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【No. 10 サイクリストは大腿部・体幹部のどの筋が大きいのか?】

<背景・目的>
サイクリストは習慣的に下肢の多関節運動であるペダリング動作を繰り返し実施している。これまで多くの研究において、サイクリストの筋形態が検討されてきたが、未だ明確なコンセンサスは得られていない。この研究では、サイクリストの習慣的な競技トレーニングが大腿部の筋および大腰筋の体積に及ぼす影響を横断的・縦断的に検討した。

<方法>
〇実験1:横断的検討
・対象者
男子サイクリスト8名:年齢20.3±1.4歳,身長173.3±6.0 cm, 体重64.2±6.6 kg, 競技歴7.0±3.1年
一般男性10名:年齢21.3±1.5歳,身長171.6±3.5 cm, 体重65.2±5.5 kg

・測定および分析 
MRI装置を用いて、以下に示す下肢筋の起始から停止部までの横断像を撮影。大腿四頭筋各筋(内側広筋・中間広筋・外側広筋・大腿直筋)、ハムストリングス各筋(大腿二頭筋長頭・大腿二頭筋短頭・半腱様筋・半膜様筋)、内転筋群(大内転筋・長内転筋・短内転筋・恥骨筋の合計)、薄筋、縫工筋、大腰筋の体積を算出。
今回のnoteでは、筋体積の絶対値に関する結果のみを紹介します。

〇実験2:縦断的検討
・対象者
男女サイクリスト12名(男子10名・女子2名):年齢20.0±1.2歳,身長170.2±8.0 cm, 体重62.6±8.3 kg, 競技歴4.1±2.9年
一般男性10名:年齢21.5±1.7歳,身長173.1±5.6 cm, 体重65.6±5.0 kg

シーズン中、サイクリストは主にロードにおいて1週間に15±5時間(280±125 km)の練習を実施した。

・測定および分析 
MRIから実験1と同一の筋群を対象に体積を算出。シーズンの初期と後期(観察期間:6ヶ月)に測定した。

<結果>
〇実験1:横断的検討
・外側広筋、内側広筋、中間広筋、大腰筋、大腿二頭筋短頭、半腱様筋、内転筋群の筋体積は一般男性よりもサイクリストで有意に大きかった。
・大腿直筋、大腿二頭筋長頭、半膜様筋、薄筋、縫工筋の筋体積に、両群間の有意な差は認められなかった。

〇実験2:縦断的検討
・外側広筋、内側広筋、中間広筋、大腰筋、大腿二頭筋短頭、内転筋群の筋体積は、シーズン前よりもシーズン後で有意に増加した。
・大腿直筋、大腿二頭筋長頭、半膜様筋、薄筋、縫工筋の筋体積に、シーズン前後で有意な変化は認められなかった。

<考察>
6ヶ月の観察期間に有意な肥大が認められた筋(実験2)は、サイクリストと一般人との間で体積に有意さが認められた筋(実験1)と一致しており、縦断的検討(実験2)の結果は、横断的検討(実験1)の結果を実証するものであった。これらの結果より、サイクリストのユニークな筋形態は、遺伝的要因ではなく、サイクリングでの競技トレーニングに起因しているものと考えられる。また、縦断的検討(実験2)では、単関節筋が肥大を示した(半腱様筋を除く)一方、二関節筋は変化しなかった。これは、ペダリング動作時の各筋の機能的役割によるものであると著者は推察している。

<結論>
サイクリングの競技トレーニングは協動筋内の特定の筋を肥大させ、大腿四頭筋・ハムストリングス・内転筋群・大腰筋においてサイクリスト特有の筋形態をもたらす。

<文献情報>
Ema, R et al. Unique muscularity in cyclists' thigh and trunk: A cross‐sectional and longitudinal study. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2016
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/sms.12511
#サイクリスト #単関節筋