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【小説】 昔から題名を付けるのが苦手なので思いついたら題名を付けます。

このだだっ広い公園の中でもひときわ目立つ花壇に咲いている黄色い花に一匹の蝶が止まったのを観て彼女はこう言った。

「私ね! 生まれ変わったら蝶々になりたいんだ!」
彼女は満面の笑みだ。

「何で蝶々なの?」 俺は彼女に聴いてみる

「だって空飛べるじゃん! 空飛びたくない!? 絶対に景色綺麗だしすごく爽快感があると思うよ!」

・・・・・毎回思うのだがどうしたらこうも屈託のない笑顔が出来るのだろうか。
まるで世の中の腐った部分を何も知らないみたいじゃないか。

いいや・・・彼女はそういった部分を何も知らないといった方が正しいし、できるのならそんな部分は知らない方がいい。

「でもさぁ蝶じゃなくても空飛べるじゃん? 鳥とかも空飛べるじゃん」

俺はわざと意地悪に言ってみた。

「あぁ・・・そっか確かに。 でもやっぱり蝶々が良いな」
「へぇ」


そこからしばらくは俺も彼女もお互い無言だった。
ただただ春の暖かい風が吹き抜けていく時間だった。

「まぁ蝶も悪くないかもね」と俺が沈黙を破った

「でしょでしょ! そうでしょ!」
さっきまで無言だったとは思えないほどの笑顔で彼女は言う
「あとね、あとね、私ね! 蝶々にはこだわりがあるの!」

「こだわり?」

「そう、こだわり。 面白い話があってさ、蝶々が羽ばたくとね・・・」
「うん」

そう言ったあと彼女は急に黙ってしまった

「なに、教えてよ。 蝶々が羽ばたくとどうなるんだよ? もったいぶらないで教えてよ」

彼女は続きを教えてくれない。

「なに、どうしたの? 急に機嫌悪くなったの?」

彼女は何も言わない、ただ一点を見つめている。

「なぁどうしたんだ? そんなに釘付けになる物でもあった?」

彼女は何かをじっと見つめている。 

「何がそんなに気になるの? 喋ってくれないなら俺もお前の事見つめちゃうからね!」

俺は負けずに彼女をじっと見つめてやった にらめっこだ。

しばらくして俺はある事に気が付いた。

「・・・まばたきしてる?」

彼女は何も言わない

「なぁ・・・大丈夫か? というか何がそんなに気になるんだよ! 俺の後ろに誰かいんのか?」


・・・ちょっとまて。 そこで俺は気が付いた。

どれくらいかはわからないが結構長い間俺は彼女の方を観て喋っていた。 という事は俺の背後で何か大きな事件が起こっていてもおかしくないという事だ。

いやちょっと待てそれは余りにも暴論の様な気がする。 
第一そんな何かが起こっていたらさすがに俺でも気が付くだろう。

まぁでも彼女の事だ、どうせ綺麗な花が咲いていたとか子供が元気に遊んでいたとかそんなところだろう。

「おーい・・・大丈夫か?」
彼女は返事をしないでただ一点を見つめている。

何か相当嫌な予感がする・・・
「これは振り返るべきだよな」
俺は意を決して振り返ってみた。

そこには花壇に綺麗な花が咲いていた 名前は分からないが黄色い花びらが特徴の綺麗な花だ。

そっかそうだよな、彼女ならこういう綺麗なものに釘付けになっちまうよな。 うん、そういう人だもの。 

それにしてもこの花を凝視するために俺との会話をぶった斬るかね・・・
「それで? 話の続きは?」
俺は彼女の方に振り返った。 

「!」

俺は目を疑った

彼女以外の景色の全てが灰色になっていた。 

「な・・・んだよこれ」

わけがわからない  俺はたまらずに振り返った。

するとそこには灰色の花壇に灰色の花が咲いていた

おかしいさっきまであんなにきれいな花が咲いていたじゃないか。

まるで昭和初期の映画を観ているようだった。

「おい・・・なんなんだよ!」

あたりを見回すともうすでに「色彩」は失われていた。
全てが灰色になっていた。 

彼女を除いて。

「おい・・・どうなってんだよ・・・」

普通こういう状況になると人はパニックになったりするのだろう。 だがあまりにも異様な状況に逆に冷静ですらあった。

そんな俺に追い打ちをかけるように次なる怪異が襲った。

空間が裂け始めている。 

まるで画用紙をカッターナイフでズタズタにしているかのように・・・

ここまできて俺は気が付いた。

というより思い出した。

「ああそっか、この記憶はもう綻び始めているんだ・・・それに人物に憑依するタイプなんて初めて・・・」

いつもと違って何かおかしい、ここには「俺」と彼女しかいない。 

「ん?・・・という事はこれは俺の昔の記憶ってこと?」

なんて考えていると急に目の前が灰色から真っ白になった。

なにこれ・・・そういう事だ?

さっきから理解が出来ない。 

俺は一体・・・・

「眩しっ!!!」

俺はあまりの眩しさに跳び起きた 

跳び起きた? という事は寝てたのか?

「あれ?・・・ここどこだ?」

あたりを見渡すともう昭和映画の世界からは抜け出したみたいだ。
ベッドにテレビに、花瓶には色鮮やかな花が生けられている。

「ここは・・・?」

そう考えているとドアが開いて二人の女性が入ってきた

「えっ・・・ビューティー坂井さんが意識を取り戻しました!!!」

「え?」

「ちょっと待っててください、先生呼んで来ますね」
そういって一人の女性・・・看護師だ。
一人の看護師が俺の部屋・・・という事は病室を飛び出していった。

もう一人の飛び出していかなかった方の看護師が俺に話しかける。
「意識が戻ったんですねビューティー坂井さん」
「は?」
「本当によかったです」
「え?」 
「はい?どうかされましたか?」
「いや・・・ちょっと混乱してて・・・」
「ああそうですよね」
「ちょっと色々と聞きたい事があるんですけども・・・」
「私たちも聞きたい事が色々とあります。」

何だか凄くめんどくさい事に巻き込まれる気がする・・・

そんなことを考えていると「先生」と呼ばれる老人が入って来た。

「やあ目が覚めたんですね」
「ああ・・・はい」
「ここがどこだかわかりますか?」
「病院・・・ですか?」
「その通りです」
「あの・・・俺は何でここに?」
「2日前に路上で意識不明の状態で倒れていたんです、それで・・・」
「ああ、そういう感じですか」
「・・・まあこの辺は後回しにしましょう、後でゆっくりと質問させていただきます」

本当に何がどうなっているのかわけがわからない、というかこれだけは尋ねたいということがある。
「あの・・・」
「なんです?」
「ビューティー坂井っていうのは・・・」
「ああそれですか」

それだよ、なんだよビューティー坂井って

「あたしが読んでいる雑誌の美容のカリスマから取りました!」
若くて元気のいい看護士が言う

「え? どういうことですか?」
俺の疑問は尽きない。 そんな疑問を「先生」は答えてくれた

「あなたは身元不明で運ばれてきたので便宜上でそう呼んでいます」
「はぁ?」

もっとちゃんとした名前にしろよ・・・

「それでお名前は?」
「は?」
「あなたのお名前です・・・」
「俺は・・・」

「わからない・・・です」

「でしょうね」 と老人は言った

でしょうねってなんだよ・・・

「あなたの脳は一時的ですが相当なダメージを受けた痕がありました、そういうわけでどうせ記憶も飛んでるだろうなって思ってたのであんまり期待はしていませんでした」

・・・このジジイ以外とムカつくな

「まぁしばらくは便宜上の問題も兼ねてビューティー坂井でいきます。」

おいおい待ってくれよ勝手に話を進めるなって・・・

「というわけでビューティー坂井さん、このあと精密検査をするのでそのつもりで」
言った後「先生」はスタスタと俺の部屋を出ていった

なんなんだよ・・・どういうことだよ。

「とりあえず体温測りますね~」

若くて元気な看護師が言った。 そこから検査が始まったらしい。

その体温検査なり問診票なりなんなりは数分で終わった。

「じゃあ精密検査行きましょ~私についてきてくださいね」

ああ・・・もう混乱するよ・・・

俺はベッドから立ち上がり若くて元気な看護師に付いていった。

長い廊下を歩きながら俺は思う。
なんだか本当に典型的な病院だな・・・

若くて元気な看護師は何かをファイルに書きながら歩いている

しっかり前向いて歩けよ・・・

そんな「ながら歩き」をしていた若くて元気な看護師はついに正面から来た別の看護師とぶつかった。

ほら見ろちゃんと前向いてないからだ

若くて元気な看護師は「すいませ~ん」と軽く言った。
相手の中年の看護師は何も言わずに歩いて行く。

このオネェちゃん大丈夫か? ん?それに床にボールペンを落としてるじゃない

「あの、ボールペン落としてますよ」
「あっ すいませ~ん」

俺は床に落ちたボールペンを拾い上げた
「はいどうぞ」
俺は看護師にボールペンを渡した。

「ホントサイアク」 若くて元気な看護師は言った
「え?」

「あのババァさあたしが当直なのわかっててあんなに重たい仕事おしつけてくるんでしょ? ホントに性格悪いよね。 今度会ったらガツンと言ってやるんだから!」

「え?いきなりどうしたんですか?」
急に俺にそんな愚痴をいわれても・・・

「ホントですよね、あたしもきつく言われちゃって・・・あたしも先輩みたいにガツンと言える勇気が欲しいなぁ・・・」

え? 看護師が増えた? 誰この若い子

俺はあたりを見回す。 たくさんの机に電話が置いてあり、色々なファイルが並べられている。
上を見上げると中央受付と書いてある。

「さっきの廊下・・・じゃない」

なにがどうなってるんだよ・・・


prologue 完

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