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小悪魔教師サイコ裁判は、漫画家さん軽視による、ドミナント戦略の失敗です。

漫画家さんが出版社を訴えた裁判が和解に至りました。

売上7億円超の人気漫画『小悪魔教師サイコ』作画家・合田蛍冬氏が出版社を提訴した訴訟が和解 同一原作の後発漫画が出版されトラブルに 出版社は謝罪(1/2 ページ) - ねとらぼ (itmedia.co.jp)

私は漫画原作者で、小説の会社を経営する女性起業家です。他人事ではないので注目していたのですが、和解にいたってよかったと思います。

1.経緯


「小悪魔教師サイコ」は小説や漫画を掲載する「peep(ピープ)」でチャット小説として三石メガネ先生により発表された作品です。

2021年4月にぶんか社から月刊誌で電子配信をスタート。2023年6月までに7億円以上を売り上げる大ヒットとなり、電子書籍プラットフォーム「ピッコマ」の年間人気ランキングで3位にランクインする人気作でした。(上記ねとらぼの記事より引用)

ところが、
原作の管理会社「taskey」が、自社サイトで同じ原作をフルカラー縦読みマンガ化(上記記事より引用)

taskeyというのは、peepの運営会社です。
フルカラータテヨミ漫画というのはWEBTOONと言って、韓国発祥のスマホに特化した漫画です。

合田先生は、同時期の同じ原作の漫画の掲載はやめてほしい、と申し入れたのですが、合田先生が契約しているのはぶんか社、原作管理会社はtaskeyで、ぶんか社は原作を持っていません。

そこで、合田先生は事前チェックをしたいと申し出たのですが、同じ原作を元にしているせいもあって、同じコマがたくさんあり、修正依頼を出すうち、疲労が溜まりました。

あまりのしんどさでSNSに書いたところ、
・連載中止
・ブログ記事の削除要求
・taskeyと原作者への謝罪要求
・アシスタントを解雇しなくてはいけなくなった
・内定していた「ピッコマアワード2023」の受賞とりやめ
・紙コミックスの発売中止(↓電子書籍版だけ配信されています。アマゾンアソシエイトに参加しています)

という踏んだり蹴ったりの状況に。
そこで合田先生は、ぶんか社を相手取って、「3円」の損害賠償請求をされたのです。繰り返しますが「3円」です。1300万円ではありません「3円」です。

2.原作の二重売りはドミナント戦略


ドミナント戦略とは「経営資源を特定エリアに集中させて市場の独占を図る手法」です。セブンイレブンがこの戦略を取り入れています。
売れてる店のすぐ近くに新規店を次々にオープンすることで、流通トラックの手間もはぶけてコストが削減できる、ひいてはセブンイレブン本社が儲かるというもの。
ですが、それは、セブンイレブンの店主にとっては、たまったもんじゃない。同じ仲間同士で、客の奪い合いが起こるからです。

3.webtoon原作者が見るビジネスモデル



私はWEBTOONの原作者です。現在配信中の漫画はこちら。
推しとの同居が尊すぎます! | ジャンプTOON (jumptoon.com)

 WEB漫画、web小説のビジネスモデルは、たくさん配信して、その中のごく一部、大売れするものに経営資源を投入するというものです。
 そのため、原作管理会社は、原作の二重売り、三重売りをしようとします。漫画とWEBTOON、アニメ、映画、グッズ、キャンペーン、コラボ、小説、DVD……。
 会社は営利追求媒体ですから、会社が儲けようとすることは、悪いことではありません。
 ですが、同時期の漫画の連載は、漫画家さんにとってはたまったもんじゃない。漫画家さんが潰れます。

4.出版社が悪いのでは?


私が気になったのはこの部分。
さらにぶんか社側は合田さんに「taskeyから名誉毀損で訴えられる可能性が高い」としてtaskeyと原作者への謝罪を要求しました。なお後に合田さんがtaskeyに確認したところ、謝罪は要求していたが訴えるといった内容は発していないとの回答があり、ぶんか社の説明が虚偽だったことが分かっています。(上記記事より引用)

簡単に言うと、面倒臭くなった編集者が、漫画家さんに嘘をついて脅し、漫画家さんを黙らせようとしたのです。

(私の体験ではこういうのがありました。印税が振り込まれてないので編集者に電話したら「経理のミスで三ヶ月後支払いになります」と言われました。
自分が支払い伝票を切り忘れたので、今日付で伝票を経理に回すつもりです。「経理のミスならすぐ振り込んでくれますよね」と言ったら「編集長の指示、会社が悪い、経理が悪い、ボクは悪くない」編集長に電話したら、ぶっくりしていました「私は指示してません」「Aが嘘をついたそうです」)

編集者の中には、自己保身のためなら会社に損害を与えても、漫画家さんがどうなろうと知ったこっちゃない、という人も存在します(それはどんなビジネスの場でも同じです)。

出版社がうまく調整したら、連載を継続することができて、ぶんか社に何十億という利益を与えたはずなのです。

5.配慮が必要なのでは?


同時期に同じ原作で、別の漫画を配信することはたまにありますが、「薬屋のひとりごと」では、原作に準拠した先行作品に対して、後行作品は「薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜」となっています。ミステリーを中心にしてあり、テイストを変えています。
(アマゾンアソシエイトに参加しています)

ジャンプTOONでは、「GANTZ」や「ハイキュー」をタテヨミ漫画にしていますが、横読み漫画として発売されたものを、デジタル加工することでタテヨミ漫画にしています。

そうした、漫画家さんに配慮したやり方を、原作管理会社と出版社がしてくれるようになってほしいですね。
でないと、危険すぎる。
漫画家さんが、誰も原作つきをやりたがらないようになります。

この裁判が、漫画家さんを守る契機になってくれたらいいなと思います。
WEBTOON原作者の端くれとしてそう思います。原作者は、漫画家さんがいてこそ、漫画をみなさんに読んで頂くことができるからです。

合田先生お疲れ様でした。合田先生がされたことが、たくさんの漫画家さんを守ります。応援しております。

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わかつきひかる
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