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歌集『母となる』 第十章「水鳥のつばさ」~『生殖の海』2024年版~
歌集『母となる』 第十章「水鳥のつばさ」
この子を産んで身二つになったら、伊那を出てゆこう。
川浪にすゞしき音を先立てゝむかしとおなじ夏の夕暮れ
初風のならす音もて途絶えたりあふぎおかるゝあけぼのゝ夢
暴れ川しぶきをなして下りゆくひとの涙を我れは忘れじ
夕暮れは砕くる浪のこゑたかくもとの流れに世はあらずかし
つゆけさを添へ風の寄る葛の葉の恨むることはさいはひにあり
悲しびを悲しぶ者もあるものか紅葉ば枯れ葉浪はへだてず
秋のいろを織れる川面のさゞなみにしづけさ添ふる夕暮れの空
ねやさむく月さしのぼり入る影に塵の枕のものすさまじさ
ふかき闇切り裂かれたり水鳥のしろきつばさぞ飛び立てるらし
見ず知らぬ川のながれにまかすべく行けわたりどり血は止まりたり
いまぞ知る憂さもつらさも覚え初めて化粧道具の投げらるゝ壁
思ひきや身をうき草のねにこそあれひとを恨むる我がこゝろとは
さむしろに紅筆は折れ粉ぞ舞ふなほさやかなる影を霞めて
鎖ゝれたる産屋に浅く息をして筆を蹴る蹴る松の戸に立つ
思ふこと思はざりしこと知り初めしおもひも流せ暴れ天竜
立ちこむる湯気にむせべば窓のなき産屋にかよふ天竜のこゑ
なべてみな忘るゝきはの雄叫びに子のかたまりも泣き声を上ぐ
いまし方産みつてふ子をかたはらに見でひたときく暴れ天竜
川浪のたかさ風裂く鳥のこゑ枕に知らぬ夏は来にけり
たつたひとりのたゝかひを終へ思ひ遣る暴れ天竜この川の果て
下らめよ浪のいくへに母としてあらしのかよふ玉鉾の道
梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~
序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋
2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。
過去の『生殖の海』
2020年版『生殖の海』
2021年版『生殖の海』
2022年版『生殖の海』
2023年版『生殖の海』
紙媒体の『生殖の海』2020年版
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特にこのたび令和5年の隠岐後鳥羽院大賞和歌部門で古事記編纂一三〇〇年記念大賞を受賞し、表彰式を含む大会のツアーに申し込み、ツアー代金(9万円弱)は生活費と別に工面することになりました。
ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。
ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。
今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。
この記事を書いた人
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