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均等法と第3号被保険者

 2024年12月2日、経済同友会が「第3号被保険者制度」の廃止を提言した。
日本商工会議所や「年収の壁」問題や議論が活発化している。

 私は「均等法体験記」を通して、均等法時代を女性の第2号被保険者として生きた経験から、均等法と第3号被保険者制度の矛盾によるジェンダーギャップや少子化、失われた30年、シングルマザーの貧困、賃金水準の低迷、格差社会など、現在私たちが抱える様々な課題の原因を明らかにしようと考えていた。

 しかし、そんな悠長なことでは間に合わない気がする。
 議論の主体が主に経営者層の男性第2号被保険者なので、第3号被保険者制度を「主婦年金」と呼ぶなど、年金制度に対するジェンダーバイアスに気づいていないためである。
 核心には近いけれど、方向性が微妙にずれている、と思う。

 だから、わかりにくいかもしれないけれど、細かい説明を省いてざっくり書いてることにした。


第3号被保険者制度=「専業会社員・公務員優遇制度」


 問題のきっかけは、1986年にほぼ同時に制定された、均等法と第3号被保険者制度である。

 均等法と第3号被保険者制度は矛盾している。

 均等法は、女性の第2号被保険者化を推進する法律である。
 一方、第3号被保険者制度は、夫は仕事、妻か家事、という男女間の固定的な役割分担を制度化し、女性の第3号被保険者化を促す法律である。

 第3号被保険者制度により、夫婦間の仕事と家事の役割分担が制度化され、男性第2号被保険者はそれまでの慣習による家事労働に加え、社会保険料まで免除され、長時間、仕事に専念できることとなった。

 厚生年金制度は報酬比例の成果主義型である。
 成果主義の年金制度において、第3号被保険者制度は、家事労働時間が少なく、長時間、仕事に専念できる男性第2号被保険者(=専業会社員・公務員)が最も有利になる制度である。

 第3号被保険者制度は専業主婦優遇制度ではない。「専業会社員・公務員優遇制度」なのである。

 均等法と第3号被保険者が制定されたのはどちらも1986年だ。
 均等法は女性の社会進出を後押して経済的自立を促し男女平等社会を実現するため、第3号被保険者制度は無年金の会社員・公務員の専業主婦の妻の年金権の確保のため。

 それぞれ単独では有益な法律だが、相反する矛盾した性質の法律が、双方のメリットを打ち消し、年月の経過とともに矛盾が拡大し、さらには2000年の初めに労働者派遣法改正という「促進剤」を投入したため、社会のひずみが拡大してしまった。

 混ぜるな危険、のアルカリ性の洗剤と、酸性の洗剤を混ぜ合わせたようなものである。しかも混ぜるのを中止すべきところ、効果が薄いからと、促進剤を投入して、かえって猛毒を発生させて、国中毒雲に覆われてしまった。それが今の状況である。

非婚化・少子化の背景

 一例をあげよう。

 年収350万円(おおよそのわが国の女性の平均年収)の第2号被保険者の女性が結婚後に会社を退職して第3号被保険者になると、所得はゼロ、将来の年金額も減少する。結婚して第3号被保険者になる可能性を考慮すると、年収700万円以下の男性と結婚する経済的合理性がない。

 第3号被保険者に対する所得制限により、結婚に経済的合理性が欠けることが、非婚化・少子化の一因である。
 そして男性の低所得化もまた、矛盾した制度の影響である。
 

 均等法により、女性の進学率が上昇し、勤続年数が長期化して女性労働者のレベルが男性労働者と代替可能なレベルになった。

 ところが、結婚して第3号被保険者になり、再び労働市場に出てくると、
企業は社会保険料の負担なしで、所得制限、労働時間制限による最低賃金水準の「公定賃金」で雇えてしまう。
 
 第3号被保険者の「公定賃金」には、学歴やキャリア、資格による評価が反映されておらず、一律だからである。

 経営側からはこんなに有利な制度はない。
 一定レベルの労働者が社会保険料の負担なし、最低賃金水準の「公定賃金」で雇えるからである。
 労働時間制限があるとはいえ、男性だからという理由のみで第3号被保険者と代替可能な労働者に、社会保険料、配偶者手当などを負担してさらに専業主婦を扶養できる高賃金を払う必要はないだろう。

 男性にとっては、妻には仕事を辞めて、第3号被保険者の専業主婦の妻になって家事に専念してもらいたい。自分は仕事に専念して長時間働いて、高い賃金と年金を得て安定した家庭を築きたい。だから結婚したい。だけど、労働市場で「公定賃金」で働く均等法でレベルアップした他人の妻と競合するから、賃金が上がらない、だから、結婚できない。

 また、既婚男性と既婚男性に引きずられる形で未婚の男女の長時間労働をもたらすとともに、結婚後の女性の長時間の家事・育児労働を招いたことも、非婚化・少子化の要因であろう。

 結婚したくても結婚できない男女が増えたのは、矛盾したしくみも一因である。

 第3号被保険者制度が無くならないのは、中小企業経営者が、社会保険料の負担なし、ほぼ最低賃金で労働者を確保できる制度だからだろう。
 けれど、非正規の低賃金労働者に頼った結果、経営努力が人件費の削減中心になり、従業員のモチベーションが低下して、生産性や成長性が犠牲になってはいやしないか。

 賃金決定に能力が反映されない「公定賃金」、なんて、昭和の時代に社会科の授業で習った旧ソ連のよう。
「均等法と第三号被保険者」の制度の矛盾が、ひそやかに社会主義化を進展させてはないだろうか。

なぜ、こうした矛盾が社会で共有されないのか。

矛盾に気づいて

 私は「第3号被保険者制度=専業主婦優遇制度」
という、「思い込み」が原因だと考えている。
国民全員が、信じ込んでいるためである。

 まあ、年金などの教科書に、
必ず「第3号被保険者は専業主婦優遇の制度です」、
て書いてあったら信じちゃうよね。
 まったくの間違いではないし。
 年月の経過とともに、実は当初と性質が変わっていました、
っていうことには気づきにくいし。

 私は確定拠出年金がきっかけでなんか変だな?と気づいたのだけれど。
 だけど、結局理由をなんとか説明できるまで、こんなに時間がかかってしまった。
 十分ではないけれど、私にできるのは、noteに書くことぐらい。
偉い大人の前で、「王様は裸です!」って叫ぶ子供みたいだけど。

 でもこのnoteが人々の矛盾の気づきのきっかけになってくれればいい。
 

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