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EP23.【森悠介#3】

和歌山不動の司令塔
積み上げた努力でプレッシャーを跳ね除ける

身近な存在を超えるべく

“勝てる・刺せる・指示も出せる”

入団一年目から目の前にそり立つ高い壁は、自分が描く理想の姿と重なって見えるようになっていた。

「練習が始まって思ったかもしれないです。“こりゃ出れないなぁ”って。入団する前から(深谷さんの)バッティングがいいのは知ってたから。キャッチャーの深谷さんになりたいです。」

わずか9試合の出場で幕を閉じた一年目のシーズンは、立った打席も13止まり。
主にブルペンキャッチャーとして過ごす時間が長かった森は、それでも学ぶ姿勢を貫いた。

「深谷さんがキャッチャーやってる時は、自分も配球しながら見てました。こうするかな、ああするかなって。(深谷さんに)どこが勝てるかって考えながらやってました。」

噛み締める思いで過ごしたシーズン。
周りからの提案も汲み、新たなポジションへのコンバートに挑戦した森は、その年主に堅木とサードの座を争うようになっていた。

「最後は負けましたね(笑)。けど試合に出られるようになったのは楽しかったです。バッティングは深谷さんに聞いて、守備も榎本(前和歌山ウェイブス)さんに聞いたりして。」

笑いながら振り返った昨シーズンは44試合に出場。
ベンチで学んだ知見とは違い、肌で感じた新たな気づきは今後の糧となる大きな財産となっていた。

「スローイングは自信ありましたけど、バッティングは入った時から課題でした。(バットを)振れないから打球も飛ばないし。あとサードで出てても試合中あんまり体動かしてる感じがしないっていうか。やっぱキャッチャーが一番楽しいですよね。」

縋りたくなるほどの柱の存在。
深谷が移籍する直前まで指導を仰いでいた森は、昨オフには確かな手応えを掴み始めていた。

「去年のシーズン終わった頃くらいから深谷さんの言ってることがわかってきたかなって。そこからめっちゃ飛距離も伸びました。」

個人の成長は身に染みて実感。
それでも新チームに対する危機感とプレッシャーが正捕手候補へと大きくのしかかることとなる。

重圧を乗り越えチームの司令塔へ

優勝したメンバーがこぞって抜けた和歌山ウェイブス2年目のシーズン。
口には出さずとも責任感の強い森は、チームに対してどこか使命感にも駆られていた。

「メンバー見て不安はありました。去年優勝してましたし。勝たなきゃいけないなっていうのはありました。」

10人いた投手のうち残留したメンバーはわずかに3人。
しかし新たな価値観を持つ監督の加入は捕手・森としての存在価値を高めることに。

「スローイングと考え方はだいぶ変わりました。ミスしたら結構引きずるタイプなんで、西村さんには“反省は後でいい、次のプレー次のプレーを考えろ”って言われました。」

“キャッチャーのことだけ考えてればいい”
突き放したかのように聞こえるセリフに、頭を抱える日々も続いた。

「ブルペンの過ごし方についても言われました。自分の声かけとか、ブルペンで意識することとか。そっから変わってきましたね。」

どこか物足りなさを感じる投手陣でも、試合となれば勝ちを求められるのがキャッチャーの宿命。
ようやく森の努力が形となり、試合でも“勝利”という結果が続いた頃にはシーズンも中盤を過ぎていた。

「3年間めっちゃ充実してますけど、今年は西村さんが来たのが大きかったですね。打席の中の考え方も、自分がキャッチャーとして教えられてることをその打席の中に持っていくみたいな。」

9月21日の試合では企画された3つの盗塁全てを刺してチームに流れを呼び込んだ。
まだまだ失敗だらけのプレーもあるが、今年は上位打線に座る試合もあり、着実に力を蓄えている。

「今年が一番野球のことを知れました。視野も広がるし考えも変わるし。今まで知らなかったことを知れました。」

試合に出ることで一端の野球人へと成っていく。
そんな森だが野球人である前に、社会人になることを展望する。

「社会に出て自立したいです。人の力を借りるのが嫌なんで。野球は続けます。」

努力が報われるまで努力する。
苦労続きのミカン戦士は未完のままでは終わらせない。

他を見返すほどの努力の証は人の気持ちを込み上げる。

常に勤勉な野球人

遠征先への移動中。
常に野球の動画を視聴する森。

「四国とかBCとか、独立リーグは面白いです。配球とか、キャッチャーばっか見てますね。勉強って感じです。」

たまに書籍でも知識を得ているとのこと。

試合中でも見過ぎなくらい周りへの視線を怠らない姿勢は、生粋のキャッチャー向きとも言えるだろう。

自分のことで抱える課題は山積みの中、全体に向ける視野の広さは感服する。

そんな森が“正捕手”として、このチームに君臨するのもあと1試合。

彼の勇姿を見届けろ。

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