EP6.【馬場尚輝#27】
8年ぶりの公式戦出場
大学卒業後、富良野ブルーリッジへ入団した馬場は、その後二年間すながわリバーズ(共に北海道ベースボールリーグ・以下HBL)に在籍。
そして今シーズン新たに和歌山ウェイブスへと入団した。
高校・大学時代で出場機会に恵まれなかった過去もあり、独立リーグでは実に8年ぶりの公式戦出場となった。
高校入学時には可能性を広げるべく、投手・野手両方を視野に入れていたものの、次第にバッティングを買われて野手に専念。
高校一年時、驚異のスイングスピード140km/h(NPB平均140~150km/h)を計測した馬場は、すぐさまB戦のベンチ入りをものにした。
しかし。
期待されていただけに悩ましかったのが相次ぐ怪我。
高校三年間で計5回の怪我を経験した馬場は、そのまま一度も公式戦のグランドに立つことはなかった。
大学時代にもその思いは晴れず、出番があってもやはりB戦。
部員数が多かったこともあってか、ここでも公式戦へは出場できなかった。
「自分は野球が好きだし、プロにも行きたかった。」
それでも馬場は、周りのチームメイトから感じる熱量の低下をもろともせず、野球を続けることを誓っていた。
独立リーグへ進むことを決断した馬場は、晴れて富良野ブルーリッジへ合格。アルバイトでは農業にも勤しんでいた。
「体を作るのはトレーニングだけじゃなく、ご飯から作られている。」
高校の頃から興味のあったという農家では、メロンやスイカの栽培も行っていたと言う。
そんな一年目のシーズンでは打率.225程度で終了したものの、次第に成績は右肩上がりに上昇。
北海道三年目のシーズンでは打率.308まで引き上げ、ホームランも1本記録した。
この成長の裏には新しい取り組みが響いていた。
すながわリバーズ在籍二年目。
パーソナルジムに通い始めた馬場は、自分の足りない要素と向き合いだした。
「野球の技術よりかは、体の使い方に重きを置いて指導を受けた。おかげで動作の悩みも改善されていった。」
新しい刺激を受けたことにより、伸び悩んでいたバッティングも向上。
スイングスピードも150km/hを超えだした。
「自分は俊敏性に欠けているから、軽い重さを速く動かすトレーニングを行ってきた。」
ボールを投げる感覚が良くなっていることも実感し、絶大な信頼を置いているトレーナの方には今でも連絡を取り合うそう。
まさに大器晩成型の野球人。
踏み出した新たな土地で、さらなる光を放てるか。
悔いなき人生を歩むべく、打てる捕手へ
「人生に悔いを残したくない。本気で野球ができるのも若いうちしかない。」
数ある選択の前にはいつだってこの軸がブレずにあった。
2023冬。馬場はアジア・ウインター・ベースボールリーグ(以下AWB)に参加していた。
AWBでは基本試合の日々だったが、より科学的に自分のプレーをフィードバックできた環境は、恵まれていたと振り返る。
そんな中、海外選手と触れ合ったことがきっかけで海外野球に興味を持ち始めた馬場は、帯同していたコーチにその旨を伝えるとこんなことを言われた。
“海外では外野手に需要がない。その代わり打てる捕手も少ない。”
まだまだ野球は続けたい。それこそ若いうちしか海外野球は経験できないと思い立った馬場は、25歳にして新たな挑戦を歩み始めた。
捕手として経験を積むため、AWBで声のかかった和歌山へ入団。
チーム数が多く、環境を変えてみようかと思ったことがきっかけだった。
「北海道では雪の影響もあり5~10月しか野球ができない。(和歌山では)雪が積もることがないから、外で野球ができて楽しい。」
まるで幼き野球少年のような発言だが、生粋の野球好きが伝わってくる。
グランドでは正捕手争いを繰り広げる森(悠)と共に練習することも多くあるが、何より必死にボールを追いかけている。
「楽ではないし、一番大変だけど経験は積める。すぐに良くなるとは思っていないけど、今後の野球に活きてくれれば良い。」
リードと配球。
ブロッキングとフレーミング。
それにスローイング。
一からの挑戦で頭を抱えることも多く、募る不安がバッティングにも悪影響を及ぼすことも少なくなかった。
オープン戦から捕手として出場していたものの、森(悠)の怪我からの復帰によりDHや途中出場での起用が増えてきた。
それでもやはり、元より持ち前であったバッティングには掲げる目標がある。
「ホームラン王のタイトルをとりたい。目指すは10本。」
純粋無垢な苦労人。
真面目にへこたれず、生きる道を探求し続ける。
的を外した筋力トレーニング
本来野球のパフォーマンスUPを見込んで行う筋力トレーニング。
それがいつしか“カッコいい体”を作る為のトレーニングへ、趣旨がズレていってしまうこともよく耳にする。
野球選手あるあるなのだろうか。
馬場もその最たる例の一人だった。
大学生の頃、フィジークに目覚めかけていた当時は筋トレに奮起。
体重72kg、inbodyの点数も98点と今現在の点数(92点)を遥かに上回っている。
男友達らと地元の海や温泉に行っては、かっこいいと称賛される度に優越感に浸っており、この頃が一番自分に自信を持っていたという。
それくらいの余裕と自信をなぜグランドで表現できないものか。
実に不思議だ。
年下ばかりの若いチームにも関わらず、“馬場ちゃん”の愛称で親しまれている。
塁上で見せる満面の笑みと豪快なガッツポーズ。
大好きな野球を心から楽しむ姿は、周りの人も虜にしていくに違いない。