おはしなおはなし ② ~おおきなくまのぬいぐるみ~
「ほんとうに、ひっこしってしなくちゃいけないの?」
やっちゃんは、おおきなクマのぬいぐるみをギュッとしながら
おかあさんにいいました。
おとうさんが、がいこくでおしごとをすることになり
ひっこしをすることになったのです。
だいすきだった、おともだちや、くまのぬいぐるみとおわかれをしなくてはいけませんでした。
やっちゃんは、まいにちまいにち、ないていました。
「やっちゃん。かなしいよね。だけど、あたらしいおともだちともたくさんあえるわ。」
おかあさんがやさしくはなしかけます。そんなときに、げんかんでチャイムのおとがなりました。
ピンポン
ドアをあけると、おなじようちえんのタケちゃんとヒロちゃんがいました。
タケちゃんがいいました。
「おかあさんのけいたいで、おはなしできるっていってた。またあそぼうね。やっちゃん、どうして ないてるの」
「このぬいぐるみとも、さよならしなくちゃいけないんだって」
「そうなんだ」
「うん」
そのとき、ヒロちゃんが クマのぬいぐるみを さっとやっちゃんからとってしまいました。やっちゃんはビックリしていいました。
「なにするの?それはやっちゃんの」
「さよならするっていってたもん。このクマさんはヒロちゃんのにする」
「いーやーだ」
「ヒロちゃんのおうちにきたいってクマちゃんもいってるもん。ヒロちゃんのおうちはひろいし、ひろちゃんはやさしいもん」
「それ、やっちゃんの」
「もうヒロちゃんのだもん」
ぬいぐるみをだきしめたまま、ヒロちゃんは、おそとへはしっていってしまいました。
わーん わーん
やっちゃんは おおごえでないています。
たけちゃんは やっちゃんのてをじっとにぎっていました。
「たけちゃん、ほんとはね、あのぬいぐるみ、たけちゃんにあげようっておもってたの。だから、かなしい」
「やっちゃん。ありがとう。たけちゃんは やっちゃんとあえなくなるの、かなしい。」
ふたりでだきあって わんわん ないてしまいました。
「あらあら、ふたりとも。もうなかないの。ねえ、やっちゃん。おかあさん、やくそくする。 たけちゃんとおはなしするとき、ママのけいたいつかっていいよ。そうすれば、まいにちでもたけちゃんとおはなしできるよ。」
「ほんとうに?」「そうよ。やくそくする。」
やっと、やっちゃんがわらいました。
「たけちゃん、また、あしたね。」
「やっちゃん、また、あしたね。」
ふたりは、いつものようにてをふりました。
ひっこしたあとも、ふたりはまえよりなかよしになりました。
ぬいぐるみをおうちへもってかえったヒロちゃんはどうなったかって?
それから すこしたった ヒロちゃんのおうちをのぞいてみましょう。
「ヒロちゃん、おふろのじかんよ」
「いーや。ひろちゃん、あそんでるの」
ヒロちゃんはパパからもらったゴルフゲームにむちゅうです。
「もうやめなさい。ところで、このあいだ、ヒロちゃんがもってかえってきた とてもきたないクマさん。だれからもらったの」
「ひろったの。」
「すぐにひろってくるんだから。せんたくするの、たいへんだからつぎのそだいごみのひに、すてちゃうわよ」
「いいよー。ヒロちゃん、もういらない」
埋もれてしまっている宝石がたくさんあるように思います。文化だったり、製品の場合もあるけれど一番は人間の可能性です。見つけて、発信してよりよい世界を共に生きましょう。