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踏んだり蹴ったり駐輪場
最寄り駅まで徒歩20分かかるので、駅に向かうときは自転車を使うことが多い。
在宅勤務が週2回あるので、出社するのは週3回。土日どらかは出かけることが多いので、大体週4回、月で計算すると約20回弱とめていることになる。そこそこ損をしているのはわかっているのだが、月極のところではなく、都度支払いの駐輪場にとめている。
コロナ禍では完全在宅勤務だったので都度払いの方が圧倒的に都合がよく、その名残で今でも都度払いにしてしまっているのだ。
私が普段使っている駐輪場は、機械に前輪を突っ込むと自動でロックされ、精算するとロックが外れる、よくある機械式の駐輪場だ。
その日もいつも通り、そこにとめて仕事へ向かった。
仕事終わり、気温10℃を切るような、体感今年一番の寒さだったため、家に作り置きがあるにも関わらず、とにかく体を温めたいという一心で最寄り駅前の松屋でキムチチゲ定食を食べた。
松屋は家とは反対口にあるため、歩いて逆側へ移動し、自転車をとめてある駐輪場に向かった。
駐輪場につくと、業者らしきおじさんがなにやら作業をしていた。
ちょうど私が駐輪場に着いたタイミングで、そのおじさんに電話がかかってきたようで、「すみません!もう終わるんで!」というようなことを言っていた。
少し聞こえた会話の感じや、駐輪場に張られた「封鎖中」の張り紙から見るに、おそらくメンテナンスをしているのだろう。
駐輪場に着いた時点で21時過ぎだったので、こんな時間に大変だなぁ、と思いながら自分がとめていた「18番」を、自動精算機で精算した。
お疲れ様です~、と思いながらおじさんを横目に自転車を引き出そうとしたところ、「ガチャン」という音とともにハンドルを握った手に軽い衝撃が走った。
精算したにもかかわらず、駐輪場のロックが外れなかったのだ。
まぁ、機械式の駐輪場にこういったトラブルはつきものだ。私もこれが初めてではない。こういった時の裏技を知っている。
まっすぐ後ろに引き出すのではなく、少し上に持ち上げながら引き出すと、ロックが外れることがあるのだ。
この方法で、精算したのに引き出せなくて困っていたおばあさんを昔助けたことだってある。
なめるなよ、と心の中でどや顔をしながらその方法を試すも、びくともしない。
これは完全に自分ではどうにもならないものだと悟った。
普通であれば次の手段は、駐輪場の看板に記載されている緊急連絡先に電話して、遠隔でロックを外してもらう、などになるのだが、幸い今この場には業者のおじさんがいる。
声をかけよう。
ただ、そのおじさんが本当に業者の人なのか、確証が持てなかったので、「すみません、業者の方ですか?」と声をかけた。
「あ、そうですけど、どうかされました?」と言われた。
ちゃんと業者の人だった。疑ってしまい申し訳ない。
暗くてよく見えていなかったが、その業者の方はおじさんではなく30代くらいの人だった。
おじさんは失礼なので、ここではお兄さんと呼ぼう。
「18番なんですけど、精算したのに引き出せなくて、見ていただけますか?」
「あー分かりました、すぐ出せると思いますよー」
「ありがとうございます。お願いします。」
という会話を交わし、お兄さんが六角レンチを使って機械をガチャガチャとやり始めた。
が、待てど暮らせど一向に開く気配がない。
10分くらい経った頃だろうか、自分では無理だと判断したのかどこかに電話をかけ始めた。
会話から察するに、上司に解除の仕方を問い合わせているようだ。
作業開始から、私に対しては特に一言もない。
「すみません、少し時間がかかりそうです」「現状難しそうなので、ちょっと上に確認しますね」など、状況報告の1つくらいできないものかね、と思ったが、一生懸命やってくれているのは伝わったのでそこは目をつむった。
特に急いでいるわけではなかったが、すぐ開くものだと思っていたところ、あまりに時間がかかっていることと、寒空の下待たされていることで、さすがに少しずつフラストレーションがたまってきた。
帰りにドラッグストアに寄って、家に1枚もなくなってしまったごみ袋を買って帰るつもりだったので、「時間かかるなら買い物してきて良いですか?」と喉まで出かかった。
結局20分くらい待ったところで、お兄さんが重い口をようやく開いた。
「ちょっと無理っぽいんで、今日は諦めて帰ってもらえますか?」
予想外の言葉に思わず、「どういうことですか?笑」と言ってしまった。
「今色々やってみたんですけど、完全に自分ではどうすることもできなくて、機械を破壊するわけにもいかないですし、専門業者呼んでもいつ来れるか分かんないんで、今日は自転車引き出せないですね」
「はぁ、、、じゃあ今日このまま帰ったとして、どうすればいいんですか?」
「後日この看板の連絡先に電話してもらって、対応してもらってください、その間ここにとめてる駐輪代はかからないと思うので…」
「いや、駐輪代かからないのは当然だと思うんですけど、これ結局自分で連絡しなきゃいけないんですか?(笑)」
「まぁ、、そうですね。。」
「専門業者いつ来れるか分からないっておっしゃってましたけど、まだ確認も手配もされてないですよね?こちらに非がない以上、いつ引き出せるかもわからない状態で諦めて帰れって言われても困るし納得がいかないので、せめて専門業者を手配していただいていつ引き出せるかの明確な日時を教えていただけないですか?でないと帰れないですよ。」
そのお兄さんのせいではないのは分かっているし、お兄さんのスキルの中で精いっぱいやってくれたのは分かるが、まだ全ての手を打っていない状況で諦めろというのは、あまりに納得がいかず、少し強めに言ってしまった。
それに少し細かいかもしれないが、私に説明するときに全く顔を見ないで話している態度や、私が話しかけてから一度たりとも「すみません」と言われていないことにも不誠実さを感じ、イライラしてきた。
その後、また電話をかけて切った後、「業者の日時確認しているのでお待ちください」と言われた。
お兄さん的には「業者の手配」が最終タスクとなったようで、目の前の六角レンチでばらした機械の原状復帰をし始めた。
あぁもう今日は自転車持って帰れないんだ、明日明後日使えないの結構困るんだよなぁ、ってか本当に無理なのか?一応あとで自分で緊急連絡先に電話してみるか、と思い、電話番号をスマホに控えておいた。
もうお兄さんは元々やっていた作業に戻ってしまい、自転車を引き出せる希望がないまま、ただ待たされているだけの時間が流れた。
だが、待てど暮らせど、お兄さんの携帯に折り返しがかかってこない。
業者の日時確認の電話を入れてもらってから30分ほど経った。
さすがにしびれを切らして「業者の確認に何分かかってるんですか?確認が取れる時間のめどを教えてください。もしくは今、催促の連絡を入れてください」と伝えようとしたその時、お兄さんと同じ作業着を着た50代くらいのおじさんが現れた。
そのおじさんは開口一番、「お待たせしてすみません」と頭を下げ、お兄さんに「工具貸せ!」と言い、大きめのペンチを持って、18番の機械を開け始めた。
するとどうだろう、ものの数分でロックを解除してしまったのである。
大変ありがたかったが、とても複雑な気持ちになった。
思えばお兄さんはずっと小さい六角レンチで開けようとしていた。
なぜペンチを使おうとしなかったのかは謎だが、やはり熟練のおじさんはすごいなという気持ちと、そもそもおじさんにヘルプを頼むという選択肢があったにも関わらず、諦めろと言われたことに改めて怒りが湧き出てきた。
大人げないが、トータル1時間弱待たされてあまりにイライラしていたので、おじさんにだけお礼を伝えて駐輪場を後にした。
とりあえず自転車回収できて本当に良かったな、というかこんなに時間かかるなら松屋でご飯食べておいて良かったな、と思いながら家に着いた。
玄関を開けると、ごみ袋がかかっていないゴミ箱が目に入った。
踏んだり蹴ったりだ。