研究書評 春学期 -経済成長のための企業勃興について-

みなさんこんにちは!この記事は研究書評についてまとめていきます。(春学期ver)



7/6研究書評9


今回は文献は取り上げず、岸田文雄内閣の主要政策であるスタートアップエコシステムの構築についての資料をまとめていく。

内容
岸田内閣は主要政策として新しい資本主義の創造を掲げており自身の研究において成長戦略の要であるスタートアップ5ヵ年計画について調べた。この計画は大きく3つの柱に分けられ、「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」「オープンイノベーションの推進」がある。自身の研究ではどうすれば起業家が増えるのかという起業家の母体数を増やすための研究のため第一の柱である「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」に注力して述べていく。
活動内容の一覧は

  1. メンターによる支援事業の拡大・横展開

  2. 海外における起業家育成の拠点の創設(「出島」事業)

  3. 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化

  4. 1大学1エグジット運動

  5. 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援

  6. 高等専門学校における起業家教育の強化

  7. グローバルスタートアップキャンパス構想

  8. スタートアップ・大学における知的財産戦略

  9. 研究分野の担い手の拡大

  10. 海外起業家・投資家の誘致拡大

  11. 再チャレンジを支援する環境の整備

  12. 国内の起業家コミュニティの形成促進

となっており既存にある取り組みの拡大や起業活動が活発である海外との提携による取り組みが多く見られた。自身の研究テーマであったアントレプレナーシップ教育(以下アントレ教育)に関しては強く提言されていないことから、アントレ教育は起業活動に効果があまりないと捉えられているのではないかと考える。しかし、自身の文献研究からは効果的だという指摘もあったため今一度アントレ教育の効果について見直すべきだと考える。また資料には学生が留学に赴き海外での学習体験を積むことが起業家精神を根付かせることにつながるとあるが同資料において高校生から大学院生までで約1万7400人の留学を支援しているという記述と起業を目指す若手人材を20名選抜しシリコンバレーに派遣するという論述が混同していた。後者の内容から前者は起業家育成目的でないことが考えられるため留学に行くことが起業家精神を養うことには直接的に関与しないと考えられた。(両者の内容において派遣期間や派遣目的などが明確に記されていないため必ずしも上記の見方が正しいとは言い切れない。)

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでいただきありがとうございます。

参考文献

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/wgkaisai/startup_dai2/siryou1_set.pdf

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/sdfyplan2022.pdf


6/29研究書評8

今回取り上げた文献は鈴木正明(2022)による「年功賃金は起業活動を抑制しているのか?」です。選択理由は自身の仮説の根拠になると考えたためです。

内容の総括
本文献は近年日本政府が起業活動の活性化を政策目標として掲げているが長年日本の起業活動が不活性なことが問題とされてきた。その原因として大企業中心の年功序列体制や労働市場の硬直性が指摘されていたため、年功序列に焦点を当て、賃金プロファイルの傾きが起業活動に与える影響について分析、考察されている。
結果として賃金の年功性は起業活動に一定の影響を与えるものの、効果は段階によって異なるとした。特に潜在期(起業意思を持っているが準備には至っていない状態)には賃金の年功性が起業活動を抑制するという傾向が見られた。一方で起業活動が進むにつれてこの傾向は反転し、賃金の年功性が高いほど誕生期(企業3.5年以内)の起業家はインセンティブが高まるため起業活動に正の効果があると考えられる。また、起業活動には個人の特性が強く関係していることが先行研究などでも挙げられるが、国レベルでの傾向として1 人当たりGDP が高くなるほど又は失業率が 高くなるほど、総じて起業活動に従事する確率は低下するという結果も得られ
た。鈴木はこれらの結果に対し、日本の起業活動が不活発なのは賃金が年功的だからという通念には留意が必要だとし、年功賃金だけでなくその他の日本型雇用慣行も複合的に影響していることが考えられるとした。
また鈴木は文献内において年功賃金の影響だけでなく雇用保護法制、雇用保険が企業を阻害する要因としてが気られることについても述べていたものの、日本の雇用保護法制指標はOECD加盟国の平均を下回っているため雇用保険給付の寛大さが日本の起業活動へ負の影響を与えているとは考えにくいとした。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。


6/22研究書評7

今回取り上げた文献は芦澤 美智子等(2021)による「アントレプレナーシップ教育の科目種別効果 ―九州大学と横浜市立大学における「座学系」「PBL 系」「起業家講演系」科目の効果検証から―」です。

選択理由
過去の文献研究から自身の研究における問題点が見られた。それは起業家の増加には文化や経済状況など多面的な要因が複合して形成されているため日本社会において抜本的・全体的改革がない限り起業家の増加を加速させることにはつながらないことである。また、GEMデータを用いた起業活動に影響を与える要因の国際比較分析では起業家に対する認知と自己効力感が起業活動に影響を与えやすいことを明らかにした。そのため日本の起業率を上げるためにはその2点(起業家への接触と知識の面)へのアプローチが必要だと考えられる。そのため自身の元の企業テーマであったアントレプレナーシップ教育へと視点を戻し、それに関する文献を参考にしようとした。

内容の総括
本研究では大学で実施されるアントレプレナーシップ教育プログラム(以下EEP)を研究対象とし、「座学」「PBL科目」「起業家講演科目」の3項目でEEPの効果を起業意思及び起業に関する態度、主観的規範、行動統制感に照らして考察したものである。(この3項目は計画的行動理論の要素を用いたものである)また身近な人間関係における起業家の存在がEEPの教育効果に影響を及ぼすのかについても考察を行なっている。
結果として行動統制感と起業意思に関してはPBL科目と起業家講演科目において変化があったとされている。特にPBL科目は活動内容が起業活動と相似性が高いこと、受講者が成果を感じやすいことなどから行動統制感と起業意思を高めることに寄与していると言える。一方起業家講演項目では身近な人間に起業家がいる受講生とそうでない受講生とで効果が違うことが明らかになった。前者はより実感を持って受け止めることができるためプラスの影響があったのに対し後者は起業家を特別視する傾向が強まり親近感や起業意思の面でマイナスの影響になるのではないかという考察となった。また課題や発見点としてEEPに関する研究が大学生に焦点を当てられているものが多く高校生、それ以下に関するものは少ないということ、EEPを受講する学生は元々起業家精神に優れる面があるということなどが挙げられた。

総括
やはり社会全体の構造を変えていくことは厳しいため教育政策などに焦点を当てるべきなのではないかと感じた。EEPに関しては起業家への接触と知識の面でのアプローチとして有効だと考える。特に今回の文献でも挙げられたPBL科目の導入を急ぐべきではないだろうか。また、大学におけるEEPのみならず、高校生それ以下に対するEEPや起業家無関心層に対するアプローチを考察すべきだと考える。
以上で今回の記事はおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
芦澤 美智子等「アントレプレナーシップ教育の科目種別効果 ―九州大学と横浜市立大学における「座学系」「PBL 系」「起業家講演系」科目の効果検証から―」横浜市立大学学術研究会、横浜市立大学論叢 社会科学系列、72巻1号、1-24頁、2021年3月

6/15研究書評6

みなさんこんにちは。今回取り上げた文献は磯辺剛彦等(2011)による「企業と経済成長」です。

選択理由
今回の文献で特に「政策への提言」の章を取り上げたいと思う。以前の文献では個人主義と自己効力感と知識の無さが日本の起業家に足りない部分としてあげられ問題視された。しかし、これは個人の能力的問題であるため解決には教育政策などといったことが挙げられるが改善までに時間がかかり即効性のあるものとは言えない。そこで今回は政策の改善に関する問題に注目して研究を進めようと感じたため選択に至った。

内容の総括
現在の日本の社会的な環境は起業活動にとって大きな課題がある。それには若年層への教育システムや起業家に対する評価、女性の就労機会、税制などの環境が挙げられ、これらが起業活動に密接に関係していることも明らかにされている。そんな中で政府が起業家社会を生み出すために政策を打ち立ててきたものの、その多くには似通った特徴があった。具体的には起業活動にとっての障壁を除くような政策(起業活動を妨げる規則や法律を緩和すれば自然と起業家が増えるという理論)しかなされなかったこと、資金援助などの支援しかされない政策が多くインセンティブの提供はされないこと、各政策が独立しておりそれぞれの補完関係については議論されないことなどが挙げられる。これらの問題点をもとに本文献では以下の提言及び改善点を掲げており、本記事においては一部抜粋して紹介する。

  • 社会・経済システムが起業活動の障壁にならないようにする:GEM調査において起業活動率が高い国では法人税や個人所得税の税率が低いこと、労働市場が流動的であること、女性の社会的地位が高いこと、所得の格差が大きいことが挙げられる。これは日本とは大きくかけ離れており、起業活動の活性化のためにはこのような従来とは全く異なる価値観を受け入れなければならないとされている。

  • 女性や若者起業家を増やすこと:GEM調査では起業家に占める女性起業家の割合が大きい国ほど起業率が高いことが挙げられている。またGEM 調査において起業家の多くは25歳〜44歳で占められており、起業が活発な国は起業家の年齢層が低いことも確認されているが日本では54歳以上である割合が大きい。このことから小中学校における教育システムの再構築も求められるとされている。なぜなら日本の教育は優秀な人材を与えられた仕事や問題を効率的に処理することが得意な人だと定義されるが実際に社会で求められるのは何が問題でその本質は何か、どうやって解決すべきかなどを一から考えられるような人材である。そのため今の日本教育において起業家精神を持つ人材は育ちにくいと考えられる。

  • 一貫性と統一性を持つ政策プログラムを設計すること:起業活動には多面的な要素が深く絡み合っていることが明らかにされている。そのため財務省、文部科学省などの垣根を越えた行政機関の協力が求められる。また、起業活動が著しく乏しい日本が短期的に起業先進国に追いつくことは厳しいため、短期・中期・長期の起業政策をたてることが重要である。

まとめ
現代日本の起業政策において誘因の解決に至らない政策がなされていることが大きな問題として挙げられる。その誘因の解決には起業活動が多面的な要因と複合的に関係していることなどから日本の価値観や様々な制度全般を大きく改革していく必要がある。そのため本研究においても特定分野に絞るべきか多面的・総合的な起業政策について研究すべきか早急に決定を下すべきであると感じた。
今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献

磯辺剛彦&矢作恒雄『起業と経済成長 Global Entrepreneurship Monitor調査報告』慶應義塾大学出版会株式会社、2011年10月31日

6/8研究書評5

みなさんこんにちは!今週で先々週から続いていた「GEM データから起業の決定因を 析出するための予備的考察」の書評は終わりとなります!

内容の総括

GEMのWebサイト上には日本に関する文献は少ない(本論文では未確認)が、経済産業省の委託事業として「起業家精神に関する調査」という報告書が平成20年からほぼ毎年発行されている。その中での指摘として起業関心層に占める起業活動家の割合は他国と比較しても極めて高く、アメリカと僅差になっている。これは一度起業関心層になった人材は安定して起業活動家になりやすいことを表している。また、起業無関心者層から起業活動に従事する比率も、1.1%で第三位となっている。しかしこの結果は日本が突出して起業無関心者層が多いからだとも考えられた。
また、本文には統計的にGEMデータを用いた研究についても挙げられていた。具体例として高橋ら(2013)による「起業活動に影響を与える要因の国際比較分析」を取り上げ、起業態度(起業意識=起業知覚・起業創造・起業学習と失敗への恐怖)の4項目を有無で分け、TEAの値で示した表を紹介した。TEAとは
総合起業活動指数と言い、成人人口 100 人当たりの(懐妊期+誕生期)の段階にある起業家の人数のことを表す。このデータをもとに下記グラフを自身で作成した。





まとめ

これらのグラフを見ると以前から挙げられていた失敗の脅威に関する項目では恐れがある人とない人での起業活動に関する大きなさは見られなかったことがわかる。その一方で自己効力の項目では大きな差が出ていることから経営に関する知識を持っていることなどが企業を行動に移す際に影響しているのだと考察できる。起業機会の認知に関しては起業活動浸透のステップ後に起こると考えられるため起業無関心層に関するアプローチでは親近感を上げることなどが効果的だとも考えられた。

今回の文献を読んで自身の仮説が立証されないことがわかった。その代わり、起業活動において個人主義における自己効力感及び経営に関する知識が重要な要素であるとわかった。この文献においても起業無関心層を対象とした調査は少なかったので「起業活動浸透の項目が無関心層を起業に繋げるトリガーとなるのか」という新しい仮説の検証を行おうと思う。

これで今回の記事はおしまいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

6/1 研究書評4

みなさんこんにちは!今回の記事は先週の続きになります。文献名は先週の記事に記載されておりますのでご参照ください。

内容の総括
今回の内容は起業関心層と起業無関心層に関するデータの海外比較である。日本はアメリカや中国と比較して起業活動家の割合が極めて低い。しかし、イギリス・ドイツ・フランスと比較した時、起業家活動家の割合の差は極めて小さくなる。ここで起業に対する無関心度を比較すると起業活動での割合に大きな差が出なかった3カ国と比較した場合でも日本は起業に対する関心が極めて低いことが確認された。このことから起業無関心層の厚みが日本の起業者活動の数に影響していることが考えられる。文献内ではGEMが行った起業関心層におけるアンケート(7項目)の海外比較における分析が行われていた。まず、起業家への親近感であるが起業家活動比率が日本とほぼ等しいフランスは親近感の比率は大きく上回る結果となった。そのため親近感の高さは起業家を増やすことには直接的に関係しないとも考えられる。また、メディアによる関わり方(親近感、もしくは好感度の相関性)にも注目すべきだと考える。次に個人の知覚の観点で自己効力感、起業機会の認識、失敗への恐れの3点から分析する。自己効力感は起業家活動比率が同等の3カ国(イギリス・フランス・ドイツ)と比べて日本は極めて低い。ではなぜ自己効力感が低い日本と他の三国の起業活動比率が同等であるのかと言う疑問も残る。(この項目は起業活動に関係していないのか?)特に失敗の恐れに関する項目に注目する。他の文献においても日本で企業が少ない要因としてリスク回避傾向の強さが挙げられきた。確かにGEMデータでも他国と比べても高いと言える。しかし、他の項目比率と比較してもその差は決して大きいとはいえない。失敗に関する恐れは万国共通であり、これが低いことが起業者比率の国際比較において有意な差を生んでいないのではないかということも考えられる。最後に社会の態度であるが日本は「起業家」と言う職業に対する好感度や社会的地位は低い比率となっている。一方で起業の結果から得られるであろう社会的成果は比較的高く評価されている。このことから職業としては好ましくないと考えられているにもかかわらず、結果が良ければ高い地位があたえられると言う矛盾が見える。また、極めてハードルが高いと考えられていることも要因として挙げられ、容易さの追求も考察すべきである。しかし、スポーツ選手などのアスリートに対して夢を叶えるハードルは極めて高いのにもかかわらず、目指す子供達は多い。その違いはなんなのかという疑問も残る。


まとめ
本文献を読んで自身が立てていた「日本人の不確実性要素の回避傾向の高さが起業者数の少なさに起因している」と言う仮説が立証できないことが考えられる。再度他の文献を読み、この仮説が正しいのかどうかを考察するとともに、立証できなかった場合の新しい仮説の考察を試みようと感じる。

次週でこちらの文献の書評は最後となります!(長かった。。。)最後まで読んでくださりありがとうございました。

5/25研究書評3

みなさんこんにちは。今回の選択文献は吉田孟子による
GEM データから起業の決定因を 析出するための予備的考察です。

選択理由
今回この文献を選択した理由として前回選択した文献にGEMデータを用いた記述があったため、GEMについて調べたところ起業活動の実態を調査するための機関ということだったので自身の研究に参考になると思い、GEMデータに特化して文献選択を行なったためである。本論文は図表を含め記述が極めて多いため次週とわけて文献紹介を行う。

内容の総括
起業は外部環境と個々人の内面との相互作用によって作り出される個人の社会活動である。そのため起業によって良好な環境や条件であっても人々の動機やマインドが起業に向けられていないと起業は増えない。また、起業に積極的な人材が多くいたとしても環境が起業に対して悪いとすれば起業活動は表面化しなくなるはずである。しかし、悪条件であっても事業を始める人がいるのはなぜか。本文献では起業者に向けての認知的状態遷移という概念を導き出すためGEMデータを用いた研究を行なっている。GEMとは英国ロンドン・ビジネス・スクールと米国バブソン・カレッジが 1997 年に 創立した非営利組織によって行われる起業活動に関する調査のことである。GEMは起業者活動やその結果が国ごとによって違うのはコンテクスト、起業に対する社会的態度、起業者及び起業者になろうとする人々の個人的特性の3点が要因として挙げられている。本論文では起業家に対する社会的態度と個人的特性に焦点を当てその2点と起業活動がどのように関わっているのかの詳細を分析している。
まず現段階の起業の実態において述べる。新規開業白書によれば起業無関心層は2015年から2018年を通じて過半数を超える結果となっている。また起業家比率はいずれも1%台と極めて少ない結果となっている。この結果が国際的に見て少ないかを証明するため国際比較が行われている。文献ではドイツ・フランス・イギリスとの開業率及び廃業率で比較が行われている。結果として日本は少産少死、フランス・イギリスは多産多死の企業傾向にあるとわかる。

総括
本文献からやはり起業に関しては個人的特性が重要になってくることは確認できた。しかし外部要因であるコンテクストがどのように個人的特性に影響するのかについて明らかにするべきだと考える。また、日本の起業傾向として少産少死であることから、廃業率が少なく持続的に企業経営を維持できるのではないか、これを安定しているとして起業無関心層にプラスのイメージを与えることもできるのではないかという新たな発見もあった。

本日はこれで以上です。ありがとうございました。

参考文献
吉田孟史「GEM データから起業の決定因を析出するための予備的考察」青山経営論集, 2020年, 54巻4号: 55-83頁

5/18 研究書評2

みなさんこんにちは。今回参考にした文献はマルジャン・ボジャジエフ等による
”ENTREPRENEURSHIP ADDENDUMS ON HOFSTEDE’S DIMENSIONS OF NATIONAL CULTURE”
「ホフステッド指数を用いた起業家精神に関する補遺」
です。

選択理由
先週、自身の研究における中間発表を行った際、リサーチクエスチョンを「なぜ起業率が少ないのか」という問いに対し、ホフステッド指数を参考に「日本人の心理傾向は不確実性要素を回避すること及び長期的主義であることから、起業の選択肢に不確実性要素が多いため」という仮説を立てた。そこでホフステッド指数と起業の関係性に関する文献を取り上げた。

内容の総括
 Krititos(2014)により起業家活動は国の経済発展の主な決定要因である雇用の創出と経済発展のおいて不可欠であると述べられた。また、文化的規範や習慣は起業家活動において最も重要な決定要因の一つであるとも言える。このことから起業家の数を増やしたい社会において、起業家精神を促進していくための文化的支援が必要となってくる。そのため本論文では起業家精神の文化的基盤を理解するためにホフステッド指数を用いて文化的比較を行うことを目的としている。
文化と起業家精神に関する以前の研究では高い個人主義、男らしさ及び低い不確実性回避性、パワーディスタンスが起業率に良い影響を及ぼすとして望まれてきた。また最も頻繁に使用される予測因子の一つとして個人主義かどうかの観点が重要であるとも述べられている。しかし文献内では文化的側面と起業家精神のつながりは高所得国と低所得国では異なると述べられているため一概に上記の国民性が起業家精神に正の影響を与えるとは限らないことが考えられる。
 他の文献において起業家精神が不確実性と密接に関係しているため人々の失敗に対する恐怖が起業家精神の大きな障壁となることも挙げられている。特にアジア人はヨーロッパやアメリカと比べて失敗に対する恐怖が強い傾向にあり、これは東アジアの文化が失敗と弱さを結びつけ、失敗許さないというような集団主義文化である結果だと言える。

文献内の研究結果と考察
本文献において文化背景と起業家精神の相関関係を調べるため文化比較が行われた。用いられたデータはhofstead insights の公式webサイトから引用されたものとGEMのレポートから引用されたもので、ホフステッド指数の6項目と「失敗への恐怖」「起業家への高い地位」を合わせた合計8項目で比較研究が行われている。文献内では研究結果における考察としてドイツとアメリカが起業家活動の観点で最も優れた文化でありアメリカは起業家活動が活発なため失敗に対する恐怖の値が低いと述べられている。また、日本は「起業家への高い地位」の項目において8の比較国中一番低い結果となった。

自身の考察
文献内のデータから自身でグラフを作成したところ文献では取り扱われなかった新たな視点が見えてきた。日本は「男らしさ」「不確実性」「長期的主義」の観点が突出して高かった。文献内で起業家活動に理想的だとされていたアメリカと比較したところその3点に大きな違いが出ていたことに加え個人主義の観点でも違いが見てとれた。アジア諸国である中国と比べても不確実性の観点は大きく違っていたことなどから日本の起業家活動において不確実性要素の回避傾向は大きな障壁になっていることがわかる。また、日本と類似している国はロシアであり「パワーディスタンス」と「男らしさ」の項目以外は比較的に似通ったデータであったことがわかる。

まとめ
今回の文献を読んで起業活動において「個人主義」「低い不確実性の回避傾向」「起業かへの高い地位」が重要であることがわかった。また文献内のデータからロシアとの文化的側面の類似性が見られたがロシアとは社会形態が大きく異なるため比較研究が困難であると言える。そこで日本と文化的側面が類似しかつ起業活動が活発である国を特定し比較研究が行えたら良いと考える。


今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
Bojadjiev, M., Mileva, I., Misoska, A. T., & Vaneva, M. (2023). ENTREPRENEURSHIP ADDENDUMS ON HOFSTEDE’S DIMENSIONS OF NATIONAL CULTURE. The European Journal of Applied Economics, 20(1), 122-134.

5/11 研究書評1

選択理由

今回取り上げた文献は寺井基博(2022)による「日本的ジョブ型雇用の行方」である。選択理由は自身の研究において経済成長のための企業勃興について研究しようと考えている。以前取り上げた文献では起業家のための政策提言が既存企業に有利なものであったり、新興企業を継続して支援するものでなないなどといった問題点が見られた。この文献では企業をしたいと考える人に対しての政策及びその問題点を明らかにしたが、今回の文献ではなぜ企業をしたいという人が少ないのかに注目した。その理由を日本の雇用制度にあると仮定し諸外国との雇用制度の違いをまとめたこの文献を選択した。

要約

本稿では諸外国のジョブ型雇用と呼ばれる雇用形態と、日本の新卒一括採用を代表とするメンバーシップ型雇用とを比較しながらその影響とどのように日本に取り入れていくかを考察していく。大きな違いは2つあげられ、職務や賃金を事前に特定するかどうかと企業が持つ人事権限を特定するかどうかである。具体的にはジョブ型雇用は「ジョブ」で組織が構成されているため職務を限定して応募をかけるため、採用時に職務や賃金がが交渉による契約により(企業に絶対的な権限はない)あらかじめ決まっている。一方メンバーシップ雇用は「人」で組織を構成しているため採用時には職務が決まっておらず企業が仕事の成果等を評価して賃金を決めるようになっている。
これらが大きな雇用制度の違いである。ではこの違いはどのような影響を企業内外に及ぼすのだろうか。大きな理由としてそこから展開される法制度の違いを取り上げる。ジョブ型雇用には契約により職務があらかじめ決まっているため企業には特定された職務以外を従事者に課す権限はない。しかし、日本では職務が特定していないため企業は従事者の適性に応じて職務を配置する権限を持つ。それは従業員としての雇用保証が強く求められることにもつながる。これらは雇用関係の外部環境に関するため、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が困難な環境要因として認識されている。

総評

以上が本論文の要約となる。今回、なぜ企業したいという人が日本で少ないのかという問いに対し、日本の雇用制度に問題があると仮定し文献をまとめた。そこで日本のメンバーシップ制度は職務や賃金を限定しないまま採用される制度でありジョブ型雇用への移行が求められていることがわかった。そこから新卒一括採用を代表とする日本の雇用制度は採用枠の分母が多いため採用される若者から起業という選択肢を奪っているのではないかとも考えられる。加えて、上記にもあるように外部環境としての雇用形態の違いから生まれる法制度の違いが雇用形態の移行を困難にしているとあるため、法制度を変えることでジョブ型雇用への移行が進んでいくのではないだろうか。
しかし、日本の雇用形態がジョブ型雇用へ移行したところで起業率が増えるのかについては疑問が残る。選択肢を増やしたところで自分の職種のある安定した企業を選びたいという若者は多いと考えられる。また、以前調べた起業家への政策提言との関係性やその他の日本型雇用制度(終身雇用制、年功序列など)との関係性も考察すべきである。

<思考の流れ>
起業家への政策提言が少ない→まず起業したいと思う人数が少ないのでは?→新卒一括採用(メンバーシップ型雇用)が企業という選択肢を減らしている→ジョブ型雇用に移行したら増えるのか?

以上で今回の記事はおしまいです。ここまで読んでくださってありがとうございました!

参考文献

寺井基博 「日本的ジョブ型雇用の行方」、評論・社会学、 142号、21-37頁、同志社大学社会学会、2022年 

https://doshisha.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=29248&file_id=28&file_no=1

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