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EP10.【安里晃紀#8】

独立独歩な沖縄の異端児
内なる想いを静かに燃やす


度重なる怪我に悩まされた野球人生

2024シーズンは7/4現在で28試合を終了。
他のメンバーが活躍の声をあげる中、チームでただ一人未だ開幕していない男がここにいる。

小学校4年生に始めた野球。
瞬くうちにのめり込んでいった。

ピッチャーとして自分で試合を作る
責任感あるポジションに魅了されたのだ。

学年が上がり、次第にチームの中心メンバーとしてプレーするようになっていった安里は、すでにプロ野球選手に対する強い思いが芽生え始めていた。

「今までお世話になった監督やコーチ、応援してくれている皆に活躍している姿を見せて恩返しがしたい。死んでもプロになる。」

いつだって自信に満ち溢れている。
少々言葉足らずなところがあるものの、口にする想いは常に熱い。

家庭の事情も重なり、満足に野球の練習ができなかった中学生時代を過ごしてきたため、高校では心新たに活躍を胸に誓っていた。

しかし入学早々に怪我と直面。
練習もできないほどの肘の痛みに襲われた。

「充実した高校生活だったかと言われたらそうじゃない。自分の弱さと悔しさに苛まれた3年間だった。」

野球ができないほどの怪我に困惑。
生まれて初めての経験をし、現実から目を背けた日々を過ごしていた。

その後も怪我の具合は一向に良くなる兆しを見せず、高校三年生の夏を控えた時期に突入しても練習にすら参加できなかった。

募る不安は増すばかり。
穏やかとは言えない胸中をチームメイトに打ち明けた。
しかしここで、返ってきた言葉にハッとさせられた。

夏の大会だけがすべてじゃない

初心を思い出させられたかのような衝撃を受けた安里。
プロ野球選手になるという軸に立ち返り、大学野球への挑戦を決意したのだ。

満を持して地元の大学野球部へ入部。
志高く練習に励んでいた安里は、次第にこの環境では満足できないほど志が高まっていた。

「独立リーグ志向は元々あった。周りとの相談の結果、トライアウトは関西一本に絞った。」

本番では思うようなパフォーマンスを発揮できなかったと振り返るも、二巡目で和歌山ウェイブスから指名。ご縁を感じたその瞬間に入団を決意した。
必ずプロになると信じて。

しかし災難というものは安堵と同時に訪れる。

12月からアジア・ウインターリーグ・ベースボールに参加していた安里。
実はトライアウト後から痛みを感じていた、上腕二頭筋の症状が悪化したのだ。

そして案の定リーグ戦わずか3試合目には途中交代を直訴。
病院では“骨髄浮腫”と診断を受け、全治3か月のリハビリ生活を余儀なくされたのだった。

低迷期を終え、目指すは二刀流

2月1日よりチームに合流。
もちろん満足な練習など何一つできなかった。

「和歌山に来てからは気が落ちることもあった。OP戦から含めてチームのスタートラインに立てていない。」

当初の予定より大幅に長引いたリハビリ期間。
出口の見えないトンネルは、6月終盤を背にようやく終わりを迎えようとしていた。

「怪我の回復につれ、明るい言葉を周りからもらうようになってきた。ここ最近は楽しく野球ができている。」

それまで見守るだけだったシートノックにバッティング。
全体練習にも不自由なく参加できるようになったのはつい最近のことだ。
以前とは比べ物にならないくらいはつらつとした表情で、野球ができる喜びを心より噛み締めている。

健康にプレーできるのは当たり前じゃない。痛みなく野球ができることは本当に幸せ。」

初めてのケガにより戦線離脱を経験した高校時代。
当時サポートの仕方もわからず、遊びに呆けていた過去もある安里だったが、この前半戦は献身的にチームを支え続けた。

帰ってきたグランド。まだ登ることを諦めていないマウンド。
野球のプレー全てに惹かれた沖縄男児は、二刀流に対するこだわりを語ってくれた。

「ピッチャーとしては140km/h以上に加えてキレのある変化球(を目指す)。コントロールを軸にドラフト候補に選ばれたい。」
「バッターとしても持ち味の選球眼にミート力。数字にこだわりプロを目指したい。」

屈することなく、場をわきまえた発言は一切しない。
いつだって強欲に、思うがままな思想は時に周りを脅かす存在ともなりうる。

リーグ4位(7/4現在)の現状に満足した表情は一切見せない。
リハビリ中、気がつくと視線を送っていた選手らを手本に、自分も負けないように奮闘し、自らがチームを牽引することを胸に誓った。

「OP戦・前半戦に出られなかった分“存在感”を試合で見せ、来年につながる年にしたい。何としてでもチームの起爆剤になる。」

いよいよ始まる後半戦。
和歌山ウェイブス二連覇のためにも、残るワンピースの開幕が重要な鍵となるかもしれない。

国外文化に憧れて

自己表現が少し苦手。
それでも英語を喋らせた時にはオープンマインドになることもしばしある。

選手全員参加の決起集会に遅刻した矢先の話。

文字通り、路頭に迷っていた外国人観光客へとクエスチョンを投げかけていた。“Can I help you?”と。

その後目的地が歩いて数分の場所と判明。
気さくに会話をしながら同行するのであった。

口下手なところも多少あり、周りからの誤解を生みやすい性格なのは否めない。
それでも内に秘めた思いと、時折見せる無邪気な笑顔には素敵なものが詰まっている。

多くを語らない生き様に、自分をわかってもらえない葛藤もあるだろう。
それでもボールとバットを持てばいっぱしの野球人。

グラウンド、そしてマウンドで。
“安里晃紀”という存在を轟かせる。


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