に入っていた。兄貴のことを毛嫌いして喧嘩ばかりしていたと思う。」

常に比べられてきた兄であったが、そんな兄に言われたある一言が再び野球への熱を燃え上がらせた。

“逃げるのか?”

中学校へと進む手前、その一言に刺激をもらった髙鍋は、半ばヤケクソの気持ちで野球部への入部を決意。
毎日のようにバットを振ったりシャドーピッチングに勤しむ日常へと変わっていった。

そしてもう一つ。
髙鍋の勝負論を生み出した大きなきっかけがある。

それがアクロバットだ。

脚を速くしたい思いのもと始めたアクロバット効果により、思惑通り脚力が上がってきたのを実感した。

「ジャンプ力・地面を蹴る力がついてきた。100m走も12秒台まで縮まった。」

中2の時に目覚めた走ることへの探究心は、その後のプレースタイルの幅を大きく膨らませるほどだった。

脚の速さを活かした外野守備にバントなどの小技スキル。
兄の背中を追いかけてしがみついた勝負の世界で、生きていく活路を自分自身で切り開いていった。

「進路相談の時にスポーツ推薦の話をされた。兄貴も推薦進学なら自分も推薦で。」

スポーツが盛んな高校への進学が決まった髙鍋は、片道10kmの道に文句もたらさず通い続けた。

中学では外野手をメインに守っていたが、日は浅くともいろんなポジションを任されていた。
例に違わず捕手も守っていた髙鍋は、その経験から一年生の頃は捕手としての扱いが多かった。

「盗塁も刺せなければ配球もわからない。出場機会もあまりなかった。」

B戦での出場がメインだった髙鍋だったが、監督の指導により成長を実感。
次第に盗塁も刺せるようになっていた。

「地域の準公式戦での出番がキャッチャーとしての最後の出場だった。」

新しい学年の加入により適正を見定められた髙鍋は、2年秋よりサードのスタメンを勝ち取った。

その後卒業までレギュラーの座を張ってきた髙鍋だったが、最後の夏にでも結果に恵まれることは叶わず。
父親の会社へと就職が決まったこともあり、またしても野球からは離れた世界へと進んでいった。

闘志を沸かせた和歌山ウェイブス

仕事の都合で広島での生活が始まった。

高校卒業後全く野球をしていなかった髙鍋だったが、帰省のタイミングでは父親に連れられて野球観戦へ行くことも。
その先というのが和歌山ファイティングバーズ(現和歌山ウェイブス)だった。

自身が再びグランドへ戻ることは想像もつかなかったのだろう。
父親から“もう(硬式)野球はやらないのか?”と聞かれても断念していた。

期間にして約一年。
ただ観るのが面白くて脚を通わせていた野球観戦も、次第にプレイヤーとしての闘志に火をつけてしまった。

「母親には反対されていたが、前監督に(野球がしたいと)直談判しに行った。父親にも問いただされたが、どうしても野球がやりたくなっていた。」

努力したら自分もこの世界に入れるかもしれない。
今まで我を通すことはなかった髙鍋だが、この想いだけは譲れなかった。

本気で野球選手としての道を目指した以降、職場でも兄と共に練習に日々を過ごしてきた。

「この頃にはもう兄貴とのわだかまりはなくなっていた。休憩中にキャッチボールに付き合ってもらったり、公園でノックを打ってもらっていた。」

強みの脚に磨きをかけることはもちろん、他の能力全体に引き上げを図っていた。

自ら課したトレーニングをこなし、受けた個別トライアウトにて憧れた和歌山ウェイブスへの入団が決定した。

「入ってすぐは実力の差を感じた。(野球が)やりたい気持ちだけでは通用しない。」

特に堅木とは同い年。
意識する部分もあれば、差を感じやすい存在なのだろう。
聞きたいことは全部聞き、年上メンバーを見て真似することもあるという。

入ってすぐ感じた肘の痛みも、西村監督の指導の甲斐あり時期に改善へと向かっていった。

「最近言われていたことが無意識にできるようになってきた。高校の時より送球も良くなっている。」

普段はなかなか出場機会に恵まれない髙鍋。
やるせない日々も多いだろう。

そんな思いを汲んでか否か、髙鍋の出場時にはチームのメンバーも盛り上がる。

「(試合に出たら)チームのために何かしたい。守備機会も少ないけどノーエラーが目標。」

ようやく入れたチームの輪。
今シーズンここまで貫いてきたノーエラーへかける思いと共に、嬉しそうに語ってくれた。

やるべきことが明確な分準備はしやすい。
急な起用にも対応できる能力に、本番での勝負強さを自負していた。

「来シーズンの和歌山残留は決めている。成長が見込めたら他のリーグへの挑戦も見据えたい。」

諦めかけたかつての夢。
逃げたくない。諦めたくない。
再三灯った灯火を胸に、20歳の挑戦は続いていく。

クリエイティブな器用人

自作のアイコン

親思いな面が強く、昔から頼まれごとには嫌な顔せず答えてきた。

小さい頃から料理もまめに手伝い、高校生の頃には自作の弁当を持って通学していた時期もあったという。
和歌山へ来てからは、橘・小﨑らに手料理を振る舞うほど。

なんでも器用にこなす髙鍋は、一昨年から始めたデザイン作成(主にアイコン作り)も時間を縫っては手がけていたという。

緻密な作業に嫌気もささず、そつがない。
無茶な起用にも器用にこなす。

野球という緻密で繊細なスポーツだからこそ、小さく確実な積み重ねが野球人・髙鍋秀祈を大きな成長へと導くことだろう。


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