若葉荘 A 盈月のまにまに
若葉荘A 「盈月のまにまに」(えいげつのまにまに)
「都会は、人が多いわね。」
小さく、悪態をつく、この女、名を水無瀬 美冬(みなせ みふゆ)と言う。
彼女は会社の性質上出向を余儀なくされ、ここ『萌木町』(もえぎちょう)へ越してきた。
会社では人の善意に頓着していなかったのと、淡々と業務をこなすことで周りからは、
『白い仕事人』言われているほどだ。
本人は噂話の類には興味がないため知る由もない。
今回は、そんな人が、
『柚月』と呼ばれるようになった日のお話。
「大きなおうちね。こんなとこに住んでる人の顔が見てみたいわ。」
私は、ポツリとつぶやいてしまった。
どんな人が住んでいるのかしら。
人の顔色をみて行動をしっかりと起こすことで
出向できるようになった。
会社の業務にも慣れてきたでしょうし、
もうそろそろ、大きなところにでも引っ越そうかしら。
今日は、新月、月のない夜。
なんかこういう時は、
一人でもお酒が飲みたくなる。
繁華街を抜けた先、
突き当りを右、
小っちゃい提灯のある何だったかかしら。
枯山水じゃなくてー、、、、枯木?
そう『枯葉』よ!
あそこに行ってみましょう。
家の近くのオーガニックなカフェとかは休日行けばいいのよ。
今回は居酒屋よ。
華の金曜日なのだから、
あそこで食べる、お魚はおいしいのよね。
サザエやカキもよかったわ。
デザートも、、、スイーツ?も?
店主が背伸びをしている感じで、
少しかわいげがあって面白いし、いいのよねー。
「行動第一!
しっかりと行動しないと!
時間はまってはくれないわ!
太陽が昇るまで!今日は飲むの!」
お湯を撒いている老人と目が合った。
口が開いている。
顔が熱くなる。
「太陽が昇るまでは言い過ぎたわ!
満足いくまで飲みましょう、、、。」
老人が微笑んでいるが恥ずかしいので
見ないようにしましょう。
そうして、慣れない道を歩く、
なぜかすんなりと来れてしまうのは、
いい事よね。
明るい。
店の引き戸に目を細めながら店内に入る、
ガラガラという音に心が少し、うきうきする。
店内は、冬であるからか暖房がよく効いている。手袋を外し、コートを席にかけ、
ゆっくりと腰を下ろす。
「いらっしゃい!おねーちゃん!待ってたよ!今日は何にするかい?お魚かい?」
お魚、、、お魚、、、いい響きね。
「こんばんわ。お刺身ありますか?
よくわからないので盛り合わせとか
あると助かります。」
「たくさん食べな!
ちょっと待ってなすぐ用意するよ。」
包丁を手に店主が上機嫌に料理する。
季節の魚は、地元にいる頃は結構敏感だったほうなのだけれど、仕事をしていると、
おいしいものに疎くなってしまうのは、難点ね。
実際、こうして足を運んでみると思うのだけれど、店内のいすや家具が少し新しくなったように感じるわ。
何か特別なことでもあったのかしら。
さっき、気になることを店主が言っていたけれど、
待っていたとはどういうことなのかしら、、、。まあいいか。
「はい!お待ちどう様!飲み物と刺し盛りだよー!値段はそうだねー600円くらいにしとこうか?」
こんなに立派な刺し盛りが600円!!
「、、、それはさすがに申し訳ないですよ。」
「そんなことはねえさ!待ち人が来るとうれしいもんだよ!」
私も、正直嬉しい、、魚、、魚卵、、貝類まで在るじゃない、、、得したわ。
でもやっぱり気になる。
私はなぜここの店主に待たれていたの?
「、、一つお聞きしてもいいですか?」
小さい声で、聴きとってくれるかは不安だったけれど、しっかりとこっちを向いてくれた。
そこで私は、聞いてみることにした。
「、、、なぜ私を待っていたんですか?」
「あーそれね!悪かったね驚かせちまった。
実はね、ここの常連に熊みたいなあんちゃんとスーツのよく似あうにいちゃんの二人組がいるんだけど、おっちゃんの話を信じないんだぜ?!
女の子が来たってぇ話したんだが、
ニコニコ気持ちわりい笑顔でそうですかそうですかと、なだめてきやがる。
ひでえ話だろう?」
残念だけれど、信じないでしょうね。
、、、店主は正直にいい人だし、嘘はついていないっていう人も多いと思うけれど、、、先に挙げたデザートの、、、スイーツのように見栄っ張りなところがある。
その上、ここの立地は裏路地のさらに奥を右に突き当たるまで進む。
なかなか女性は近寄れない風貌をしているし、
信じないでしょうね。
「そうですね、なかなかひどい方もいたものですね。」
「だろ?おまけに姉ちゃん何回かしか来た事ねえだろう?だからよ?なかなか証明ってもんもできやしなくてな、でも、おいしそうに刺身食ってくれて、おまけに女の子が来たってのが夢じゃねえと、くりゃサービスくれぇさせてほしいもんよ?」
やはりここは、女の子が一人で来ないようなところのようね。私も少し警戒したほうがいいのかしら?
「一つお聞きしたいのですが、他に女性は来るのですか?」
素朴な疑問だった。
少し首を傾げた店主が、うーんとうなったかと思うとおもむろに口を開く。
「それがねー、なかなかいねえもので、数日前に、お腹を空かせた見るからに金持ってねえガキに飯やったくれえで、他は基本誰かのお連れ様でさあね。」
やはり一人では来ないようだ。なんだかもやもやする。もやもやするわー。
「お酒、もう一杯お願いします。」
「お、おねーちゃん早くないかい?」
「いいえ?遅いほうなのでは?」
、、早いのかしら?
みんなビールなんてこんなもんではないの?
「、、入れ間違えたのかな、、、、
何にするかい?」
ぼそぼそと、独り言をつぶやきながらも、
しっかりと注文を取ってくれるのは助かるわね。
「んー、日本酒ありませんか?ゆっくり飲みたいので、、」
「わかったよ!ちょっとまってな!
最近もらった、
日本酒があるんだが飲んでみないかい?
さっき言ってたあんちゃんの土産なんだが、
ピン(新品)があってな!
三合だけ飲んでみないかい?」
今時、新品のことをピンという人も珍しい。
三合かーあまり量を飲むわけではないのよね。、、まあ、飲んでみようかしら。
とっくりと升が運ばれてくる、付属していた升のようで説明が入る。
「なんでも、こいつで飲むのがいいみてぇよ?
見て楽しめるらしい。」
とっくりを傾け、
日本酒を注ぐ、
なかが、少しずつ藍色に色づく。
不思議。
「偏光加工?っていうのか?
おいちゃんはよくわかんねえがきれいだよな。」
確かに、きれい薄っすらと小麦色のお酒には店内の暖色が反射する。
池に映る月のように。
飲み干すと。
黒く光る底が見える。
充実感と一緒に、喪失感がする。
鼻から抜けるため息、、、いい酒だわぁ。
『この時間が続けばいいのに』
けどどこか懐かしい気がする。
初めて飲んだはずなのに。
なぜかしら、、、。
ガラガラとドアが開く音がする。
「おっちゃん空いてる?」
和服の大柄な人が入ってくる、
これは完全な偏見だけれど、
こういう人は声が大きい。
苦手ね。
しかも隣に座ってきた。
どうして?
こんなに席が空いてるのに、
一つくらい空けたらどうなのかしら?
感性が分からない、、、。
意識の外から大声がする。
「おいあんちゃん!
みてみなぁ!!
この子が噂の、おねーさんだよ?
ほらどうだい?美人さんだろう。」
手のひらを上に向け私のほうに向けてくる。
しかも自慢げに、、。
熊みたいに大きい人が口を開く。
「娘さんがいたのは驚きだな、
独身貴族ではなかったのか?
顔も似ていないし、大体中学生に、
こんな立派なスーツ着せて、、、、
いつからここは不良のたまり場に
なったんだよ。」
そこまで、いうの?
初対面の人に失礼だと思わないのかしら。
まあでも、しょうがないのかしら。
突き出した手を額にあてて、
ため息をつきながら店主が低い声で言う。
「あんちゃん、、、そらあいけねえよ。
あんまり失礼だ。
この子は疲れをいやしに来ているんだ。
しかも恐らくはあんちゃんより年上だよ?」
「「年上なの?!」」
声がそろった。
大柄な人も、驚きを隠せないらしい。
「聞いた話から、30代だと思ってました。」
仕返しもかねて、
思ってたことを言ってやったわ。
苦笑いで大きい人が答える。
「お言葉だけど、年上には見えませんよ?
もっとお若いかと?」
お互いににらみ合う、しばらくの沈黙のあと、
「はっはっは、二人とも仲がいいのかもね。」
「「どこが!!」」
大柄な人は、机のほうに視線を移す。
「おお、、盈月か、、、それはいい酒だろう?」
「え、、、あ、はい、、。」
呆然とするわたしに説明をしてくれる。
「それはな、日本酒のくせに香りがついている。
で、いくつかの種類があり、
わしが好きなのはその柑橘系と果実系だな。」
「あ、はあ、、。」
なんか、、、ペースが崩れるわね。
「なんだ?苦手だったか。
柑橘系は結構飲みやすいし、
わしは結構好きなんだがな。」
すっと、升に酒を注いでくれる。
ん、、やっぱりこの人ちょっと苦手かも、、。
「いただきます、、、。」
一気に飲み干す。
おいしいではあるのよね。
「いい飲みっぷりだな。」
キョトンとした顔で自分のグラスに酒を注ごうとする。大柄な人、が手止める。
「なんだじろじろと、、、怖いぞ?。
いいじゃねえか金は払う。」
そういう意味で見ていたわけではないのだけれど。釈然としない。
「、、、そうだなーなんか食いたいものはないのか?」
あまり私は、晩酌の際に、
食べ物を食べないほうなのだけれど、
刺身は食べたし、何がいいのかしら。
「何かおすすめはありますか?あなたが頼むのであなたの意見を是非聞かせてほしいところですよね。」
顎に手を当て少し考える大柄な人。
そんなに悩むことなのかしら。
漫画のようにこぶしで手のひらを打つと、
答えた。
「だし巻きがいいね。まあ、チープな味だがここのだし巻きは工夫いっぱいで旨いんだぞ?」
店主が照れくさそうに、表情を変え、続ける。
「やめてくれ、照れちまう。まあ安価で旨いのはやっぱり卵だよ。ねえちゃんも奢ってもらったらいいさ。失礼の詫びなんだぜ。きっと。」
頬杖をつき、
本人は聞いていない様子だが今回は、、まあ?
おいしいらしいし?
食べてみても?
いいのかしら?
「答えは出たかい?じゃあ、だし巻きだな。、、、二つ頼むよ。」
「そんなにたくさんですか?!私いりませんよ。」
ふっと、笑った後、こちらを見て
「、、、半分はわしだよ。
わしだって好きなんだから。」
何こいつ、、、、
大体何分立っただろう、、、
時間が分からないくらい楽しい時間だった。
このまま今が続けばいいのに、、、
ちょっと寝てしまった。
あったかい、コートか、、、、でも歩いてないし、誰かのせなか、、煙草臭い、、、くさ、、、
「臭い、、」
あきれ顔の男が振り返る。
「人の背中で人のことを臭いというのはいかがなものかと思うよ。送ろうとしてるのに、、。」
だって臭いんだもの、、
そして、今気が付いたけどどういう状況なの?
なんで私は、この人の背中で寝ていたわけ?
なんでなの、、しかも何?
送ろうとしてる?
なにを言っているの?
家教えた?よくわからないわ、、、、。
「おろしてちょうだい。」
「タクシーじゃないんだぜ、、
まあベンチに座るかい?水でも買うよ。」
久しぶりにお酒を飲んだとはいえなかなか、
頭がぼーっとするわー。
そんなになるまで飲むことなんて、
そんなになかったのに、、
ベンチに座って落ち着ていては来た。
大きな人は水を買いに、、、
逃げる?
そうよね良くないわ不埒だしぃ?
なんか大きい人怖いしぃ?
これ以上めんどくさいことに巻き込まれるのもいやだわ。
、、、でも奢ってくれたのよねぇ、、水も、、
「ひう!!!!」
「びっくりしたあ」
変な声が出た。びっくりしたのはこっちよ。
人の首にペットボトルを当てながら男が笑う。
「起きてたのか!気分悪いのかとおもって目覚ま
しにはなったか?」
「あなたねえ、そういうのは青春においてきなさい。二度と目が覚めないようにするわよ。」
でも、ありがたいもので、飲みすぎた後の、
水はとてもおいしかった。
そして思い出したかのように、男が口を開く。
「落ち着いたところ悪いけど、
今日の居酒屋はどうだった?。」
「案外悪くないと思ったわ。」
卵焼きはおいしかったし。
お酒もおいしかったし?
人のお金だし?
なくはない?かな。
「そうか、いろいろ社会人は苦労することも多いんだろう。」
「あなただって、社会人ではないの?」
なにか、あたふたと困ったように、
大きな人が、答える。
「んー、まあ、やりたいことがあってな。
それのために一生懸命さ。」
「返事になってない気がするのだけれど。」
さすがに私も、顔が引きつるわね。
「まあでも、君に願い事とかないのか?」
不意な質問ね。
何を考えて生きているのかしら。
宇宙飛行士やケーキ屋さんみたいなことが
聞きたいのかしら、けどそうね。
花屋さんだってパン屋さんだって大変なものだと聞くし、今より大変な毎日になるのはごめんだわ。あえて返すなら、、、
「ないわ。諦めてすらいない、けど、まあ
『このときが終わらなきゃいいのに』
とか考えるわよ?」
まあ楽しい時間はあるに越したことはないし、
終わるじゃない?
楽しい時間ってだからこそ、、
『このときが終わらなきゃいいのに』
とは考える。
口角をあげてあきれたように
大きな人がつぶやく。
「大人っぽいな、というか大人げないのか?。
時は進むものであり、
変わらないことを望むのはいささか
ずるいような気もするな。
変えたい過去でもあるのか?」
口数の多い男性だこと、、災いの元ね。
「なにそれ、、んーないわね、
今がある人間に、後悔なんて、、
んーないと思うわ、
宝くじの番号知りたいなーくらいかしら?」
ポツリとつぶやいた。
「おとなげな。」
イライラさせるわね。
自分で聞いておいて何なのかしら。
「でもまあ、時間に対してはコンプレックスがあるのかー。」
「そうね、、、老いるのはいやよ、人並みに。
変わるのはいやよ、さみしいもの。」
不思議な質問をされた。
私は過去に後悔はないわけではない。
でも、やり直したい等というような
タイプでもない、
時たま、『今のままでいいのに』
と考えることがあるくらいかしら、、、。
「じゃあそうだな。
おまじない(呪い)をかけてあげよう。」
「ふふ、何それ変な人ね。
いいわよ。かけてごらんなさい。」
なんだか拍子抜けのことを急に言う人ね。
「『夢は糧によって芽吹く』。」
額が暑くなる。
強い光が目を覆う。
酔ってるのかしら。
特に目の前の男にも変化はなく、
少し体が重くなったように感じる。
「何も起こらないじゃない。ふふ。」
「まあ、すぐに何か起こるかは
わからんだろう。」
目がしばしばするわ。
眼鏡もってたかしら、、、
カバンの中はこの時間帯見づらくて、
仕方がない。
なんだか指先まで動かしづらい。
冬だからかな。
「やっぱり今日は飲みすぎたかもしれないわね
遠くが見づらい気がするし、、」
カバンから、眼鏡ケースを取り出したとき、
老婆の手のようになっていた。
何これ、大男のいたずら?
でも私の意思で動くし。私の、、、手?!
「なにこれ、、、。何これ?!
意味が分からない!!え、え、?!」
急に手をつかまれた。
手が暑くなる。
胸がどきどきした。
「おおっと待て待て、落ち着け!
何かこう、、コップにたまった水とかこう、
動かないもの思い浮かべて!!
ほらこう、、、ハシビロコウとか、、
チベットスナギツネとか、、」
なんで動物ばかりなのよ。
この人、本当に何なんだろう。
動かないもの、、、なに?
んー地蔵、壊れた時計、、落ち着いて、、、
なんか動いてるように
見えるものでいいと思うの、、
人間だってそうだし、
案外そういう意味で言ってくれたのかも知れないし、、、それはないわね。
この人にそういう考えがあるかはわからない。
わからない、、、、。
今日は月がきれいな日。
月?!
そうよ月、
月はきれい、
今日は満月、
そして満月はもう一度時がたてば、
満月になるわ。
ゆっくりと変わる。
「からだがし少し軽くなった。、、、
で?何これは?教えてもらえるかしら」
慌ててる、素振りを見せては駄目よ。
一瞬でもよ気は抜けない。
手は元に戻ったわ、
呼吸もドキドキしてない、、、
訳じゃない、、
鼓動が速いのはわかる。
思考が渋滞する。
考え事をしてるみたい。
ほんとに何が起こったの!
こんな非科学的なこと、、、。
まあでもこの街だと起こるかもと
思ってはいたけど
こんなファンタジーなこと本当に、、、。
「呑み込めないかい?
君の望みじゃないのかい?
まあいいさ、そのま、、」
「はぁ?!『まあいいさ?』なにがよ?
お話聞かせてもらえる?
いいわけないじゃない、ん、、、
まあ、元には戻ったみたいというか
髪の毛だけ色が戻らないのは?
なにこれもう、、、最悪。」
カチンときたわ冷静にとか無理ね。
この人相手に、何を考えていたのかしら、、、。
「ひ、ひひ、ひひ」
低いしゃがれた声で公園のベンチの向かいに、
老人が笑いながら立っている。
笑い声自体は、大きくないけど、
静まり返った公園ではよく聞こえる。
誰?こんな人気(ひとけ)のない公園に、
一人の老人が笑いながら立ってる、
なんでなのかしらこの町じゃ普通?なわけない。これは、異常だけど、
さらに異常なのは二つ。
結構な距離がある。
でもはっきりと知覚できる。
私は目がいいほうではない
こんなにきれいに月が見えるのは
悪くないかもしれないけど、
そういう話ではないわ、、うん。
そしてその老人から黒い靄のようなものが見えていること。不気味。
「すまんが説明は後だ。
あれをどうにかしないことにはなあ。
はあ、、、。」
ため息をつきたいのは
こっちなのだけれど、、、。
でもまあ私もそう思うわ。
まあ、私にはあの老人の対策はわからないし、
任せるしかないのかしら、、。
「あんな人いたかしら?
ずっとこっちみてくるしちょっと怖いわ。」
「はっはっは、やっぱり『お嬢ちゃん』だな。」
ほんとにこの人のことは嫌い、
人の気持ちを考えずによくも言えたものね。
このファンタジー展開も、
あの老人もたぶんこの熊もどきのせいね。
本当に、解せないのはこのひょうひょうとした
態度、本当に、、、
「引きちぎるわよ。」
「こわすぎやしないk、、、」
立ち上がった大男がさっきの老人とともに
飛んで行った。というか体当たりなのかしら
すごく早かった気がする。
「いてえなあ、爺さん。
早く動けるみてえだし。
すぐ蹴りつけて帰るか。」
「なんでそんなに冷静なの?!
私は何をすればいいの?!」
何あの老人速すぎるし、
なんでこんなに冷静なのこの人は、、。
「指示待ちかい?
よくないねえオフィスレディは
いまみんなこんな感じかい?」
んー今の一言でなんかどうでもよくなったわ。
しらない。
「もう、くたばりなさい、起きなくていいわ。
永遠に。」
おじいちゃんから逃げながら大きな人が
大きく声を出す。
「わかった!!!悪かったよ!!
いいかいやってほしいことがある。
君の能力は恐らくは、全世界の時を止めたり、
動かしたりできる。
漠然とだがわかる。
そして、たぶん相手は同じことは
できないはず、だからこそ、
君のイメージをもっと柔軟に教えてくれ。」
なんで、与えた側なのに
漠然としかわからないのかしら?
今は協力しないと、いけないのだったわ。
駄目よ私。感情で判断しちゃ、
本当に命を落とすかもしれないのに。
「『この時間が続けばいいのに』、
とは願ったわ、
けど私は手がおばあちゃんみたいになったし
それについてはよくわからないのよ!!!」
「実に大人げない。いい願いじゃないか!
では、、恐らくだが相手の能力は自分にしか
作用してないもしくは作用しないと思う。『時』というのは、ぐふ。」
大男に老人が激突する。
鼻血を出しながら。
口から血を流しながら、大男はつづけた。
「まだ喋ってるでしょうが!!!!
もういいよ全く、捕まえた。」
がっしりと腰と首に手をまわし。
小さく男が何かをつぶやくと、
バスン!!と大きな音とともに
無数の黒い先端の尖った棒のようなものが
二人を貫いた。
私はこの光景を忘れない、
この感情を忘れない
あまりにも短かったけど
愉快な人だった。
崩れ落ち、膝をつき、下を向いて泣いている。
公園のアスファルトが涙で模様もわからない。
私はなんて無力なのだろう。
「浮かない顔してるねえ。何してるんだい?」
「死んでなかったの?!」
大男があきれたように口を開く。
「勝手に殺さないでくれるかい?
あと、その能力もそうだが君には
ある人を殺めてもらうからね。
とりあえず説明は後だよ。」
タクシーを呼んでくれていたようで、
唖然とする私をタクシーにのせ、
どこかで見たことある。
大きな門の前で止まった。
タクシーの窓から見る月は
少し欠けて見えた。
そのあとは、ちょっと怖いこともあった。
ペストマスクの男の人が大男を玄関で
ビンタしたあとに、
白い髪の男の子に『お揃いですね』
なんて言われて、イラっとしたり、
なんだかんだで怖い思いをさせたからって
理由で泊めてもらうことになった。
でもなんか、
お風呂が異常に広いのと客間が異常に広い、
お金持ちなのかしら。
落ち着かない空間で、
私もいろいろありすぎたし、
今日はお言葉に甘えて温かい布団で、、、、。
「そんな、
のんきに寝てる場合じゃないわ!!!」
長い廊下を走り、
明かりのついている部屋でに入った。
息が切れる。
三人ともお揃いのようね。
不思議そうな顔をして、大男が口を開く。
「なんだい?パジャマが、
気に食わなかったかい?
新品のTシャツだよ?
不服かい?」
しっかりしたホテルみたいなもてなしだし
不服はないわ。
でも今日の夜のことは解決しないと
寝れる気がしないわ。
「お風呂はありがとうございます。
お布団もお部屋も泊まるのは大変助かります。
でもそこではなくて、、、、。」
何かを悟ったように大男が口を開く。
「まあとりあえず、座りなよ。、、、
ベット派だったんだろう?」
この神経だけは意味が分からない、
ペストマスクの人が眉間に手を当てて
テンキーをたたく。
『まず女の子をさらって帰ってきて挙句の果てこの年齢の子を家に泊めるのは何事だ』
この人は割とまともそうで良かったわ。
けどイライラするわ。
男の人は私のことをなんだと思ってるのかしら。
「年齢はこの人より上です。」
また、ペストマスクの人が
次は慌ててテンキーをたたく。
『すまない、年齢は判断が難しいな。
君は月に関係した
能力でももらったんですか?』
何のことを言ってるの?
時間関係?
だったはずだけど。
「いえ?どうしてですか?」
なぜ月なのかしら。
この人もずれてるなのかしら。
「んー月があんなミラーボールみたいに
なってたらな。
月関係だと思うだろう。」
あほずら大男は変なことを言うわ
今日はきれいな、、、、、。
「へ?」
あーほんとだーミラーボールみたいーきれいー
え、、、
どうなってるの?私のせいなのかしら?
相当やばいんじゃないの?
「あーまあでもあれだ。
朝になれば月は見えなくなるし、
大丈夫じゃないのか?」
「「『そんなわけないでしょう』」」
口を開かなかった、
男の子もここは違ったらしい。
大きくため息をつくと、
大男は少し考えた後口開いた。
「まあじゃじゃああれだ。
月を見てー今日は本来新月だからな。
今日の盈月をイメージしろ。
飲み干した後、升が空っぽになるだろう?
目をつむってそのイメージをしながら
月をみるんだ。」
あまりに、抽象的なアドバイスね。
そんなアドバイスでほんとに
止まるのかしら、、、、。
止まった。というかなくなったが
正しいのかしらほんとによくわからない。
でもまあ振り回されすぎて
正直どうでもよくなってきた。
「おお、止まったぞ兄さん、
現、すげーなやっぱ。!」
キラキラした顔で大男が言うと、
間髪入れずに、男の子があきれ顔でつぶやく。
「先輩は、そのまあ『そのくらいあるだろ』
精神やめましょう。しかも
今回みたいによくわからない形で新しい人を
能力者にするのもやめましょう。
どんな代償があるか
わからないんですから、、、。」
いつもこんな感じなのね。
あきれた、こんな年端もいかない男の子にも
心配されるなんて。
「でもな今回は一味違うぞ!
時間が操れるっぽい人だ!
わしには大まかなことしかわからん!
なんかこう循環や円環、
輪廻転生のようなワードが出てきたから
多分いける!
しかも、老化や老衰っていうのは、
アプローチしたことないだろう!」
自信ありげに、男の子のほうを見る大男。
ジトっと湿った瞳で返す男の子。
「したことないですが、
それをするにはリスクが高すぎます。
この人もリスクもわかりませんし、
代償が一回限りかもわからないんですよ?
で、この人の代償は何ですかなんか
ほかに変わったことなかったですか?」
「めっちゃ速く動けるおじいちゃん出てきた!
ウニ使って消滅したぞ!!」
「そこよ!!!しっかり説明してくれるかしら」
耐え切れず、遮ってしまったけど
ここを聞かないと次にはいけないし
私も不安。思わず遮ってしまったけど
ここを聞かないと次にはいけないし
私も不安でたまらない。
少し考えた後、
真剣な顔で私をみながら真剣な顔で大男が言う。
「んーおじいちゃんは謎だ。だが、
ウニは元の名をアピアリングケーンという、
マジックとかで使う伸びるステッキだな、
今日の上着めちゃくちゃ分厚いだろう?
あれには能力を付与してある。
それがが大量に仕込んである。
種はわしの能力だな。
まあまだ一週間くらいだが、
体の一部として機能させたり
耐久度をあげたり、
結構いろいろできる。
まあビビるだろうし。
こんがらがるといけないから、
他は今後として、
この後は今のことを話す。まあ、、」
結局のところ、
この人はこの現くんという男の子を
殺したいとのこと、
そのためいろんな方法で
アプローチを試しているらしい、
撲殺や圧殺では傷一つつかないらしい
というか再生すると言っていた。
原理不明。
火を着けたり、
高所からの落下。
およそ人の所業ではないはね。
しかし、それをデータ提供として研究所?
のような場所で実施しているらしい。
その上このファンタジー現象は大男の能力、
めちゃくちゃリスクがあるらしい、、。
もっと嫌いになったわ。
この人。
しかも未知の部分が多く、
よくわかっていないらしい。
実験台にされたかと思ったけど、
この大男はそれを考えずに行ったらしい。
「よくよく考えたら、
私もう巻き込まれたのね。」
目をつむりうつむいて、
眉間にしわを寄せ絞り出すように大男が喋る。
「それは、、、そうだな。
後先考えなかった。
本当に謝罪する。」
なら考えて行動しなさいよ。
周りもこれだと苦労するわね。
「もういいわよ。
めんどくさくなってきた。
で?何をすればいいわけ?」
急に表情が明るくなったかと思うと
また大男が口を開く。
「まあ、異常があるといけないので
ここに住んでほしい。」
「はいはい」
お安い御用ではあるし、
狭いワンルームよりいい条件なんじゃない?
個室はもらおうかしら、
それぐらいしてもバチは当たらないわね。
「そして、今までの生活は行方不明で
処理をするので新しい名前がいるので、
オレンジムーンとします。」
「「『ないわー。』」」
業務の引継ぎとかのことや
実生活で父や母のことも頭をよぎる。
なぜ行方不明で処理するのか?
それより口をついて出た
この男のネーミングセンスはどうなってるの?。大男が目に涙を溜め、ふてくされてつぶやく。
「え、、、
そんなダサい、、、
結構考えたのに、、、
盈月がさ、、
柑橘系由来でさ、、
月あんなぐるぐるしたし?、、
巨大ロボみたいでかっこいいやん。
オレンジムーン。」
先に大事なことから聞きましょう。
「私はなぜ行方不明で処理されるの?」
手をあげて、男の子が口を開く。
「それは僕から説明しますね。
この街の風潮というか、
暗黙の了解なんですけど
最近行方不明が出るたびに街では
不思議現象が起きてます。
で、今回はその逆、
不思議現象が起きちゃってるので、
もう被害者にしちゃおうってことです。」
最近のサラリーマンの行方不明も
確かに現場で異臭がしたり。
大量の足が警察向けに郵送されたり、
巨大な穴ができたりと確かにねぇ。
聞いたことはあるわ。
けど、都市伝説とかじゃなかったのねえたぶん。
「なるほどねえ。
わかりやすい説明ありがとう。
でも、オレンジムーンはないわ。
なんで巨大ロボが出て来るの?
あと私、純日本人なんですけど、
目ついてる?」
もう全部出たわ。
この人は徹底的に言ったほうがいいしいやよ
そんなの。
「もういいし。
わかったし。
じゃ、じゃあ二つから選んでよ。
柚月とオレンジムーン
だったらどっち?由来は一緒。」
「いい名前じゃない?柚月、、、、
悪くないわ。」
こうして、彼女は『柚月』と呼ばれるようになった。この後、おいしいごはんと広い寝床でそんなに悪くないと思った。それは秘密にしておくわ。
盈月(えいげつ)
月の満ち欠けのような能力、また、事象の終わりを始まりにつなげるなど時間を軸に空間にも影響を与えることもある。デメリットはその能力の扱いにくさ、そして初回に関しては異物がこの世に召喚されることもある。
NEXT
こんなところかしら、
三か月も前のことをまとめてみたけど、
不思議なものね。
誰にも見られたくないわ、まったく。
しかも、今日は、『カフェに行こう』
なんて何に巻き込まれるのかしら、、、
「なあゆづきちー!!わし疲れたー。
あつい!!もう行くぞー」
若葉さんは今でも苦手。
「ちゃんと、名前!
あなたが決めたもので呼びなさいよ!!!!」
これからも苦労しそうだわ。