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鳴門は竜の門なれや

お盆を四国(高松・徳島)で過ごしました。私が生まれ育った徳島には、渦潮で有名な鳴門があります。
江戸時代の歌人下河辺長流は、渦潮を海の中から竜が出入りする門という理解を示しています。
わたつみの鳴門は竜の門なれば潮(うしお)も滝と落つるなりけり(『林葉累塵集』1327・下河辺長流)
当時、渦潮は不思議な現象だったと思います。そうか!鳴門は竜の出入り口なので、海水も滝水のように水底に落ちるんだ!と膝を打ってみせているのです。
 
水神は、しばしば蛇や竜のかたちで現れます。『千と千尋神隠し』のハクも、コハク川の主、龍神「ニギハヤミコハクヌシ」でしたね。鎌倉の三つ鱗紋伝承も龍神と深い関わりがあります(「出没!アド街ック天国」「江の島」回でも紹介されていましたね。)
 
『太平記』は、北条時政が江の島で子孫繁栄の祈りを捧げた話を紹介しています。その祈願の場に登場したのが水神(弁才天)で、鱗を落として去っていったことから、北条氏の「三つ鱗」紋が生まれたと言われています。
 
 龍の門のほか、鳴門は「鳴る」の名にちなんで、大きな音もまた和歌に詠まれます。
日暮るればしのびもあへぬ我が恋や鳴門の浦に満つ潮の音(『散木奇歌集』恋上・1032・源俊頼)
潮満てば鳴門の浪の音のみぞ春の霞にこもらざりける (『親盛集』3)                          


 俊頼の歌は、恋歌です。当時の恋人は日が暮れるのを待って、逢っていたので、夕暮れ時は恋心がたかぶる時間帯なのです。「しのびもあへぬ」は、がまんできない、こらえきれないという意味。夕方になると、鳴門の渦潮がたてる音のように声をあげて泣いてしまうという恋の激情を詠んでいます。後白河院の近臣だった親盛の歌は、たちこめる春霞から漏れて響く鳴門の浪音をモチーフにしています。
 
 
「古典絶景navi」(三菱自動車・「週末探検家」ウェブサイト)は、古典に詠まれた絶景を現代人が追体験できるポイントをナビゲーションすることを目指したシステムです。
その一つに、徳島の鳴門を選びました。和歌は、先に掲げた、俊頼の「日暮るればしのびもあへぬ我が恋や鳴門の浦に満つ潮の音」です。逢いたくて、逢いたくて、我慢ができず、鳴門の渦潮の音のように、大きな声で泣いている男の恋心を詠んだ歌です。渦潮の音に、恋に泣く男の声を重ねています。

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