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岸本尚毅『感謝』 好きな句と鑑賞

岸本尚毅氏の第四句集『感謝』(ふらんす堂、2009年)を読む。


うすうすとあやめの水に油かな

あやめの咲く水にうっすらと油が浮いているというのだが、この「うすうすと」はどこにかかっているのか。「あやめ」「水」「油」のすべてに浸透してゆくような働きをしているようにも感ぜられ、それがこの一句を魅力的にしているのだろう。

焼藷を割つていづれも湯気が立つ

一読、ぱっと映像が鮮明に浮かぶ。両手に持った黄色い断面からそれぞれに湯気が立ち上り、いかにもうまそうな焼藷だ。焼藷を持つ人物のほくほく顔も思い浮かぶ。

テキサスは石油を掘つて長閑なり

「テキサス」「石油」、ここでは広大さが長閑さと結びついている。スケール感の異なる長閑さだ。

現れて消えて祭の何やかや

思い出せば、「祭」にまつわるものさまざまが現れては消えてゆく。「何やかや」が祭のにぎやかさをも思わせる。祭の名残を楽しみつつ、それでいて祭の後のさみしさも。

雨止んでそののち長し秋の暮

雨後、まだ日没まで時間がある秋の暮。空気が透き通って気持ちがいい。「そののち長し」が句の肝だが、この秋の雨後の空気感は、この措辞によるものだろう。雨上がりの明るい秋空がゆっくりと色を変えながら暮れてゆくさまが、自然と懐かしい気持ちをも呼び起こす。

人寒く弾みをつけて歩きけり

寒いので弾みをつけながら歩いている人がいる、それを「人寒く」としたのが面白い。



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