中学のころ同じクラスだったナリタタイシンともっと話しておけばよかった
10年ほど前。
私が中学生だったころ、クラスにウマ娘がいた。
名をナリタタイシンといった。
あまり人付き合いの良い方ではなく、休み時間は独りで窓の外をなんとなく眺めているような子だった。
ウマ娘は走るのが速いと聞いていたけれど、別に運動部には入ってなかったと思う。放課後はクラスで一番早く下校する子として一部で話題になったことがあった。今にして思えば部活とか集団行動とかそういうのを避けていたような気もする。
女子中学生とは恐ろしい生き物で、徒党を組んで気に入らないやつを攻撃するクラスメイトも多かった。仲良さそうに見える3人組も、1人がトイレに立てば残りの2人が陰口を叩く。
その様を見て私は女子全般が怖くなってしまったこともあった。思い出さなくていいことを思い出してしまったな。それはいいとして。
タイシンはその点誰とも深く関わらなかった。
関わる必要がなかったと言うべきか、徒党を組む必要がないほどに彼女は強かった。(ケンカがとかではなく)(それもなくはないけど)
そもそもウマ娘である。レースに出るようなのは時速60キロを超える速度だと言うし、身長の何倍もあるような巨大なタイヤを使ってトレーニングをしているドキュメンタリーかなんかをテレビで見たこともあった。何のタイヤなんだっけ?人間なんか束になったって力比べでかなう相手ではない。
タイシンは身長はクラスの中でも低い方だったし、人間の私から見ても華奢に感じるところはあった。
オーラと言ったら軽く聞こえるかもしれないけどナリタタイシンにはそれがあった。孤高というか一匹狼というか、必要以上に仲良くはせず、必要不可欠のコミュニケーションだけを取って学校生活を送っていたんだと思う。当時背伸びをしつつも結局クソガキだった私には大人びて見えた。
遠巻きに陰口を(あえて聞かせるように)言っていたやつらもいたかもしれないが、一瞥しておしまいだった。なんだかお高くとまってて気に食わないから、とかそれくらいのくだらない理由だったのだろうし、それをタイシンもわかっていたんじゃないだろうか。わかんないけど。
そんなタイシンと少しだけ話す機会が出来たのは席替えで隣のクラスになった1ヶ月間だけだった。
その時の担任は数学の担当で、ホームルームの時間によく小テストを出してきた。答え合わせは隣の人と交換することになっていて、思ったよりも字が綺麗だったのを印象深く覚えている。成績はそこそこだった。
英語の授業も隣の人と英文を読み合う形式のことがあった。タイシンは声こそ大きくないものの丁寧に発音していてなんとなく意外だった。
理科の実験も調理実習も確か一緒にやった。スチールウールを燃やしたりとかした気がする。いやコイルに鉄心突っ込んだんだったかな。あんまりはっきり覚えてるわけではなかった。なんかやったことだけは覚えてる。
一緒に日直をやったこともあった。ごみ捨ての荷物が重たくて何回かに分けて行こうかと思ったけど、タイシンがまとめて持ってくれた。女の子に重いものを持たせてしまった罪悪感とウマ娘の力の片鱗を見ることが出来た高揚感で不思議な気持ちになった。知識としてはすでに知っていたはずだったのに、そこで急にああ、ウマ娘には勝てないんだ、と実感した。たかだかごみ袋なのだが、中学の記憶の中でも妙に鮮明に残っているものの一つだ。卒業式に好きな人に告白したこととかよりも覚えてる。
でもそれくらいだった。思えばタイシンの顔を正面からしっかり見たことは当時なかったような気もしてくる。中学の頃同じクラスだった、とか言っても関りがなければ卒業した途端忘れてしまってもおかしくないし。実際この前タイシンが出場したレースの映像を見るまではその辺りのこともわりと忘れていた。鮮明に覚えてないじゃないか。でも言われたら思い出せる。そんな濃度の記憶だった。
本気で走るナリタタイシンは中学時代に見たことはなかった気がする。人間用の校庭を本気で走ろうものならいくら子供とはいえ地面がえぐれてしまうからそもそもウマ娘は走れる場所が限られていた。ああ、だから部活には入らずにいたんだ。ウマ娘のレース教室?みたいなやつに参加してたとかって誰かが言ってたかもしれない。わかんないけど。あとは土手とか走ってたのかな。たまにウマ娘たちが走ってるのも見かけるあの辺とかで。
そんな感じ。眠くなってきた。思い出した順につらつら並べてるだけなので多少乱雑な文章になってしまった感じは否めない。なんせ10年は前の記憶だから曖昧な部分も多い。多少盛られてる部分もある気がする。
最近ナリタタイシンのレースを見てからウマ娘のレースが気になってきて、実際のレースを見たり過去の名勝負なんかを見たりしてる。スポーツ観戦はそこまでちゃんと見たことはなかったけどちょっとハマってしまいそうだなと思った。などと言うくらいだからもう既にハマってるんだろうな私。
私が当時知っていたタイシンと比べても今のタイシンはすごく充実しているように見える。背が高くて聡明そうな子やめちゃくちゃ元気な子と合わせてライバル関係なんだとか。当時もっとナリタタイシンと話してたら、当時からもっとレースを見ていたら、今とは少し違うことをしていたのかもしれない。せっかく同じクラスだったんだからもっと仲良くなりたかった。それも拒否されてしまっていたのかもしれないけど。
色々と思い出される過去を悔やんでも仕方がないので、とりあえず次のレースはナリタタイシンを応援します。ファンレターも書いてみようかな。
いやでもやっぱり仲良くなっておきたかったな。