若葉荘A 見た目の怪しいやつと普通に怪しい人
この物語は実際の世界と
関係は少ししかありません
「おはようございます」
この言葉で一日がスタートする。
退屈で繰り返される毎日が本当に苦手だ。
大好きだったお菓子の味が
いつしかチープなものに感じる。
これが、大人になったということなのだろう。
きっと何の間違いもないのだろう。
「おはようございます
本日付でここに配属になりました
斎藤 現(さいとう うつつ)と申します。
若葉さんのところにつくように言われたのですが
何から手を付けましょう。」
新人だ。
こういうことは、はっきり苦手だ
笑顔が鼻につく胡散臭いと感じてしまうくらいの
きれいな笑顔
まったく、なんでこんなにさわやかなのだろう
「そうか、、、私たちは、派遣労働者
派遣の経験は長いですが
そんなにいいものではないですよ。
私も、気楽に働きたいですし
もう少し体の力を抜いてください。」
本当に抜いてくれ
ガンガン働くと体がもたん。
「そうですよね!
最初にとばしすぎると体がもちませんもんね」
超能力者かな?まあ、だれでもそう思うか。
そうこうしていると、本日の依頼者が来た。
運送関係の会社の社員の方で、
三月のこの寒い中なぜか半袖だ。
「今日は二人か!元気よさそうなのでよかった!
新生活を迎える若者の引っ越し!気合が入るな!」
業務まで、光が強い。眩しすぎるな。
もう、帰りたい。頑張っていこう。
何も考えず、ただただ業務をこなす
もらったお金でゆっくりと生きていく
『それが今の私の生きる道だ』
ただ生きているだけの、つつましく、目立たない
そう昔に決めた自分との約束を
なぜか律義に守っている。
昼休憩
新人を昼飯を食えるとこまで連れて行った。
「先輩は何食べたいですか?」
不思議そうな糸目の笑顔で聞いてくる。
「私は、何でもいいですよ、君のほうこそ、何かないのですか?」
こういう時は
新人の食べたいものを食べてもらって
午後からも頑張ってもらいたい。
コンビニが無難かな
きっと、ファミレスやコンビニだろう。
「ラーメンなんてどうですか?」
「いい趣味してんな、、」
驚いた、なんというチョイス
安価でおいしいラーメンをチョイスしてきた!
なんとできた子なのだろう。
我ながら単純だと思うが
ラーメンで私は救われるよ。
ありがとう新人わしの財布が丸見えなのかい?
君はやっぱり超能力者なのかい?
「何か言いました?」
年甲斐もなく、少しワクワクしてしまった。
「なんでもありませんよ、ただ少しだけ
ほんの少しだけですが君を
見直しました。午後からもお願いしますね。」
「なんですかそれ、よくわかんないです。」
だろうね。
頼むからその憐みの視線をやめてくれ。
その後は他愛ない話をして
仕事に戻って、今日の報酬をもらって
家に帰る、、はずだった。
なぜか昼間の新人に夕飯に誘われた。
断ると業務に支障がでるかもしれないし...
行くことにした。
しかし、新人よ
わしは君に嫌われることに関して
なんとも思っていない。
昼間のわくわくはありがたいが
変わった先輩アピールをして
距離を置いてもらってしまおう、、、
これでいいんだよ。
またスローできつい人生に戻るんだ
きっとなにも間違ってない。
そうそれが私の生きる道だ。
昔は夢があった、、、。
おもむろに携帯で電話をかける。
大学の同級生
名は伊藤 多作巳(いとう たさみ)
人材派遣系の会社で働いでいる
わしからすると上司のようなものだ。
「もしもし?元気?」
こういう感じで話せるのも
大学の同級生くらいになったな。
いつからだろう。
「なに?仕事終わったはずだろ?
早く帰って寝ないと、明日に響くよ。
普通こういうこと言わないんだよ大体、、、」
小言が始まる、、
長いんだよなーしっかりしているし
なんかこう、母親の感覚というか
聞いているとなんかなー、、、
「わかった!
小言は飲みながら聞くから飲みに行こう!
なんか、新人君に誘われて
飲みに行くことになっちゃって
こういうの苦手だからお願い! 頼むって!」
こういう時は本題に入るに限る。
しっかり誘って協力してもらおう。
「まあ、いいけど...明日の仕事は?」
明日の心配かー。
わしの心配しておくれよ。
まあそっちに関しては、、、
「ない、まあこんなご時世だし、
仕事はそんなにないよ。
お前も何となく知ってんだろう?」
最近、日雇いの仕事は激減した。
社会的な動きが関係あるのか何なのかわからない
しっかりと需要がないのだろうか。
「まあな、、、。
よし分かった、いいけど
お前また変な人認定されるぞ?
初対面の人間が脈絡なく現れるのって
ちょっとした事故だよ。」
それが狙いだ
そして、お前と酒を飲むのは楽しいよ。
しっかり、恋愛の話でもしよう。
「わしには関係ない、、、。
飲みたい奴と飲むし、食べたいものを食べる。
そんくらいいいだろう、なあ頼むよ。お願いだ。」
ごり押しだあ!頼む!お願いだ!
「はあ、、分かったいくよ。
金額に関しては割り勘じゃないからな。
自分の分は自分で出せよ?」
少々厳しいとこあるではあるけど
今月の生活費はあるし大丈夫だろう。
「わかってるって、大丈夫、大丈夫!
今日の報酬もあるし。いける!」
厳しいけどね。
「総一郎、お前なあ...
家賃が~ 電気代が~
とか言い出すなよ?
大体!、、、」
またこのモードか?!
おし、、、電話切ろう!
「じゃあいつものとこな!!!(がちゃ)」
家に帰る、待ち合わせには遅れたくはないし
急いで帰ろう。
家に帰って、身なりを整え街に出る。
いつぶりだろう、夜の街に出たのは。
こんなにも明るかったかな。
ネオン街を抜け
人気の少ない裏路地にひっそりと佇む
『居酒屋 枯葉』
わしの行きつけだ。
高いところにテレビの置いてある
風情ある佇まい。
わしが唯一通う場所だ。
店主は初老を迎え料理も安価で旨い
まさに田舎育ちのわしには憩いの場所だ。
そして、いつもの場所。
「こんばんわー、ご無沙汰してます。」
店主に一礼してのれんをくぐる。
これだけはやっぱいいね。
「あんちゃん、、二週間ぶりくらいだよ。
何言ってんだい。まったく。
しし唐とシイタケの串でいいのかい?
奥であの兄ちゃん待ってるよ。」
二週間ぶりだったらしい
いつぶりの答えが出たよ。
最近、昼夜問わず働いているせいか
ちょこちょこ、こういう間違いがある。
店主の言う『あの兄ちゃん』とは多作巳のことだ
「はい、それでお願いします。
他のは後でまた頼みますね。」
「おう。ゆっくり飲んでいきな。」
笑顔で、個室に案内される
小さいが個室確保、、、
やはりここは最高だ。またこよう。
部屋に入りビールを頼んだ。
多作巳も一緒に飲むようで乾杯をした。
一気に飲み干して多作巳と目が合った。
「おい、総一郎。
お前、要件の途中で電話を切ったな。」
そうですよね。そうなりますよね。
「すまん!悪かった!
まあ、酒の誘いだし許してくれ
ビール一杯目はわしが
出そう!」
...緊急事態だし背に腹は代えられん..
さらば唐揚げ...
「そうか?
ならまあ、、
許そう、、しゃーないしな。
でもなあ!、、」
コンコン!
個室のふすまをたたく音が言葉を遮った。
「失礼しますー、、
先輩、、この人は、、だれですか?
どこかで会いましたっけ?
今日の現場の人ですか?」
新人君、この方は一応上司だよ。
だが、これで...
この子に変になつかれることはなくなるだろう。
「現くん、うちの会社の派遣する側の人間だよ。
私とこの人は大学の同期でね
たまにこうして飲むんだよ
別にいても構わないだろう。」
決まった
先輩社員からの『構わないだろう』
断らない、否、断れるわけがない。
多作巳がジトっとした視線を送って来るが
もう止まらない。
「よろしく、君が彼の言ってた子だね
今日はゆっくり飲もう
ごめんね、僕のようなものが同席してしまって
やりずらければ席を外すよ。」
多作巳もしっかりとフォローを入れてくれた。
「構いませんよ!是非いてください!」
正気か?
万遍の笑みで答えた
多作巳もさすがにこれには驚いた様子。
二人で目を見合わせた。
やはりこの子はどこか苦手でやりづらい。
そして眩しい。
二時間ほど歓談をしながら飲んで
仕事のことや、テレビの話、年齢の話など
無難な話題で打ち解けたとき
出来上がった新人君が口を開く。
「先輩は、なにに~なりたいんれすか?」
『何になりたい』か、わしには、、
今のわしにはわからない
体が丈夫で頭がよかったら
ここにはいないはずなのになあ
多作巳にも迷惑かけたし
この話はしないでおこう。
夢は腐って自分も腐って
臭いものにはふたをする。
「わしか?わしは、そうねー...
人の願いを叶えるひとになりたかったなあ。
もう諦めたよ。
今は何がしたいのかもわからない。」
上を向き、目にたまった涙を流さぬよう
眉間を左手で抑えたわしを
見かねた多作巳が下を向き
ため息を漏らして、けだるげに口を開く。
「まあ、いい時間だし、帰ろう、、、
現くんも楽しんでくれたようで何よりだよ。
あとまあ、過去の話は
他人にとっていい思い出ばかりではないからね
覚えておくんだよ。総一郎、今日は出すよ。
気が変わったから。」
ありがたい話だが
どことなくやるせない気持ちになった。
「いや悪い、、今日は頼んでもいいか?
ちょっと疲れた、わしはこの子を送っていくよ。
タクシー代は五千円渡しとく。ありがとね。」
多作巳は、店主と少し話すと
タクシーを呼んで帰っていった。
わしは、現くんを個室に残し
喫煙所で一人考えた。
わしが、大学生だった頃
いろんなことに挑戦し
資格なんかにも挑戦していた頃
事故にあった。
滑落により
四階から転落するような事故だった。
就職時期と重なったことで、完全に出遅れ
新卒になった頃には
日銭で生計を立てるようになっていた。
事故は、会社の責任だったこともあり
謝罪をされ裁判所の判断で慰謝料が決まった。
全治5か月にもかかわらず
何も知らない大学生には大金だったが
到底見合ったものではなかった。
『大人は汚い』
それが、社会人になって初めて思ったことだ。
煙が目に染みたのか、なんなのか
目から涙が伝う。
「、、、またおいでよ兄ちゃん。
君たちは面白いからね。」
タバコを吸った後現くんをおんぶして店主と話し
店を後にした。
許しておくれよ
わしの地雷を踏んだんだ、帰りくらい耐えてくれ
タクシー代は
多作巳にやったしな。
「なんれす?おんぶしてくれてるんですか?
やさしいですね。」
まったく
酒はしっかり自分の飲める量ゆっくり飲んでくれ
しかしまあ人に感謝されるのはうれしいな。
「寒さで起こしたかい?悪いね。
君の家はこの辺りかい?
肌寒いし仕方のないことだが
なんか違和感を感じる。
「いや、僕、家がないんですよねー」
はっきりとした口調でそういうものだから
酔っているのかと思ったが
へべれけな感じがしない。
そして、ポケットで電話が鳴った。
「ん?変なことを言うな、なんだ?
酔ってんのか?」
そんな一言をかけながら
おんぶした状態で電話に出た瞬間。
「そこを、すぐに離れろ!
変だ!
うちの登録名簿に斎藤 現なんて..名前はない!
今そっちに戻ってるから、、、(がちゃ)」
あんなに怒っていたのに...
電話を切るなんてと思い視線を切ると
現君が押したらしい。何のつもりだ
「おろさないんですか?」
当たり前の疑問だが、おろすつもりはない
もし、悪いことを考えてるんだったら
距離を取られるのは得策ではない
私物に関しても、バックを持っていないこと
ポケットの数から得物を持っているわけではない
ならまあ自爆すれば俺もろとも殺せるが
そんな価値は、わしにない
「ああ、別に気にしない。だが何のつもりだ
そして、何者だ。
よくわからないし、なんだ。怖いぞ。」
たどたどしいではあるが、避けられただろう。
正直、漏れるかと思った。
漏れてない。断じてだ。
「じゃあ、話しましょうか
逃げなかったのはすごいと思いますし。
こういう方初めてなので...
とりあえずおろしてください。」
近くにあった小さな公園のベンチに
ゆっくりと腰掛け、重い口調で話し始めた。
何か悪いことでもしたのだろうか。
「再度聞きます
あなたは、何になりたいんですか。」
またこの質問か、わしも飽き飽きする。
「はあ、、、なにもない
現在はない、、
金も、地位も、名声もいらない
人の夢や希望叶える瞬間に、憧れていただけだ。」
なんだまあ、人が夢を叶える瞬間は好きだ。
「素晴らしい夢ですね。
とても今のあなたには無理だ。」
言っていいことと悪いことの分別もつかんのか
この野郎は。
「なんだ?馬鹿にしてるのか?」
けたけたと笑った後に
まっすぐとこっちを見て続ける。
「これにも怒らない
やはりあなたでよかった
私は簡単に言うと超能力者です。」
怒りはない、事実だ。
ただなんだ、超能力者だ?
やはりこいつはわしのことを
ガキか何かだと思っているのか?
「馬鹿が
アホな話に付き合うほど暇じゃない
帰るぞ仕事で疲れたし寝る。」
背を向けベンチから立ち上がろうとすると
裾を握りしめ止める
何のつもりだ。話は終わっただろう?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!
ほんとなんですって!
今日ラーメンに行ったでしょう?
頑張りたいと思う新人は
飛ばしすぎてばてるでしょう!」
「関係あるのか?お前の意思だ。
その感性は大切にしろよ。
お前はそういうのがなければいい奴だと思う
頑張れよ。じゃあな。」
我ながら、さわやかな笑顔だった。
ここ数年、こんなきれいな笑顔はないだろう。
「うわ怖、、
『じゃあな』じゃないんですよ!!!
まあ、聞いてください
私は、『現屋』といいます。
あなたの夢を叶えます!」
なんだ??
うつつや??
マルチだな。
「現屋ってなんだ?新手の詐欺か?」
「違います。そういった類のものと違います。
私にも、メリットがあります。
そしてあなたにもメリットがあります。」
メリットがあったとしても意味がない。
「と言うと、どういったものがある?
人の指導がしたいなら他を当たれよ。
もっと未来のある奴なんて
お前の周りにいっぱいいるだろ」
お前自身もそうであるように
こういう子が自由であればいいのにな
「いっぱいいましたが...
理想が単調かつ、つまらない欲におぼれ
消えていくのが見えています。
金を欲したものは、殺されました。
愛を望んなものは人を信じなくなりました。
理想を叶えたものは廃人に、、、。」
早く返してやろう。
かわいそうに
家もわからないくらい酔ってるのになあ。
「何がいいたいのかさっぱりだ。
わしには結局、メリットないじゃないか。
わしは無駄な時間は好きなほうだが
こういう時間は好かんよ。」
そうだろうよ
初対面にこんなに話したのも久々だな。
「私は酔ってないですよ。」
「なんだ?えーあー何を言っている。」
酔ってるのになあ、しっかり酔ってる。
もうだめだ。やはり速攻解散しよう
多作巳もそろそろ来るだろうし。
「『酔ってるのになあ』じゃないですよ。」
「『なんだ、なんでなんだ
なぜわかったしゃべったか口を滑らせたか』」
喋っていない
妙なのはそれだけではない
目が黒目に黄色の光彩を放っている
思わず息をのんだがこいつは何なんだ。
「だだ洩れじゃないですか。これが、私の力です。
特定の思考や物事を言語化及び具現化できる
というものです
これを人呼んで『現屋』といいます。」
なんなんだ?!何が起きている。
わしが酔っているのか?
「ま、まてまて。これのどこにメリットがある。
猿真似ができたとしても意味などないだろう。」
まず、この状況がわからない。一個ずついこう。
「具現化、すなわちなあなたの夢を、叶えます。
夢を現実にするのです。」
馬鹿を言ってもらっては困る。
「それが可能なのなら、ひげ無くしてくれ。
朝剃れてないんだ。」
何かがそっと顎を撫でる。
つるつるとした手触り
んーどうやら間違いないようだが
まだ何か引っかかる。
「お前のメリットは何だ」
そこだ、明確に示唆されたのは
使用者側のメリットであり使われる側
すなわち、現屋側のメリットがない。
「私は、人の夢の叶えることで
寿命を全うすることができます
人として死に近づくことを...
不幸ととらえる者もいるでしょうが
さすがに長い時を生きすぎました。
もう疲れたのです。」
こいつにもいろいろあるんだな
デメリットがある能力のようだ
こいつの話を聞いている限り
わしがどんなに頑張ったとて
こいつの寿命が終わるような
夢を提案できるだろうか。
「少し時間をくれ。20秒くらいでいい」
初めて見る物憂げな表情で現くんは
ゆっくりと答えた。
「わかりました。」
決めた。この話。
結局の所こいつを救ってやれるようなものは
思いつかなかった。
しかし、少しだけでも軽減できるよな案はある。
「まず制約や特徴のようなものはあるか?」
「そうですよね。
まずはそこから、解説しましょう。
まず私は、想像しうることの実現は可能です。
お金であれ、高級車であれ、ほしい物なら何でも
死者の蘇生はできないとかそんなことはないです
その人にとって願いが大きければ大きい程
私は役目を全うできます。」
やはりだ。確信が持てた。
「結論から言う、お前を一発で救うのは無理だ。」
こいつは、やったことがないのだろう。
「そうですか...
あなたのような変な人でも無理とは、、、」
「失礼だな、お前、、
わしはこの世界をいじくりまわすつもりはない。
だからこそ、一つだけ思いついたことがある。」
むかつく
人がせっかく救おうとしているのに、、、
「なんでしょうか。聞かせてください。」
キョトンとした顔した。
この子には明確に理解できないこともある。
「お前さっきの不審者全開の時以外
普通の人間と遜色ないと考えていいんだな。
じゃあ、目の色の変化などの
こっちからも確認できる範囲での変化があるのか。
「そうですね
目に集中したり考えたりしない限りは
オンオフできますよ」
じゃあ、決まりだな。
なんでこんなに、すんなり進んでるのかわからない
こいつには少し楽をしてほしい。
「今はまあオフなんだな。
じゃあ、それも含めてだ。俺にその能力をくれ」
ポカンとした顔でわしの顔を見つめる。
現君はほんとに馬鹿を見る目をしていた。
「えーっとぉそのーなんて言いました?」
試したことはやはり無いようだ。
「『俺にその能力をくれ』といった。
お前の能力は願いを叶えること
斎藤 現本人の寿命を消費するものだ。
要するに、その創造権限が他者に移ったとしても
お前が命を全うできるよう
強く念じればおそらく可能だ。」
険しい顔で少し考え込んだ後
なにか思い出したようで返答してきた。
「言い忘れてましたが
実在しないものや概念的なものの創造は
何らかのトラブルが発生することが多いです。」
「なぜだ?」
「理由としては個人間の思想の違いです。
若葉さんは甘いものだと何が好きですか?」
甘い物なあ、、、ケーキ、砂糖...
んー昨日のティラミスは絶品だったな。
「ティラミスだ。
チーズとコーヒーの相性がたまらん。」
苦笑いでこちらをちらっと見る現君。
悪かったよつまらん内容だ。
「そこまで聞いてないですよ。
私はバターキャンディが好きです」
特別な存在なのだから親近感でも感じたか?
「このように、『甘いもの』という概念には
一人ひとり違いがありますね。
だからこそ
『一日一回甘いもの食べ放題』
という願いの場合
ティラミスのような飴が出てきたり
飴のようにガチガチのティラミスが出て来ることがあります。」
驚いた。確かに、先ほど甘い物と言われたとき
複数の選択肢が頭をよぎった。
だが、それは好都合だな。
「一回一回に差が生じる可能性があるんだな。
では、なおさらそれでいい。」
「なぜですか?弊害が発生したとき
何が起こるかわからないんですよ?」
「この話を聞かずに
『自分の願い』について考えてもらう。
そうするとどうだろう
メリットのみを思い浮かべないか?」
その侮蔑の視線をやめてくれないかね。
ちゃんと説明をするのも面倒だな
能力を使ってくれないかな。
「そうですね。
欲しいものや、やりたいことが出てきます。」
「そこに、それにおいてのデメリットをこちら側が考えてあげると、対処ができないか?」
何かがすっきりしたような顔になってくれた。
やっとだよ、いつもこうだ遠回りしてしまう。
素直には言えないよな。
「それは、考えたことがなかったですね。
、、でも本当に可能なのでしょうか。
私もできるかわかりませんよ。」
再び、険しい顔になった。
でもわしは、久々にワクワクしてる。
今更止まらんよ。
「お前は何でもできる『現屋』なんだろう?」
恥ずかしいな、キメ顔で何言ってるんだろう。
「ふふ、そうですね。
あなたにあげましょう。私の能力を。」
笑わないでくれ、より恥ずかしい。
「さっき言ってたことができるのかも
ここで試してみよう。」
落ち着けー落ち着けー
ここでミスったらおそらくきついぞー。総一郎。
「これよりあなたの願いを叶えます。
『夢は今、叶います』」
真面目な顔になった現君が
どこか救われた顔をしていた。
現君が人差し指をわしの額にかざすと
目の前に禍々しい黒いもやが発生し始めた。
あまりのことに息をひそめ目をつむり
声を出さないようにした。
死ぬかと思った。
額と、小指が燃えるように熱い。
「あっつ!!現君?!
めちゃくちゃ熱い、小指めちゃくちゃ熱い。」
「いい加減目を開けてください
左手の小指、すごいことになってますよ」
目を開けると、小指の爪が赤黒く変化し
白い指輪がついており滴る血。
、、、血、、血?!なんで?!
小指を動かすとも妙な違和感があった。
「あのー現さんや?
血がいっぱい出てるんですけど。これは?」
ドクドクと脈を感じる
いてぇ、、、汗も止まらない。刺さってるのか?
「それはあなたの血です。どういうわけか
小指の内側から、出てきましたよ
その指輪...正直きもかったですよ。」
ならいい、めちゃくちゃに痛いけどな。
これ治るかな大体、病院で処置できるのか?
そこまで考えてなかった。わしのバカ。
「はぁ、、、成功だ、、、。」
「何がです?」
「さっき言ったデメリットの設定だ。」
こんなにも、変な現場見たことがない。
笑顔の20くらいの青年、血液の滴る25歳。
猟奇的な何かに見える。
「やったじゃないですか!!
では成功なのでしょうか?」
初めてこの子の笑顔を見た気がする。
こんなにいい顔できるのか。
「デメリットは?何なのですか?
その気持ちの悪い指輪についても聞きたいです。」
もちろんだ。だがまあ、、、
「じゃあ、しっかり解説する前に...
薬局に行っていい?」
タイミングよくタクシーも来たもんだな。
あ、やべ、あれは、、、、
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若葉 総一郎(りょーちょー)
【能力】芽吹きの輪
指輪着用時、特定空間内(若葉荘)に同席している者、もしくは、触れている者の思考をもとに際限ない能力の形成が可能。無機物に対しても有効であり能力に比例し強力であるほど効果時間が短く、効果時間は物が消滅するまでの時間である。
生物適用時と違い、物のパラメータを変化させるように働く。対象が生物の場合メリットは各個人が保有する理想であるが、それを言語化されていないと発動ができない。デメリットは若葉本人が理想を聞き弊害の決定権をもつ。抽象的である場合、能力形成が行わる対象者の想像に起因する。
『生物の場合、死はないものの、夢の代償は大きい。』
斎藤 現(現屋)
【能力】夢叶フ
右目の視力を減衰させることで、他者の思考を覗き見ることができ、言語化及び具現化が可能、現実に存在するものであれば、実体化が容易であるが抽象的な内容の願い事の場合不幸が訪れることもある。もしもの世界が実現できる反面、現実におけるほかの部分には影響がない。具現化の際は高い集中力が要求されるため、『夢は、今叶います』という慣用句を用いて暗示を行う。人の夢の完遂具合によって寿命を消費するが本人にも、どの程度、余命があるのかわからない。
『あなたの夢は何ですか?』