読書感想『魂婚心中』芦沢 央
未婚で死んだ場合、死後結婚が執り行われることが一般的になった。
今ではKonKonというマッチングアプリまで普及し、死後結婚で理想の相手と結ばれることが出来ると若者の間で爆発的に普及をしている。
ある時私は、自分の推しのリア垢をKonKonで見つけてしまう。
もし今推しが死に、速やかに自分を殺すことが出来たなら、推しとマッチングされるのは自分かもしれない。
推しが死ねば、推しと死後結婚できるかもしれない――(表題作/魂婚心中)
表題作をはじめ、ゲームの大会で出場者たちの望んだものは何なのか、自分の罪状が見えるようになり地獄行を回避するために手助けする業者が横行する世界、嘘をついたら消えてしまう世界、マスターのためにずっと同じ状態を保つ人々、殺意を向けてきた人を殺せてしまうお嬢様とその付き人の話など全6編。
著者初めてとなるSFミステリー短編集。
芦沢先生といえば、予想外のどんでん返しに加えて場面設定がいつも非常に面白いミステリー作家さんだと個人的には思っている。
今作はなかなかに異色で特殊設定がさえわたる短編集となっている。
個人的には表題作の『魂婚心中』と最後を締める『九月某日の誓い』が特に好きだが、地獄の階層が生前の行動で変わる『閻魔帳SEO』も面白かった。
かなり奇をてらった設定の短編ばかりなので、世界観を掴み切れないとおいていかれる感は否めないが、まぁそれは誰が書いた作品でもいえることなので特に気にならず。
個人的にはあまりゲーム大会とか観戦とかになじみがないので『ゲーマーの Glitch』は入り込めなかったんだが、最後のオチは好き。
そこはめっちゃわかる(笑)
『閻魔帳SEO』の死後の世界の振り分けにアルゴリズムがあってそれが度々変更されるって設定に惹かれた。
め、めちゃくちゃ理不尽…だけど、そもそも小手先で行き先を変えようとしてる人たちが悪いのか???と思わず考えてしまった。
『二十五万分の一』に関しては、最初の一文が決まっていた、とのことなので、その始まりからそういう風に話を組み立てるんだーと感心してしまう一編でした。
いつもの現代社会で起こるかもしれない、どこかで見聞きしたような歪みから展開されるミステリーはもちろん面白いんだが、今作の何それ、それどっから来たの?と思わされる短編の数々もとても面白かった。
芦沢先生こういうのも書かれるのね…!!とより作者さんが好きになる一冊。
どういう着想で書かれたかのあとがきがあるのも嬉しい。
いや~楽しかった。満足です。
こんな本もオススメ
・ケン リュウ『紙の動物園』
・三崎 亜記『廃墟建築士』
・恒川 光太郎 『無貌の神』
個人的には長編をがっつり読むほうが好きなんだが、こういう、何それどこでそんなこと思いつくの??って思わされる短編集はとても楽しい。