![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/21509353/rectangle_large_type_2_5f7dd6758ad8a9f54f8f4e666129745f.jpg?width=1200)
ブックレット掲載小説サンプル「CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 緋色の糸の研究」【新作/無料記事】
2020/5/2発行予定「CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 朗読劇Collection 緋色の糸の研究」ブックレット掲載小説の、サンプル(抜粋)です。
※noteの仕様上、一部のふりがな、傍点が省かれています。
※都合により予告なく公開終了することがあります。
だれのための呼吸。
いつまでの生命。
そんな年季の入ったクイズのこたえは知らない。
きっと神ですら。
寝ついて一時間程度で目がさめた。
もったいない、と希沙良は思う。
なぜ眠れなかったのだろう。
自由が丘にある里見家は、希沙良にとって第二の実家だ。いまさら緊張なんかしないはず。
夕食に、十九郎の得意料理のラザニアをたらふく食べたし。
大量の春休みの課題をかたづけて――一部、十九郎に手伝わせてはいるが――脳もじゅうぶん疲労させた。
あいまに、通信対戦ゲームで、ネットごしに西城敦と一戦まじえて負けたりもした。
志望校に合格して暇になった西城は、すっかりただのレベルカンスト級ゲーマーだ。勝てる気がしない。
「西城はなにごとも、『余力』でやって、こうなんだ。対戦相手の苦労は理解しない」
なかなか不機嫌に十九郎が言ったのが、希沙良にはおもしろかった。
遠慮せずに、そういう発言を次々にくりだせばいい。
(人間っぽくていいだろ)
人生をいっしょに歩んできた従兄は、すべてにおいて上出来すぎて、優等生すぎるので。
たとえば十九郎の部屋だって整理整頓されすぎていて、上着一枚、本一冊、そこらに置きっぱなしということがない。つねに掃除したてみたいにかたづいている。どういう仕組みでそうなるのか希沙良にはわからない。きまぐれに希沙良が「今日は泊まる」と言えば、いつだって秒速で、ぴかぴかの床にふかふかの上等な布団が敷かれる。高級旅館か。
いや、すこしは、わかることも増えた。
(俺がいつでも泊まれるように、かたづけてたんだよな)
わかる。
(おまえ俺のこと大好きだもんな)
知っている。
たまには置き忘れられた靴下の片方を拾ってやりたい、という気分が、希沙良のなかにある。それは希沙良の都合だ。十九郎に無理強いはできない。
まだ決着のついていない、静かな戦いなのかもしれない。
すべての問題がきれいに解消されたわけではない。
十九郎はずいぶん派手な、大掛かりなやりかたで、あらゆる問題の皺寄せを背負ってもろともに消えようとした。
理想家すぎるのだ、と西城は言っていた。
だが里見十九郎は思想や幻想ではなく生身の人間である、だからこそわれわれに勝ち目があるのだ、とも。
(ジョーアツは物好きだよな。けど、たすかる)
希沙良が術者や従兄弟という立場にこだわり、自分と彼のあいだにあるはずの絆の切れ端だけで解決しようとしたら、十九郎は思惑どおりに逃走を叶えていたかもしれない。
それほどに十九郎は捨て身で真摯だったから。
ああ、怖かったな、と希沙良は思いおこす。
遠ざかった過去の記憶ではない。
ずっと響きつづけているリアルな耳鳴りみたいな怖さ。
そして隣のベッドで眠っているいまの十九郎を、どう処理するか、考える。
見るか。見てもいいのか。
死骸ではないと、かならず確信できるのか。
CD+BOOK ハイスクール・オーラバスター 朗読劇Collection
「緋色の糸の研究」
(CD二枚組&B5ブックレット)
詳細ご案内ページ http://highschool-aurabuster.com/cdbookscarlet
いいなと思ったら応援しよう!
![若木未生(小説家)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2504392/profile_a79fed7b93e2e934928c18c339d33679.jpg?width=600&crop=1:1,smart)