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岸本尚毅『舜』 好きな句と鑑賞

『舜』(花神社、1992年刊)は岸本尚毅氏の第二句集。本句集にて第16回俳人協会新人賞を受賞。好きな句と鑑賞、感想を。

手をつけて海のつめたき桜かな

手をつけてみた春の海の冷たさと、そこから少し高いところに見える桜のひややかな美しさ。明るい満開の桜ではなく、やや曇りがちな日の花冷えの感もある、しかし中には早くも散り始めている花弁もある七分咲きくらいの桜を自分は思い浮かべる。淡い桃色とうすい水色の感じ。

墓石に映つてゐるは夏蜜柑

「墓石に映つてゐる夏蜜柑」の「は」なんだと思う、いいのは。

草餅に鶯餅の粉がつく

それがどうしたと。しかしそんな些事中の些事に着目したのが、そしてそれを面白がっているのが面白い。ともかく、この人物は草餅と鶯餅を両方食べているのだな…。

音もなく歩くお方や城の秋

第一句集『鶏頭』の「四五人のみしみし歩く障子かな」と響き合うように勝手に思っている。

蜂を描くしだいに蝶に似て来たる

そんなこともあろうかと。

雑巾をかぶせられたる秋の蜂

秋の蜂には災難である。が、これを句にしようとするところ、ここに惹かれる。

冬の蚊の往来してゐる二間かな

ゆっくりと往来している冬の蚊を見ている。二間だからやや広々としている。その冬の昼間の空気感。

青大将実梅を分けてゆきにけり

青大将が実梅の間を通っていったという、実景が鮮やか。余計なことを述べずに、しかも印象鮮明。静物と動物。初夏の強い日差しをも感じる。

人影もなく湯豆腐の煮えてをり

これはまた一種不気味な景。湯気の中、湯豆腐の煮える音ばかりがある。しかし人はやがて戻って来る、その一瞬の間を切り取った。



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