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小児皮膚科医が本気になって娘の爪切りをしてみた話

今回は爪切りのお話です。
外来ではいつも患者さんにいろいろと爪切りについて説明をしていますが、それを本当にやってみたというお話です。
言うは易し。行うは…?
さて、どうなったでしょうか?

BEFORE

爪切り前の爪

何が問題なのか?

全体的に爪が伸びていますね。
特に中央部先端の伸びが強いために靴下に爪が引っかかってしまいます。
そうすると力がかかった拍子に爪が上に持ち上げられてしまい痛みが出てしまいます。
また、靴下や靴先にも負荷がかかるでしょう。少なくとも靴下の先端部分は破けやすくなっています。

AFTER

画像が少しピンボケ気味なのはご容赦ください。
こちらが爪切り後の形となります。
これから、どのようなポイントに気をつけて爪切りを行ったのかを説明していきましょう。

使った道具

今回使用した道具は子供のいるおうちではかなり高い確率で置いてあるもののみです。
・子供用の爪切りハサミ
・ママさんが昔使っていた爪やすり
だけです。

爪切りは使わないの?

爪切りは自分の爪を切るときに使うものという認識でいたほうが良いかと思います。
ほかの人の爪を切るときには向いていない道具です。
爪切りの難点はなんといっても
・刃が湾曲していること
です。そのためにイメージしたカーブを作ることができません
また、刃の端っこで切ってしまった場合、一部の爪が残ってしまいます。
特にその残った爪は「鬼のツノ」みたいにとがっていることが多く、それが爪の周りの肉に食い込むことによって、いわゆる「刺し爪」が発生します。その後そこに炎症感染を起こし、赤くはれてしまうわけです。
あくまでも自分の爪を切るのに爪切りを使いましょう。

ではほかの人の爪を切る場合には何を使えばいいのか?
成人の場合は爪切り用のニッパーが使いやすいでしょう。
先の細い、少しカーブのあるもの。そして可能であれば重いものがおすすめです。
クリニックでは爪切りニッパーとしてスチールとクロム製を用意してありますが、刺し爪、巻き爪の治療の時は原則としてクロムニッパーを使います。
(なお、スチール製のニッパーはイボやウオノメを削るときに使用することが多いです)
高齢者の肥厚した爪にもクロム製のニッパーを使っています。
ただ、小児では成人よりも爪は薄いのでそこまでは必要ありません。小学生までは赤ちゃん用の爪切りハサミで十分に対応可能です。

爪ヤスリの選び方

爪ヤスリで削りましょうと言われると皆さんに質問されるのは何を使えば良いかという話です。
こちらはおうちにあるママさんの爪ヤスリを使えばそれで充分とお話しています。なければ爪切りにくっついている爪ヤスリでも問題ありません。
ヤスリの目の粗さについてですが、こちらは細かいものでよいでしょう。小児は成人よりも爪が柔らかいので細かいヤスリでも十分に役に立ちます。

爪を切るときのポイントは?

1)基本はスクエアカット

緑の形になるように爪を整えていきます

足の爪切りの基本はスクエアカットです。最初は四角くなるように切っていきましょう。
キモは頂点部分です。その頂点は可能な限り皮膚の外に置くこと。
これがポイントです。
頂点つまり先端側面が皮膚の中に潜り込んでしまうと、爪が伸びたときにその方向によっては肉の中に潜り込むように進行することがあります。
その結果できるのが「刺し爪」です。なので、先端部は常に皮膚の外にあるようにしたほうが予防になるのです。

2)カドは外に。でも矯めて。

赤丸がポイント。

次に頂点部分の形を調整していきます。
こちらのポイントは柔らかく丸めていくこと。
アールをつけるような感じでやすりで丸く調整していきましょう。
ポイントは側方の湾曲を確認しながら角を削っていくことです。
爪の幅と足の指の幅、そして荷重のかかり方で爪の側方の湾曲状態は決められます。こちらは個人差の強いところです。
まだ小児ではそこまで激しい湾曲を示すことはないのですが、その湾曲した下の部分は皮膚に刺さりこんでいる子がたまにいます。
爪切りをした後に湾曲した先端部が伸びてしまうんですね。そこが刺さってしまう。
そのために頂点部分は爪の下も覗き込みながら、やすりで角を少しだけ丸めてあげるのがポイントです。
え、わかりにくい?そうですねえ…

3)上から爪切りで切るとこうなってしまうのです…

さて、爪切りがおすすめできない理由について簡単なモデルを使って説明しましょう。
必要なのは紙と鉛筆、そしてハサミだけです。

まず、爪切りで切るラインを書いてみましょう。

最初に紙の端の部分を折り曲げます。
実際にはここまで極端に側方に湾曲している爪の子はいませんが、
(高齢者では目にします)
今回はあくまでもたとえ話なので。
そこにきれいなカーブを描いた形でラインを書きましょう。

線に合わせて上からハサミをいれます

そのラインに合わせてハサミを入れます。
こちら、上から(つまり奥行状態が認識できない状況で)カーブのある爪切りで切った形となりますね。
まあ、上から見る分にはきれいに切れているように見えますよね。
上からは…
では実際に斜めから見るとどうでしょうか?

はい、こちらです。

おやおや?トゲができていますね

真上から見るときれいに切れていたように見える爪ですが、斜めからだと、明らかに奥にトゲ状の突起ができていることがわかります。
この突起部分がささりこみ、炎症を起こしたり感染を起こしたりで大変なことになるのです。
え?そうはならんやろって?
いえいえ、毎週外来で目にする爪の形です。
そしてその爪のトゲを目にするのは、誰かが痛みに悲鳴を上げながら爪を切られた後なのです。
だから爪の切り方について皮膚科医は何度もなんども説明するのです…

ただ、この状況になる前に、爪の下を確認しながらヤスリをかけてあげることで十分に予防はできますから。
角丸くするの、とても大事。

4)凹凸はヤスリで整えていく

どうしてもハサミを入れていくと、爪に凹凸ができます。
また、突起もできることがありますね。
こちらもヤスリをかけて丹念に削っていきます。
凹凸があるとそこに引っ掛けて傷ができます。また、爪がはがれる原因になったり、靴下が破れる原因になるので、親が指先で確認しながら削っていきましょう。

5)深さ方向もお忘れなく

さて、これで爪切りがおしまい。なわけではありません。
次に深さ方向にも気を配っていきましょう。
深さって何ですか?と思われるかもしれませんが、こちらです。

断面図。
(なお、指は「つ」の字だったりします)

このイラストの紫の部分が爪ですね。
こちらの側面から見た形を整える必要があります。
イラストではわかりやすいように長方形にしていますが、小児の爪は非常に薄いので、ちょうどカッターナイフの刃のようになっているのです。
爪を切るときの角度によってはちょうど刃が立っているようにもなります。それが何かをスパッと…
怖いですねえ。
なので、このような形にヤスリで削ります。

赤線のように削ります

そうすれば、爪の先端部が引っかかる可能性は少なくなりますよね

ここまで行えば終了です。

他の指の切り方は?

今回は親指をメインにお話を進めてきました。
あとはほかの指も同じような形で進めていきましょう。
親指以外は刺し爪のリスクは少なく、ほかの指に爪が当たるリスクは高くなります。
そのために角はよりしっかりと丸めてあげたほうがいいでしょう。

足の指全体BEFORE

足の指全体AFTER

だいぶきれいになりましたね。これでもう引っかかることもないでしょう!




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