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ショートショート11.『ゾンビダイエット』
あぁ、なんて醜いのだろう…。
裕子は鏡の前に立ち自分の身体を見ながらそう思った。痩せたい。痩せたい。痩せたい。
将来、綺麗なウェディングドレスを着て結婚式を挙げるというのが裕子の夢だった。その夢のために、裕子はこれまで様々なダイエットに挑戦してきたが、長続きせず成功した試しがなかった。
そんな裕子がインターネットで次のダイエット方法を探していると、ある広告が出てきた。
『ゾンビダイエットで激痩せ!』
ゾンビダイエット? 裕子の人差し指は脳に許可を得ることなく反射的に広告を連打した。ゾンビダイエットの方法、それはゾンビのように土の中に埋まり、とにもかくにも何もしない、というものだった。土の中に埋まっているため飲食はもちろんできない。五感は全て遮断され外界からの刺激は何もない。いわゆる動物の冬眠のようなものだ。こんなの、痩せるに決まっている。
次の日には近所の空き地に目をつけ、土を掘り始めた。この行動力は裕子の長所だった。6時間かけて人がすっぽり入る程度の穴ができあがった。裕子はその穴に入り、頭から土を被った。土の温度が心地いい。裕子は掘削作業の疲れから、すぐに眠りに落ちた。
ドドドドド。
うるさいなぁ。せっかく気持ちよく眠ってたのに。
「うわあ!」
建築作業をしていた大工が、土の中から生きた人間が出てきたことに驚き悲鳴をあげた。裕子は寝ぼけていたので大工のことなど相手にする余裕はなかった。どれくらい眠っていたのだろう。街中をトボトボと歩く裕子。すれ違う人々はみな裕子を振り返り、おぞましいものを見たような表情を浮かべる。道端に結婚式場があった。ウェディングドレスがショーウィンドウに飾られている。
裕子はそちらの方を見ながら思った。
あぁ、なんて美しいのだろう…。
しかし裕子が見惚れていたのは、ウェディングドレスではなく、ガラスに映ったまるでゾンビのように痩せこけた自分の姿だった。