母の幸せと、私の幸せ
5年前に夫と出会って、結婚して、私の生活は大きく変わった。
人生が大きく動いた5年間だと思っている。
夫の実家の近くに引っ越し、職場も変わり、移動手段が電車から車になり、実家との距離も遠くなったので、帰省する機会も減った。
都会から田舎に引っ越してきたので、お洒落をすることも減った。愛用のカバンは、ブランドの本革のものから、キャンバス地のトートバックになった。毎日履く靴は、リボンのついたパンプスから、ニューバランスのスニーカーに変わった。
私は、結婚する前と今の生活の、どちらも好きだ。
都会に住んでいたころは、お洒落してカフェに行くのが好きだったし、今、車で好きな音楽を爆音で聴きながら100均に行って、便利グッズを物色しているのも好きだ。
だけど、両方好きなはずなのに、「前の生活に戻りたい」と思うことがある。
その感情のうしろに、母の顔が浮かぶ。
母は私に、お洒落で高価な洋服や化粧品をたくさん買ってくれた。お洒落なカフェやレストランにもたくさん連れて行ってくれた。大学時代に住んでいたアパートは母が決めたが、新築、駅近のオートロックのところだった。
実家は裕福な家庭だった。母はきっと私に、キラキラした街の似合う、背筋の伸びた上品な女性になってほしかったのだと思う。
そして何より、できるだけ母のそばにいて欲しかったのだと思う。
母は父と二人で暮らしているが、父は病気がちで、生活はきっと明るいものではない。電話での母の声はいつも沈んでいる。
夫と結婚したことで私は、母の望むような女性ではなくなってしまった。
きっと母は、夫や夫の両親に娘をとられた、くらいのことを思っている。
私が、夫と毎日大笑いして楽しく暮らしている分、母に寂しい思いをさせ、精いっぱい心を込めて育てた娘が、遠くへ行ってしまった虚しさを感じさせていると思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
私は今、幸せなはずなのに。
私の選択は、母を幸せにできなかったのかもしれないと思うと、途端に自信が無くなってくる。
ああ、私は親離れできていないんだな。